年齢五百歳の美人な神様に告白してみたら、とても初心だった件

久野真一

想い人が超年上な件

「もう、めちゃくちゃ暑いなあ……」


 七月上旬、照りつける夏の日差しに悪態をつく俺。

 橋本草太はしもとそうた。高校二年生だ。

 帰宅部で、ちょっと変わった想い人が居るだけの普通の高校生。


珠子たまこさん、こんにちはー」


 『北野屋別館きたのやべっかん』と小さく書かれた店。

 一見民家―の扉をガラガラと開ける。

 中に入ると、涼やかな風が流れ込んで来て、ほっと一息だ。


「そーちゃん、おかえりー」


 ほわほわとした声で俺を出迎えるのは、北野珠子きたのたまこ

 珠姉と呼んでいる。

 一見すると十代後半と見紛う容姿に欧米人かと思うようなブロンドヘアー。

 一部の人にしか見えない狐耳としっぽに、大きな碧い瞳。

 そう。珠姉は、御年五百歳を超えるお稲荷さん。つまり、神様なのだ。


「ただいまー、珠子さん。かき氷一つ頼む」


 この北野屋別館は、お好み焼き屋『北野屋きたのや』の別館だ。

 あまり人目に触れたくない珠姉がいつも居座っている店。

 客も仲良くなった常連客オンリーで、客足もほとんど無い。


「うん。いつも通りイチゴ練乳でいい?」


 毎年、夏になると、ここはかき氷もやっているのだ。

 俺はイチゴ練乳味が好みで、彼女もそれをよく把握している。


「お願い」


 ベターッとカウンター席に顎を乗せて、いつも通りのやり取り。

 手早く、ブロック状の氷をかき氷器に乗せて、かき氷を作っていく珠姉。

 何時見ても鮮やかな手際だ。


「はい。イチゴ練乳かき氷お待ちどうさん」

「ありがとう、珠子さん」


 とお礼を言ったのだけど、珠姉からは不満げな顔。


「俺、何か、気に触る事でも言った?」

「そうじゃないけど、私としてはやっぱり珠姉たまねえの方が嬉しいよ」


 御年数百歳にもなろうというのに、珠子さんは目上に見られるのを嫌がる。

 大昔は俺も敬語を使っていたけど、「敬語禁止!」と言われて以来、タメだ。

 そして、「さん」づけも嫌らしい。俺もいい加減弁えないと、と思って、

 「さん」づけをしてみただけなんだけど。


「じゃあ、珠姉」

「うん。どうしたの?」


 急に機嫌がよくなる辺り、とても現金だ。


「本館の方、雪姉ゆきねえに任せたままでいいの?」


 お好み焼き屋『北野屋』には本館がある。

 閑散とした別館と違って、長蛇の列が出来る大人気店だ。


「ああいうのは、人前に出るのが好きな雪にまかせておけばいいの」

「珠姉も似合うと思うぞ」

「私は、こうして常連さんとゆったりする時間が好きなの」


 御年数百歳ということもあって、珠姉と妹の雪姉は人間国宝に指定されている。

 国で、いや世界でも数少ない不老長寿の人あるいは神として、見物客も数多い。

 ただ、珠姉はそういうのが嫌いで、こうして別館でひっそりとするのを好むのだ。


「今年の夏は去年よりも、さらに暑くなって来たなあ」

「百年前くらいはもう少し涼しかったんだけど。地球温暖化の影響かなー」


 と指を顎に添えて考えるしぐさ。


「いつも思うけど、珠姉の話はスケールが大きいな。百年前って……」

「といっても、こればっかりは長生きしてきたからね。仕方ないよ」


 こういう時、いつも珠姉は少し寂しげに笑う。


「あ。悪い意味じゃないからな」

「慌てて弁解しなくてもわかってるから。そーちゃんは優しいね」


 と言いつつ、頭をなでくりされる。


「俺はもう子どもじゃないんだけどな」


 恥ずかしくなって、抗議する。


「私はそーちゃんの事、赤ちゃんの頃から見てきたからね」

「……」


 遺憾な話なんだけど、まだ乳児の頃、ここに連れてこられたことがあるらしい。

 きっと、彼女にとって、俺は甥っ子のようなものでもあるんだろう。


「もう、赤くなっちゃって。可愛いんだから♪」


 と今度はぎゅーっと抱きしめられる。抵抗出来ないのは、惚れた弱みだろうか。

 しばらく、されるがままになっていると。


「ところで、そーちゃんも、高二だよね」

高二だな」


 珠姉の前ではまだまだ子どもだと嫌でも実感してしまう。


「高校でいい人いないの?仲良い女の子、何人かいるでしょ?」

「……」


 想い人に、こういう話を振られるの大変つらいものがある。

 俺を恋愛対象として見ていないっていうことだから。


「奈美とかは良く遊ぶけど。別にそういう関係じゃないよ」


