異世界マッチングアプリ〜貴方の人生変えます!素敵な世界に転移して無双しませんか?あ、お代はしっかりいただきます!〜

海老島うみ

異世界マッチングアプリ〜貴方の人生変えます!素敵な世界に転移して無双しませんか?あ、お代はしっかりいただきます!〜

 スマホが壊れた。変な地図アプリのようなものがインストールされていた。Tpitter、BouTubuなどの他のアプリは全部消えている。メール、電話も起動でぎず、使えなかった。


「何だよこれ!」


 田中弘樹は仕事で岐阜県の郊外の工場に出張に来ていた。少しトラブルはあり責任者を叱責したが、新商品の生産チェックは順調で何事なく終わった。

 気持ち的にはスキップと鼻歌でルンルンとホテルにチェックインしたのに!さっきスマホを見たらこれだ。郊外と言っても、ホテルの場所も山間部に近く、携帯ショップに今から行っても間に合いそうにない。


 弘樹はイライラして、やる事がないのでテレビをつける。

 明日も工場に行って生産チェックをしなければいけない。その間に緊急の連絡が来たらどうしようと、心配する。遅くともスマホの復旧は明日の夕方になるだろう。


 焦ってもどうしようもない。テレビ番組は自分好みの物はなく、弘樹は何もする事が無くなってしまった。

 無意識にスマホを触る。先程と画面は変わっておらず、見知らぬ地図アプリだけが表示されている。どうせ暇なのだ、怪しかったらすぐ電源を落とせばいい、とそのアプリをタップして起動した。


名前を入力してください


 起動後、真っ白な画面にその文字と、入力スペースがでる。最初から怪しすぎる、と弘樹は思ったが、ただのゲームかもしれない。カード情報さえ抜かれなければ大丈夫だろうとヒロキと入力した。


 その瞬間スマホの画面が異常に発光し、弘樹は眩しくて腕で目元を覆う。


「うわっ!」


 しばらくして腕をおろし、恐る恐る目を開けると、真っ白な空間にヒロキは立っていた。目の前にピンクの髪色の、ゲームやアニメに出てきそうな露出の高い、ファンタジー系の衣装のコスプレ女性が立っていた。


「ご利用、ありがとうございます〜! 担当のリリアムでぇす!」


 彼女がにっこりと笑いながらそう言った。弘樹は、訳がわからない。ご利用ありがとうございます、とは、もしかしてそういうサービスを利用した人だと思われているのだろうか?だとしたら部屋を間違えている。リリアムさんとやらに早くお帰り願おう。


「あの〜頼んだ覚えはないです、多分部屋を間違えちゃってます」


「いいえ、ヒロキ様。あなたは確かにご利用されています。ここは異世界マッチングサービスをご提供しております」


 異世界マッチングサービスとは何だろうか。異世界というと、仕事とかリアルの生活が嫌になった人が楽しく暮らせる場所、深夜アニメで見たことがある。結構面白いよね。


「はぁ、自分は明日仕事があるんで、そういうのは本当にいいです」


 それを聞き、リリアムは驚く。


「ええ〜!! 大体の人はわーい! って喜んで異世界に行っちゃいますよ! お試しだけでも、ね? 異世界で死んだら、そのまま死んじゃいますが、今なら最強チート能力パックも無料でおつけしちゃいます」


「あ、いや自分興味ないんで」


 長ったらしいセールストークに付き合う気は無かった。早く部屋に帰して欲しい、しかし部屋にいたはずなのに何故ここにいるのだろう。


「では、お試しコースに出発〜!」


 勝手に進められ、弘樹は抗議の声をあげようとしたが、気がつくと森の中にいた。


「キャー!! 誰か助けて〜!!!」


 叫び声が聞こえる。急いで声のした方に向かうと、絶世の美女が緑色の化け物に襲われていた。助けなければ、と弘樹は思い、化け物に向かって走り出す。都合よく手には剣が握られており、それで斬りつけた。


「グワー!!!」


 化け物は一瞬でバラバラになり、砂になって消えていった。危ないところだったと弘樹は美女に声をかける。


「大丈夫ですか?」


「はい……なんてお強いお方……!」


 美女は顔を赤くして、こちらを熱い眼差しで見ている。あ、こういうの悪くないな。めっちゃ気持ちいい。


「貴方様は命の恩人です。どうか、一緒に旅のお供をさせてください。その、この身体でよければ貴方様の自由にして構いません……」


 そう言って、白いドレスのようなものを脱ぎ始めた。彼女の白い素肌が……


「はい、どうでした?お試しパックは?」


 リリアムの声で気がつくと、また真っ白な空間にいた。なんでそこで終わりなんだ! 商売うますぎだろ!


