救済の神託

@HasumiChouji

救済の神託

黄金の冠を戴く母なるオリンピア競技祭よ、真実の女王よ。

ここで予言者は供物を捧げゼウスの御意志を仰ぐ。

雷鳴轟かすゼウスが何を人間に言わんとしているのかと。

「オリンピア祝勝歌」より


「我々は、彼の国の罪なき民と、あの競技会に参加した競技者達の命を、貴方への生贄に捧げました」

 古代より行なわれてきたある祝祭の現代における「祭祀長」は、彼が仕えてきた「神」にそう告げた。

「……生贄に捧げられし者達が『罪なき者』かは異論が有る上に、祭儀の内容も、かつてとは色々と違いが有ったが……うつろいの激しき人の世の事ゆえ、不満は抱くまい。そなたらの誠意はしかと受け取り、満足したぞ」

「はっ……。有り難き幸せ……。では……生贄と儀式の代償として……」

「その必要は無い」

「えっ……では……その……御約束は……?」

「そなたの願いを叶える為のモノは、あの祭儀の中で生まれ……そして、今、世界中に広まっている」

「では……我々、人類は……あの疫病から救われるのですね……」


 「現代におけるオリンピア競技祭」を実施した者達が、古代ギリシャの神々とは「人間に対する最大の救済は『死』」と嘯くような怪物である事に、ようやく気付いた頃……東京近辺で発生し、東京五輪により世界中に広まった、あの疫病の変異株によって、世界の半分以上の国々で国家体制の維持が困難になるまで人口が減少していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救済の神託 @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