じゃれあってない

「相変わらず仲いいわねえ」


席につくと同僚の松永理沙まつなが りさがつつつーっと寄ってきて声をかけてきた。

彼女は透子の同僚でピアノ講師の1年先輩だ。

“先輩”といえども透子と同じ年齢なので気心知れた"友達"でもある。

ゆえに圭太とも年が同じなので仕事を離れると3人で遊ぶことも多い。


「偶然カフェブースを通りかかったのよ。」


と言うと持っていた楽譜を透子のデスクに置いて透子の隣の席に腰かけた。透子の隣の席の持ち主は今ちょうどリトミックのレッスンをしているのでしばらく帰ってこない。


透子たちがいる部屋から廊下を挟んだ向かいにちょっとした休憩や打ち合わせなどできるカフェスペースがありさっきまで圭太とそこで話してたのだ。

理沙はそれを見ていたのだろう。


「で、今日の貢物はなに?」


そこまで見てたのか。

というかもはや最初からいたのではないのだろうか。


「『 Le chocolate bijou (ル・ショコラ・ビジュ) 』のチョコだって。みんなで食べてって言ってたよ」


透子は淡いブルーの包装紙に包まれた箱を理沙に渡した。

理沙はそれを受けとり喜々として淡いピンクのリボンをほどき包装紙を丁寧に剥がして箱を開けた。

こういうところは几帳面である。


きれいに並んだまるでスモーキークォーツのように美しく輝くチョコレートに二人は声を上げた。


「さすが圭太ね!センスいい!」


「わぁーわたし初めて食べるかも」


「じゃぁわたし配ってくるね。あ、透子、先に取っちゃいなよ。透子の担当だし。というかむしろ透子にでしょ?」


「や、わたしにってことじゃないけど、でもおいしそうだから先にいただくね」


「うんうん!じゃぁみんなに配ってくるね」


と理沙はいそいそと席を立った。

初めて食べたけどほんと圭太あいつってば女子の心を掴むのが上手いわねと透子は感心した。

そして透子から見てもすごくモテるのに特定の彼女がいないことを不思議に思うのだった。


*


「おぅ。・・・なんで理沙もいんだよ。オレ誘ってねーけど。」


待ち合わせ場所につくと圭太は理沙と透子を交互に見ながら言った。


「いいじゃなーい。1人も2人も変わんないわよ」


理沙は圭太の腕をぱしっと叩く。


「痛ぇよ!なんでオレの恋活に理沙が・・」


圭太は不服そうに口を尖らせた。


「あらなに。恋活してんの?この間合コンで知り合ったカナちゃんは?彼女になるかもって鼻の下伸ばしてたじゃない」


「おい、"鼻の下伸ばしてた"ってなんだよ」


「あら違うの?こうデレーっとして・・・」


「はいはい。そこまで。二人ともじゃれあわないの!行くわよ」


このままでは予約時間に間に合わないと思った透子は二人の背中を押した。


「じゃれあってねぇよ!」

「じゃれあってないわよ!」


仲良く声がそろう。

この二人付き合っちゃえばいいのに。

と透子はつくづく思うのだった。

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透明な音 瑶姫 るな @anzu-luna

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