第15話(50話) 自信

 いかにも陽キャな先輩が楽しそうに説明してくれた。



「バディ自己紹介はー、一番印象に残らなかったペアが、グラスに注がれたお酒をストップって言うまで全部飲みまーす!」


 は? 自己紹介くらい普通にさせろよ! ていうか陰キャな俺、圧倒的に不利じゃん!



 間髪入れずに俺に腕を組んでバディを組んだ先輩が「はーいじゃあウチから!」手を挙げた。え、まだ俺心の準備できてないんですけど!

 先輩、かなり明るめの金髪だしメイクは派手だしまつ毛バサバサだし香水の匂いキツイし、胸元バッチリ見せてきてるし。絵に書いたようなギャルだなぁ。俺の苦手なタイプかも……。


「ウチからいきまーす! 盛岡ユキナです! 経済学部2年、好きなのはネイルとコスメ集めで、テニスは初心者です! あ、あと……、好きなタイプは、歳下ですっ☆」


キラッと星を出したタイミングで、空いた片手で目元に裏ピースを当てている。

ピースした指の間から男を品定めしているのだろうか。ユキナさんはピースしたらスカウターが出てくるんですか?



「はい、じゃあ隣の背の高いキミ! 自己紹介してー」


 うわ、早速俺の番来ちゃったよ! どうしよう、例のごとく何も考えてなかった……。


「え、えーっと……。日笠ヨウです。経済学部1年、好きなものは本とゲームとアニメです。えと、あの、テニスは初心者で、あんまり得意じゃないというか、その、そもそも興味ないというか……」


 うつむいてどもりながら話していると。

同じ卓の中にいる人たちがポカンとした顔をしている。――完全に場の雰囲気が凍ってしまった。


 まずい! このままだと浮いたやつに見られてしまう! 何かフォローしなくては!


「あ! えーっと、このサークルにいるミホさんと同じシェアハウスに住んでて! 今日は、その、たまたまさっき道で出会って、連れてきてもらったというか、なんというか……」


 言ってしまったー! 苦肉の策でミホちゃんと同じシェアハウスに住んでること言ってしまったー! ミホちゃん、話のネタに出しちゃってごめん!


 すると、隣のユキナさんや他の先輩たちが、とんでもなく驚いた表情をしている。ユキナさんが口火を切った。


「えーっ! ミホと同じところ住んでるとか、まじウケんだけど! ミホの家、シェアハウスだったんだ! 初めて聞いた! まじウケんだけど!」


 何がそんなにウケているのかはよく分からないが、ミホちゃんはなぜかシェアハウスに住んでいることを言ってなかったことが分かった。もしかしたらミホちゃんが隠していた情報なのかもしれない。もしそうだとしたら、俺は言ってはいけないことを発言してしまったのかも……?



「ねぇねぇ、ミホってシェアハウスだとどんな感じなの? ミホん家に行きたいって言っても入れてもらえたことなくてさ! 教えてよ、ねぇねぇ!」


 隣でユキナさんが腕を絡ませてキラキラした表情で俺から情報を吸い上げようとしてくる。距離感がめちゃくちゃ近いなこの人。


「あ、えっと、これ以上は多分プライベートの話なので、言えないです……。次の人もあるかと思うので、どうぞ……」

「えーっ!? なんでよ、ケチ! 教えてくれたっていいじゃ~ん! ……後で詳しく教えてねっ?」


 ユキナさんはふてくされながらもスルーしてくれて、次の人の順番になった。

あぶねー! これ以上言ったら、ミホちゃんに俺がエロいラノベばっかり読んでることバラされてたかもしれない。ていうかもうアウトかも……怖すぎる……。



 そんなことを思いながらぼうっとしていると、あっという間に全員分の自己紹介は終わっていたようで。ユキナさんがとりまとめた。


「はい! この中で一番自己紹介の印象が薄かった人に指をさしてくださーい! せーのっ」



 みんなが一斉に指さした。――って、全員俺のこと指さしてる!?


「はい、決まりー! えーっと……ごめん、キミ、名前なんだっけ?」

「ひ、日笠ヨウです」

「あー! ヨウくんだ! ごめんごめん! ヨウくんとウチ2人で飲みまーす!」


 ユキナさん、バディのくせに俺の名前忘れんなよ!!!


 こうしてグラスにビールを注がれ、俺とユキナさんは一気に飲み干した。


 が、飲み干してグラスを置いた次の瞬間。別の女子の先輩が「ストップって言うまでねー」と言いながらまた俺のグラスにビールを注ぎだした。


 え、また飲むんですか? こりゃまた理不尽なゲームだな。まぁ一昨日の歓迎会のときよりは全然マシだけど。


 言われた通りにスッとビールを飲み干すと、隣のユキナさんは少し驚いた顔をしている。


「あれ? もしかして飲むのイヤじゃないの?」

「あ、はい。もっと理不尽なことされてたので」

「え? 理不尽?」

「あー、今のは忘れてください。なんでもないです」

「あ、そうなんだ……。新入生なら普通嫌がると思ったんだけど、なんかキミってリアクション薄いんだね」


 ユキナさん、なんだか少し残念そうな顔をしている。


 そうか、こういう時は新入生らしく嫌がる反応をすべきだったのか。陽キャだったらもっとリアクションが濃いのかな。次回に生かすべきか。でも、そもそも今ぜんぜん楽しくないんだよな、そんなテンションになれないんだよな。

 やっぱり俺は陰キャから変われないのかもしれない。

なんだか自信なくなって来たわ……。




 だんだんと気持ちが沈んできてしまった俺。

 卓ではみんな会話が盛り上がっているのに、俺は愛想笑いをするので精一杯。だめだ、疲れた。もうついていけないや。帰ろう……。

 

 俺は「もしもし」と耳にスマホを当てて電話がかかってきたフリをすると、隣のユキナさんに「すみません、用事ができたので帰ります」と言ってそそくさと荷物をまとめた。


「あれ? もう帰るの? ……もしかして、楽しくなかった?」

「いや、楽しかったですよ。ありがとうございました。それじゃ」


 俺はスッと席を立つと、ふすまを開けて部屋を出た。


「ちょっと!」


 背後からユキナさんに話しかけられる。


「あの、もし楽しくなかったらごめん! 完全にウチのせいだ……。今度、お詫びに何かするから」


 あれ、この人、ギャルなのに意外と人思いなんだな……。でも、普通だったら俺とは交わらない人種だろうし、お詫びも何もされなくていいや。


「何もしていただかなくて大丈夫ですよ、今日はありがとうございました。それじゃ」


 苦笑いをして前を向き、俺は店の扉を開けた。

 コレでもうブラックタイガーに入部することは無くなったな。ま、そもそも入る気なんてなかったけどね。




 外を出ると。

 外では、ショウが誰かと話している。


「なぁ、良いだろ? そんなに酔ってるなら俺が家に送ってやるって。近いから俺ん家でもいいよ?」

「だいじょうぶですー。自分で帰れますからぁ」

「とか言いながら足元めっちゃフラついてるじゃん? 大丈夫、何もしないからさ」

「良いですって! ショウさんは飲み会に戻ってくださいー」


 ……ショウのやつ、もしかして酔った女の子をお持ち帰りしようとしてないか? 本当にチャラいやつなんだな。

 誰がそんな目にあってるんだろ。


 チラッと覗いてみると……。



 え? もしかしてミホちゃん!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女子だらけのシェアハウスに住めば陰キャな俺でも陽キャになれるか研究会 正田マサ @8282create

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