最終話 さらば、ゴブリン先生!? 後編

「担任、やっぱり辞めちゃうの?」

「騙していたのは事実だしな。不正していた奴らも全員とっ捕まったし、お役御免さ」


 生徒たちに何もしてやれない悔しさに、唇を噛みしめる。


「オレ様の力及ばず、申し訳ない」


 再度、ジャレスは頭をさせる。床を見るのも、もう何度目だろう。


「担任の、うそつき」


 うつむいていると、マノンの言葉が突き刺さった。


 マノンが席を立ち、ジャレスの前に立つ。


「ああ、何でも罵ってく……れ?」


 ジャレスは、マノンに抱きしめられた。


「担任、ありがとう」


 マノンの笑顔に、侮蔑の様子はない。優しさで満ちあふれていた。


 一瞬、ジャレスは呆れられたのかと思った。

 だが、すぐにその考えをふり払う。


 マノンは、そんな残酷な少女ではない。


「まったく、あたしたちがいないとダメね、担任って」


 微笑みながら、エステルも冗談を言う。


「そうだそうだ。俺たちが面倒見てやらねえとな」


 リードが生意気な口を叩く。


「僕らには、まだ先生のお知恵が必要です。これからも、よろしくお願いしますよ。担任」


 イヴォンが、メガネを整える。


他の生徒たちからも、励まし混じりの軽口が飛んできた。


「お前ら、怒ってねえのか? オレ様は、正式な魔王じゃねえんだぜ?」


 状況が飲み込めないジャレスは、マノンに問いかける。


「怒ってるよ」


 マノンは首を振った。


「けど、わたしたちが怒ってるのは、担任がスパイだったからじゃない。担任が嘘ついていたこと。わたしたちのことをちゃんと見ていたのは、本当だったんだよね?」


 いかにも、マノンらしい怒り方だ。


「まあ、そう、かな?」

「もっとハッキリ言って」


 煮え切らない態度がマズかったのか、さらにマノンから責められる。


「オレ様が干渉しなくたって、十分やっていけるくらいだってのは分かったぜ」


 マノンは首を振った。


「わたしは、近衛兵のお仕事を、断った」


 マノンの発言に、ジャレスは驚きを隠せない。

 Sランク以上の働きをしたというのに。


「マジか? 女王陛下のご命令だぜ? 一生安泰だ」

「断ったって懲罰を受けるわけじゃない」

 確かに、近衛兵のお仕事は誇り高い。でも、マノンが守りたいのは、困っている人たちだ。


「女王陛下は、色んな人が助けている。でも、わたしじゃないと助けられない人だって、きっといるから」


 ここまで、マノンは考えていた。


 マノンだって、出世したいと思っていたのだが。


「結構な額がもらえるぜ?」

「生活に困らないくらいあれば、ちょうどいい」


 結構マノンもお嬢様だったはずだが、随分と庶民的な言葉を言う。


「冒険者は、安定なんて望めないんだぜ」

「わたしがやりたいのは、人々を救うこと。人々が潤えば、自分たちの生活も保障される。王様だけを守っていても、他の民が苦しんでいるなら、それは王様を助けているとは言えない」


 マノンにだって、強かな一面があるのだ。


「そもそも、あたしが戦乙女を目指していたのも、王様だけを守る兵隊で終わりたくないんだって気づいたの。ママに勝ちたいってのもあるんだけど」


 エステルが付け加えた。


 何を言っても言い負かされそうだ。 


「あなたの負けです。ジャレス・ボウ・ヘイウッド。あなたはココでは魔王でも、砂礫公でもない。ただの担任なのです。それでいいではありませんか」


 最後に、副担任のオデットがトドメを刺す。


「わたしは、まだまだ担任から色々と教わりたい。鍛えて欲しい」


 生徒たちから懇願され、ジャレスは頭をかく。モニョモニョと呪文を唱え始める。


 瞬間、生徒全員のイスが折れた。


 イスの脚が折られ、生徒たちが床にズッコケる。


「あんた、何すんのよ!」


 怒ったエステルが、真っ先に立ち上がった。


「まったく、お前らどうしようもねえな!」


 ジャレスは窓枠に足を乗せる。


「しゃーねえなぁ。じゃあ、また追いかけっこするか!」


 振り返った後、ジャレスは窓から飛び降りた。


「あんたは! やっぱりアンタって最低だわ! 浄化して上げるから覚悟なさい!」


 エステルが、ランチャーを持って追いかけてくる。


「ギャハハハハーッ!」


 ジャレスはグラウンドを駆け回った。


「待ってセンセ! ゴーレムじゃ追いつけないよ! えーいこうなったら、フワッフーッ!」


 しんがりにいるネリーが、ゴーレムを巨大化させて押しつぶそうとする。


 かろうじて、ジャレスはゴーレムの手をかわす。


「担任」


 気がつくと、マノンがすぐそこまで迫っていた。


「絶対、あなたに追いついてみせるから」


 決意を秘めたマノンの言葉を、ジャレスは紳士に受け止める。だが、すぐに元のおどけた顔に戻した。


「ギャハッ! 一〇年早いんだよ!」


 まだ、力の差で追いつかれるわけにはいかない。

 彼らには自分よりさらに高みを目指して欲しいから。


 今から、楽しみだ。



 完

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魔王、元仲間である冒険者学校の校長に頼まれて、英雄の子孫を鍛え直す 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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