第13話 お金

13. お金



 シンは続けて気になっていたもう一つのことを質問してみることにした。


「もう一つ聞いてもいいですが?この辺りのお金のことです」

「なんだ?」

「あのこの世界のお金の価値はどのくらいなんでしょうか?金貨1枚で油100リットルということは分ったのですが、油は貴重なものなんですよね?」

「そうだな。こんな闇の世界では油はどうしても必要だものだからな」

「金貨100枚で大金貨1枚ということは、銀貨も100枚で金貨1枚ですか?」

「ああそのとおりだ。だが銅貨は10枚で銀貨1枚だな」

「銅貨1枚で何が変えますか?」

「うーん。プロト1つで銅貨1枚」

「プロトって何ですか?」

「プロトか? あおイリス、プロトを2つ出してくれんか?」

「分かりました」

 そう言って、後ろの荷物の中から、小さな丸いパンのようなものをイリスが渡してくれた。

「ほら、これを食べて見ろ。これがプロトだ」

「ありがとうございます」

 どう見てもパンだな。丸く焼いたパンで、サクッとして食感だ。

「うん。うまい!」

「そうか良かった。これが一般的な食事だ」

「食堂でちゃんとした食事をしたいなら銀貨1枚くらいを考えておけばいい」

「なるほど」

 シンはプロトを一つ食べて、急にお腹が空いてきたのを感じ、シンはバックパックに昼食のつもりで入れたバターロールパンの袋を取り出した。プロトと呼ばれていたパンと、ロールパンの大きさは同じくらいだ。ロールパンは6個入っているので、一つずつ、ヴォルフガングとイリスに勧めてみることにした。

「これは、私の世界のパンです。プロトと同じようなものです。よければどうぞ」

 そう言って差し出すと、二人とも興味深そうにバターロールに手をだした。そして、口に入れると、二人とも驚いたような顔をした。

「うまいなぁこれは!」

「ええ、おいしいです。それに、とても柔らかいですね。あと真ん中に何かはいっているみたいですがこれは?」

「これはマーガリンです。バターのようなものです」

「バターならここにもあるが、少し味がちがうな」

「バターの偽物みたいなものです。バターの方がおいしいと思います。でも、この世界にバターがあるのは嬉しいです。プロトにバターを塗ったりはしないんですか?」

「まぁそれが一般的な食べ方だな」

「よかった。それなら生きていけそうな気がします」

 お米よりもどちらかと言えばパンが好きなので、そのあたりは何とかなりそうだと、シンは少しほっとした。


 プロトはロールパンよりも食べ応えがある。銅貨1枚で100円くらいととりあえず考えると、銀貨が1枚で1000円、金貨は1枚で10万円、大金貨は1000万円だいたいそんな感じなのだろうか。とりあえず、そんなイメージで理解しておくことにした。



 すると、今度はヴォルフガングの方が何か聞きたそうな顔をしている。


「なぁシン殿。先ほど、あの辺りに洞窟があると言っていたな。俺は、あのあたりをいつも通っているんだが、あの近くに洞窟があるという話はこれまで一度も聞いたことがないんだ。国王の失踪と何か関係があるかもしれんと思っているんだが、今度その洞窟を案内してもらうことはできんか?」

「分かりました。私の方こそ、自分の世界に帰るためにはあの洞窟を通らないといけない気がするので、連れていっていただければ嬉しいです」

「もちろんだ」


 そんな話をしながらもうかれこれ3-4時間は竜車に揺られているだろうか。竜車はシンが思っていたよりも速度が速い気がした。

「あの、竜車というのはこんなにスピードが出るものなんですか?私の知っている馬車はこの半分くらいの速度しか出せないと思うんですが」

「まぁ荷物を載せている時は、この半分くらいの速度しか出せないがな、今は荷が空だし、少し急いでいるからな。夜になる前に、ラーン川を越えてしまいたんだ。明日の朝まで、川を渡れないとなれば、時間的にはかなり厳しいことになるからな」

「なるほど。それで、この速度がでているんですね」


 しかし、もうすでに暗い時間だというのに、これからさらに夜が来るというのはどういうことなのか少し不思議な気がした。

 目の前の道が少し開けて、ここからは長い下り坂になることもあり、遠くに川のようなものがぼんやりと見えてきているのが分かった。

「あの向こうに見えているのがラーン川ですか?」

「ああそうだ。あの川を今日中に渡ってしまいたいんだ」

 ふとシンは進む方向の左が、ずいぶん明るいことに気が付いた。

「あれ?あちらが少し明るいみたいですが、あの明かりは何ですか?」

 見ると、かなり先の方だがオレンジ色の光が地面からでているのが見てとれる。

「何だろうな。まぁいずれにしてもあれに構っていることはできんがな」

 そう言われても、シンは気になってそのオレンジの光の方をいつまでも眺めていた。すると、その光が少しずつ大きくなっていることに気が付いた。

「あれ?ひょっとして火事じゃないですか?」

「そうかもしれん・・・」

 ヴォルフガングは返事はするが、あまり気に留めてはいないようだ。

「ヴォルフガングさん、山火事ならどうなるんでしょう?」

「あの辺り一帯は火の海になってしまうかもしれんな・・・何だシン殿は気になるのか?」

「ええ、私には関係はないんですが、もし山火事になってしまったら大変なことにならないかなと・・・」

「・・・・・・・」

 後ろから今まで黙っていたイリスも身を乗り出して見入っている。

「だがな・・・時間がないんだ・・・」

「兄さん」

 イリスも気になりだしたようだ。

「チッ 仕方がない・・・2時間だ」

 そういうと、手綱を左の方に向け、山火事だと思われる方向にカイルは進みだした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜の巣窟 〜鍾乳洞に入ったはずなのにドラゴンが出てきました!〜 BOXY @BOXY3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