10月
厳しい残暑もなりをひそめ、湿度も落ち着き、ようやく秋の気配が感じられるようになってきた。
鏡の前で化粧水をつけながら、肌をチェックしていると、ある変化が見てとれた。
忌まわしい4年前のあのソバカスが、薄くなっている。
それだけではない。
肌にぼんやりとかかっていたくすみが取れて、透明感が出てきている。
万単位で投資した美白美容液か、ビタミンC導入か、はたまた肌のターンオーバー促進のために変えたクレンジングのおかげか。
どれが功を奏したかはわからないが。
鏡の前で小さくガッツポーズをしてしまった。
私は、紫外線を征したのだ。
薄くなってはいてもソバカスはソバカスだが、以前のコンシーラーくらいの強いカバーはせず、ファンデーションだけで隠せるようになったのは大きな進歩と言っていいだろう。
春先、「この対策があの頃の自分を救うことになりはしない」なんて考えもしたが、ここまで健闘できたのは、あの頃の自分がいたからなのかもしれない。
それと。
小さなことかもしれないが、あの暑い夏の日の、交差点での妙な連帯意識みたいなものも、私の背中を少しだけ押してくれたような気がしていた。
月光仮面と揶揄されようが、出費がかさもうが。
戦った者にだけ味わえるご褒美があるのだ。
出勤前につけていたテレビ画面には、ボルドー色のカットソーに身を包み、秋の装いになったニュースキャスターが、天気予報の締めの一言にかかろうとしているのが映っている。
「湿度も下がって秋の足音が感じられる今日この頃。みなさん、乾燥にはご注意ください!」
私としたことが、一本取られてしまった。
保湿対策という冬の戦いは、もうとっくに始まっていたのだ。
「…仕事終わったら、またコスメカウンターに行こうかな」
そう呟いて、テレビの電源を落とした。
高気圧はヴィーナスたちの交差点 sigh @sigh1117
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