「いや、まあよかったよ」


弘樹はクールに言ってはいるが、おそらく鼻の下は伸びている。


「どうします?続き試したければ、このまま契約できますよ?」


弘樹は迷った。さっきの美女ともしかしたらもしかするかもしれない。しかし、明日の仕事は大事なのだ。あの製品を待ってる人がいるのだ!


弘樹は今の会社で辛い事も悔しくてやりきれないこともそれなりにあった。だが、なんとか歯を食いしばり、家族や上司に支えられて続けてきたのだ。それを簡単には捨てられない。


「明日、大事な仕事あるので。本当申し訳ないです」


「……分かりました。まだ無料サービス継続期間ですので、また機会ありましたらご利用ください」


案外あっさり引いてくれた。リリアムは白い光に包まれていく。また目の前が眩しくなり、目を閉じる。



 熱い、左側の頬が異常に熱い。あまりの不快感に目を開けると、元の部屋だった。

 ああ、戻ってきたのか。全部夢だったんだ。スーツのまま寝ていたようだった。スマホが熱くなっている。どうやらずっとそこに顔をつけていたようだった。

 弘樹がスマホをつけると電池切れなのか、電源が入らなかった。


「ん、ところで今何時だ?」


 どのくらい眠っていたのだろうと時計を見ると、AM8:00と書いてある。まずい!あと30分で遅刻だ! 現場を取り仕切るものとして、こんな事はあってはならない。 

 弘樹はスーツを脱ぎ捨てシャワーを浴びてもう一度スーツを着てダッシュで工場に向かう。


「おはようございます!」


 工場の事務所に駆け込み、ギリギリ遅刻はまぬがれた。今日も生産チェックをバリバリこなそう! 弘樹は自分を鼓舞する。

 しかし、現場は混乱していた。いつもの担当者がいない。


「あれ、担当の鈴木さんは?」


 弘樹が近くにいた作業員に聞くと、昨日の夜から連絡が取れないらしかった。もしかして、昨日俺が叱責したからだろうか……。あんなに強く言うことなかったと、弘樹は自分を責める。

 鈴木さんに連絡しようと、弘樹はスマホの電源を入れた。充電が切れていたので充電バッテリーがささったままだ。


そういえば、壊れてるんだよなぁとスマホの画面を見ると、いつもの画面だった。変なアプリも入っていない。鈴木さんに電話ができそうで、弘樹はほっと安堵する。

 しかし、弘樹が電話をかけても鈴木さんは出なかった。


「おはようございます……」


 そう生気のない声で事務所に入ってきたのは鈴木さんだった。


「おはよう! 心配したよ、昨日連絡取れなかったって」


 弘樹はなるべく明るく受け答えをするが、鈴木さんは弘樹を無視してステータスオープン! と叫んだ。


「え? どうしたの?」


自分の言葉を聞くどころか、なんだか異様な雰囲気だ。


「うわ! 本当にレベル100だぁー!! 田中、お前絶対俺に勝てないねぇ! 死ねや!」


 腹部に鈍い衝撃のあと、激痛が起こる。弘樹は自分の血でできた血溜まりに倒れて絶命した。それを見てゲラゲラと笑いながら、鈴木はスマホに語りかける。


「すごいや! この最強チート能力パックと、『俺の能力を認めないクソ上司は俺がチート能力を手に入れた事に気が付かない無能だった。今更謝ってももう遅い、復讐の時間だ!』の世界。リリアムちゃん、ちょっと高かったけどマッチングしてくれてありがとう〜!!!」


画面のピンクの髪色の女性は、サービスのご利用ありがとうございます! とにっこり鈴木に笑いかけた。


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