オンラインゲームの世界で、乙女ゲームのシナリオが組み込まれるらしい。

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 いつも身に着けているお守り品のペンダントが、壊れかけていたようだ。

 特別なアイテムは耐久値が設定されているから、壊れる前に修理に出さないといけないんだよな。


 俺は、そのペンダントを開いて中にある写真を見つめた。

 

 そこにはこの仮想世界で出会った、姫コスプレイヤーの写真が入っていた。


 もう彼女とは会えない。一緒には生きてはいけない。


 彼女と付き合っていたのは過去の事だった。


 でも俺は、数日後にその少女そっくりの人物をみつける。


 ただしその人は、生きた人間ではなかったが。






 俺達がやっているオンラインゲームに中に、乙女ゲームのシナリオが組み込まれるらしい。


 って、言ってもよく分かんないだろうから、最初から説明しようか。


 俺達がやっているオンラインゲーム「セブン・オンライン」には七つの国がある。


 それぞれの国にはいろいろな特徴があって、プレイヤーは好きな国を選んで冒険を始めるのがセオリーだ。


 そんな「セブン・オンライン」では一人で楽しむのが基本だった。


 しかし、プレイヤーが増えてきたため、運営が大勢で楽しめる要素を追加したらしい。


 それが乙女ゲームシナリオの追加だ。


 一応原作のシナリオが別にあるんだけど、それを「セブン・オンライン」バージョンに特別に組み替えたらしい。


 作者監修の特別シナリオ?

 みたいな。


 舞台となるのは俺もいる国、火の国だな。


 その国のお姫様が、色々な攻略対象と恋をしていくっていうのが大筋の流れ。


 炎のように真っ赤に燃え上がるのが恋だとかそんな理由で、他の国ではなくて火の国になったんだっけ。


 でも、それだけだと普通のゲームと同じだろ。


 だから、俺達プレイヤーは盛り上げ役となって、主人公であるお姫様、(元カノ似)の支援をしていくらしい。


 くっつけたい攻略対象を選んで応援していくんだとさ。


 オンラインゲームが舞台だから、数の力が必要になるらしい。








 クエスト「伝説の花を咲かせよう」


 最初のクエストは伝説の花を咲かせよう。


 というクエストだ。


 国を盛り上げるために、土地を整えて巨大な花園を作り出すとかいう話らしい。

 国作り要素も入ってるみたいだな。

 観光目的の人間を呼び込むために、綺麗な花の種を多く集める事も必要だ。


 そういうわけで俺達はえんやこらえんやこらと、雑草引き抜いたり、でこぼこの土地を平たんにしたり、花の種集めをする羽目になった。


 腰が痛い。


 でも、苦労にみあった結果が出たようだ。


 広大な土地に何千本・何万本の花が咲く光景は絶景だった。


 目玉である伝説の花の種を探すために、巨大ドラゴンの討伐も行った。


 ドラゴンの寝床近くにあった花の種を収穫してきた。

 俺達はそれをうえて、真実の愛に反応して光り輝く、なんて花を咲かせる。


 クエストに参加した連中の中で、何人かカップルが産まれたのは良い思い出だったな。


 俺はできなかったけど。


 くっ、悔しくなんかないぞ!


 とにかく、クエストは成功。

 ただの観光地だけではなく、恋人達の聖地になりそうだ。


 乙女ゲームのキャラはしっかりと恋愛イベントを起こしていた。

 攻略対象者達それぞれと、花の話題で盛り上がったり、花を贈り合ったり。

 この段階では、まだ誰のルートに入るか決まってないみたいだな。






 クエスト「汚染された川をきれいにしよう」


 国を豊かにする計画として、お姫様から頼まれたのは、汚れた川の浄化だ。

 訪れる観光客が多くなってきたため、彼等が放置するゴミが問題になってきたようだ。

 ここらへん、現実世界と変わんないな。


 そういうわけで、観光地の一つである川の掃除をすることに。

 地味なゴミ拾いが中心か?

 と思いきや、そうでもなさそうだ。


 汚れた水が大好きな、巨大ヘドロモンスターが住み着いて大変な事になった。


 やつを攻撃するために、敵に効果的な浄化水というアイテムをかき集めて対抗する事に。


 苦労して集めたアイテムはきちんと効果を発揮。綺麗になった水に耐えられなかったヘドロモンスターは弱体化した。


 後は俺達で、チクチク攻撃して倒す事ができた。


 これでクエストは終了。

 一つ目よりは楽だったけれど、やはりヘドロモンスターが出てくるまでのゴミ拾いが大変だったな。


 他のプレイヤーと協力してこそだ。

 大人数が集まれば集まるほど、効率がいいから、掲示板で暇な奴らを読んでみよう。


 お姫様と攻略対象達は、綺麗になった川に満足したようだ。


 一部のプレイヤー、恋に積極的なカップルたちが、デートスポットにするようにもなった。


 俺?

