第3話 帰ってくる

「佐藤……?」


「シャロール」


「本当に佐藤なの?」


「ああ、そうだよ」


 そんな会話で目を覚ました。

 お母さんが、また幻覚と……。

 いや、お父さんの声も聞こえるな。


「お母さん、おはよう」


 いつものように、ベッドから起こすために手を差し伸べる。


「あれ?」


 ついに、僕も幻覚が……。


「ブレサル、お父さんにも挨拶しなさい」


「お、おはよう」


 やはり見える。

 お父さんが、そこにいる。


「心配かけたね、ブレサル」


 もしこれが本当のお父さんなら。


「僕はお父さんのことが大嫌いだ」


「え! どうして!?」


 僕や母さんを散々振り回して……。

 あっさり戻ってきて……。


「お父さん!」


 僕はお父さんを抱きしめる。


「ブレサル……」


「ふぁ〜、ブレサル?」


 あ、魔王ちゃんも起きたみたい。


「なぁ、父さんが戻ってきたんだよ!」


「おぉ! マジなのじゃ!?」


――――――――――――――――――――


「僕は、あの日以来ずっとさまよっていた」


「どことも言えない、不思議な空間を」


「そこではなにも感じない」

「音もしないし、真っ暗闇」

「歩いても、地面の感覚はふにゃふにゃで」


「正直死にたくなった」

「苦痛だった」


「それでも、自殺しなかったのにはワケがある」


「シャロールさ」


「彼女がいつも側で、励ましてくれた」

「僕がいる頃と変わらず、話しかけてくれた」

「一人なのに」

「僕は、そんな彼女を残して死ねないと思った」

「だから、今日まで帰る方法を考えていた」


「ブレサル、お前の声も聞こえたぞ」

「でも、お前は僕が戻ってこないことばかり言ってたな」

「まあ、現実を見ることは悪いことじゃない」

「ただ、ときには夢を見てみたらどうだ?」


――――――――――――――――――――


 こうして、再び平穏が訪れた。

 別れは、いつか来るものだ。

 もちろん僕にも。

 それを実感させるような出来事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

残したもの 砂漠の使徒 @461kuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る