06
それ見たことか。予想を全く裏切らない展開に、いっそ清々しい気分になった。
「おい……」
天井には豪勢なシャンデリア、床は大理石のように磨かれていて姿見と言っても良いくらいに自分の姿が写る。そして、絶対高級品だと断言できる調度品の数々。絨毯に至ってはふっかふかだ! ゲームの中や海外の映像でしか見たことのないような景色に、年甲斐もなくドキドキしてしまう。
まだ屋敷のエントランスだと言うのに、ここだけで運動会でもできそうな広さだとケイは思った。先程までいた城の謁見の間も相当な広さだったが、あれは完全に規格外サイズだ、うん。
「おい、人の話を聞いているのか?」
「え、ごめん。全然聞いてなかった!」
呆気にとられている間に、どうやらアドルファスに呼ばれていたらしい。素直に聞いていなかったと謝罪しながら振り返れば、アドルファスが呆れて溜め息を吐いていた。
聞いていなかったことに関しては悪いと思うが、ポンポンと進んでいく展開と景色に、正直ずっと情報の処理が追いつかないのだから仕方ない。
「お前……その田舎者のお上り感をどうにかしろ」
「お、お上り」
再度更に深いため息を吐き出したアドルファス。そこでようやっとケイも落ち着きを取り戻すことに成功する。と言っても、脳内の情報処理は相変わらず追い付いてはいないが。
「お帰りなさいませ、アドルファス様」
「あぁ、今戻った」
「お出迎えが遅くなり申し訳ございません」
「構わん、いつもより早いからな」
エントランスの階段上から人の良さそうな初老の男が下りてきた。燕尾服のような服装や口振りからして、執事というやつだろうか。
「アドルファス様、そちらのお方は……」
「……しばらく屋敷に置くことになった」
「失礼いたしました、お客人でございましたか」
初老の男はケイの方に向き直ると、人の良さそうな笑顔で挨拶をはじめた。
「私めはこの屋敷の執事を任されております、セバスと申します。よろしくお願いいたします、お客人」
「お、俺はケイです」
「ケイ様ですね。御用がございましたら何なりとお申し付けください」
綺麗な角度でお辞儀をする執事のセバス。ケイも吊られてお辞儀をしてしまった。
勤め先でも取引先でも、こんな綺麗なお辞儀をする人は見たことがなかったなと、思わず関心してしまう。
「アドルファス様、私はこれからケイ様のお部屋の支度をして参ります」
あとのことはメイドに、そう言い残してセバスは屋敷の奥へ消えていった。
「部屋の準備が出来るまで、お前はダイニングで大人しくしていろ」
「わっ、ちょっ!」
アドルファスに首根っこを掴まれ、ズルズルと引き摺られるようにして屋敷の中へ連れて行かれた。
この男、アレクシスの前と今では態度が違いすぎやしないだろうか? 成り行きとは言え……いくらアレクシスに押し付けられる形になったとは言え、この雑な扱いはないと思う。引き摺られながら、ケイはそう思わずにはいられなかった。
異世界転移Re:START 橋本しら子 @shirako_H
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