 あいかわらずそんな相手はいないね。

 さみしい。






 クエスト「攻略対象者達の頼み事」


 どうやらここでルート分岐がするらしい。


 推しの攻略対象を見つけて、応援しなければならない。


 って言っても、俺は男だからな。


 こういうクエストは珍しいから参加してるわけで、本気で人の恋路を応援するほど聖人じゃないし。

 ちょっとお姫様が昔の恋人に似てたから、やってみるかなって感じなだけだったし。


 恋人欲しい。


 とりあえず、クエスト内容を見て決める事にした。


「お姫様の為に幻の鳥を見つけたい」「お姫様の為に美味しいお菓子を作りたい」とかいう内容だった。


 希少動物だったり、希少材料が必要だったりするので、どれも探す際に人手が必要なクエストだ。


 でも俺が気になったのは「お姫様のアルバムを見つけたい」だ。


 他の奴らは、ご機嫌取りのアイテムを調達するのに必死になってる感じだけど、こいつだけなんか方向性が違うんだよな。


 で、クエスト依頼主を見て見ると、そいつは隠し攻略対象だった。


 はー、他の登場人物と差別化を図るためってやつか。


 どうせするなら、ご機嫌取りするより人助けした方がいいだろうし、俺はそいつのクエストを選択する事にした。


 お姫様は子供の頃は普通の一般人として生活していたらしいが、先代の王が亡くなった事で王宮で生活することになった。


 いろいろあって、今はお姫様と暮らしているが、引っ越しの時にアルバムをなくしてしまったらしい。


 それで、隠し攻略対象が探しているのだとか。


 俺は、クエストにかかれていたヒントを元にさっそく捜索。


 暇な知り合いにも声をかけて、あちこちを探し回る事にした。


 アルバムはなかなか見つからなくて苦労したけれど、隠し攻略対象からお姫様の幼少のころの話が色々きけて面白かったな。


 子供のころはやんちゃだったとか。

 走り回ってたとか。


 その事を話す隠し攻略対象は楽しそうだったな。


 しかもその男、実は主人公とは幼馴染で、お姫様になっても陰ながら見守っていたとか、泣けるじゃねぇか。


 お前こそがお姫様にふさわしい男だ。


 で、肝心のアルバムはというと、お姫様が暮らしていた昔の家の、階段下の隠し部屋から発見。


 元はそんな所にスペースはなかったらしいが、家のスペースを有効活用するために作り出したのだとか。


 庶民的な考えだな。


 クエスト完了でアルバムは無事にお姫様の手に渡ったけれど、他の攻略対象達が人気すぎた。


 もうすでに他のクエストが終了していたらしい。


 それで、正統派キャラである騎士ルートに入ったとか。


 どんまい隠し攻略対象、飲む時はつきあうぞ?










 クエスト「ツリーの飾り付けをしよう」


 最後のクエストだ。

 乙女ゲームの最大の山場、告白イベントに関するもの。


 なに?

 恋愛は、付き合ってからの方が、結婚してからの方が長い?。


 そういう野暮な事はいわない。


 細かい事はいいんだよ。


 世界一の観光名所をつくるために、国の広場に巨大なツリーを作る事にした。


 クリスマスっぽい日がこの世界にもあるらしいので、その記念日にあわせて作るらしい。


 それで、巨大な木を探してあっちこっち。


 見つけた後はその木を運ぶために、何百人ものプレイヤーでひぃひぃ。


 かざりつけの調達でまたあっちこっち。


 綺麗な鉱石とか花とかを加工したりもあったな。


 それで、何とかして全部の飾りをツリーへ。


 記念日当日には豪華なツリーができあがった。


 クエスト達成だ。


 お姫様は、正統派キャラである騎士に告って、見事ルートインってやつだ。


 あっ、陰で隠し攻略対象が涙ぐんでる。


 元気だせよ。








 これで、長かった恋愛クエストも終了かと思うと、感慨深いな。


 きらきら輝くツリーを前にして物思いにふける。


 クエスト関係で知り合ったプレイヤーも多いだけに、大きな思い出になるだろう。


 ところが、最後に大きなクエストが残っていたらしい。


 光り物大好きなドラゴン二体がツリーを襲撃しにやってくる。


 ちょっと前のクエストで戦ったのより、かなり大きい。


 俺達プレイヤーは最後の祭りだとばかりに、戦闘に参加。


 盛大に火花を散らして、ドラゴンをやっつけた。


 そこで正式にクエスト終了だ。


 クエスト参加者に運営から、記念品がプレゼントされた。


 人気デートテーマパーク(仮想世界)のチケット。


 そんな相手いません。嫌味か。






 ともかくクエストは、これで本当に終わった、よな?


 今度こそ他のプレイヤー達とお疲れ様を言い合った。


 後日オフ会なるものが開催されるらしい。


 そういうのには興味なかったけれど、今回はちょっとだけ好奇心が勝った。


 人の恋路を応援してやろうっていうもの好き共の集まりか、行ってみると案外面白いかもな。


 でも俺は、この世界から出る事が出来ないから、無理だ。


 俺はお守り品として首から下げているペンダントを開く。


 暇つぶし程度に考えてたけど、案外面白かったな。


 そこにある姫コスプレイヤーの女性の顔を見つめながら、今後の予定について考えをめぐらせていった。


「あのっ、すみません!」


 背中から女性プレイヤーの声がする。


「ヨータ。ヨータなんでしょ!?」


 それは聞きなれた声だった。


「あれ? 違ったかな。人違い? そうだよね。だっているわけないもん。ヨータはもうこの世には」


 俺は振り返らず足早に、その場から歩き去っていった。


 ドレス姿が個性な彼女は早歩きで追ってこれないから。


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