 三条奈美さんじょうなみ

 幼稚園からの友人で、珠姉を祀る神社の娘でもある。

 気が強いのは珠姉と正反対で俺の好みじゃないし、奈美だって同じだろう。


「奈美ちゃんいい子じゃないの。青春は一度しかないんだからね?」

「良いやつなのは否定しないけど、恋愛対象かというと別!」


 奈美は兄妹と言えばいいのか、姉弟といえばいいのか。

 とにかく、恋愛対象ではない。


「私としてはちょっと心配だなあ。このまま大きくなっちゃいそうで」

「俺の事はいいんだよ。それより、珠姉は?」


 と言いつつ答えは半ば予想出来ているんだけど。


「私はいいかな。こうして、常連さんと他愛ないお話が出来れば十分」

「珠姉、何度も告白されてるだろ。誰か一人くらいお眼鏡にかなう人は?」

「私の場合、寿命の事も承知で生涯付き添ってくれる人じゃないとだし」

「まあ、そりゃそうだけど」

「とりあえず、お付き合いしてみましょう、とはちょっと行かないかな」


 この話は何度もしたことだった。


「同じく不老の雪姉は、色々な人と交際してるみたいだけど?」

「あの子はちょっと軽いのよ。これまで何人と交際してきたのやら」

「雪姉くらいになれとは言わないけどさ。付き合ってから考えても……」


 と言い募ろうとするものの、


「やっぱり考えちゃうよ。性格込みで言ってくれても、私はずっと今のままだし」


 そう躱されてしまう。

 しかし、姉妹だというのに、こうも考え方が正反対になるとは。


「よくある、長命種族と人間との恋ってやつの問題?」

「半分当たってるけど、半分外れかな」

「というと?」

「別に親しくなった人を看取るのは、もう慣れたから抵抗はないの。ただ……」


 とそこで珠姉は言葉を区切った。


「好きと言ってもらえて嬉しいけど、実際に付き合うと色々しんどいよ。きっと」


 妹である雪姉を見てきて、珠姉の出した暫定的な結論がこれだった。

 雪姉の交際が続かない理由の一つに、神様への理解がないことがある。

 特に、若い見た目と朗らかな性格に惹かれたものの、老いないことについては

 「いつまでも若い姿なままっていうのもいいんじゃない?」

 と、真剣に考えてくれないことがほとんどとのこと。


 しかし、実際問題として、年月が経つ程、容姿のずれは問題になるらしい。

 特に、お付き合いする男性側がコンプレックスに思ってしまうとか。

 雪姉は気にしてないけど、なまじ相手の男性が生真面目な事が多い。

 それが原因で、価値観がどんどんずれて行って、しまいには

 「俺は君には釣り合わないよ。ごめん」

 と離れて行ってしまう事も多いのだとか。

 あるいは、今の所、雪姉とお相手の男性に子どもが出来たことはない。

 出来ないと決まったわけじゃないけど、前例はないらしい。

 子どもが欲しいという男性の一部はやっぱり離れて行ってしまうとか。

 それでも諦めずに、次こそは、と挑む雪姉も大概いい根性をしてる。

 

「雪姉の恋模様を見てると、わかるけどな。でも、合う人も居るかもじゃん」

「そうかもね。でも、そこまで好きになった人も今まで居ないしなー」


 なんて事を言いながら、お好み焼きを鉄板の上で焼いている。


「はい。これ、私からの奢り」


 とお好み焼きを差し出される。

 本来なら、一枚300円の品だ。


「いつも悪いな、珠姉」

「そーちゃんが生まれた時からの付き合いだからね」

「いい加減、それバツが悪いから止めてくれよ」


 本人は単に懐かしんでるんだろうけど、俺は居心地が悪い。

 なんせ、おむつをしていた頃を知られているのだ。


「ごめんごめん。つい、懐かしくなっちゃうんだよねー」


 あんまり悪びれた様子もなく。


(可愛がってはもらえてるんだろうけど)


 決定的に、異性として意識されてない。マジで。

 しかし、だ。今日は少し違うのだ。

 今までの子ども扱いを脱するべく秘策を練ってきた。


 先日読んだとある雑誌にあったのだ。


『時には、強気に出ることも重要、と』


 いや、明後日の方向に大暴騰するかもしれない。

 しかし、このままだとずっと姉と弟のままだ。

 やるしかない。


「なあ、珠姉」


 意識して、低い声を出してみる。


「うん?どーしたの、そーちゃん」

「俺の事、そんなに男として見られないか?」


 お腹に力を込めて、表情も険しくしてみる。

 

「え?ど、どういうこと?」


 普段、全くしない表情だけに、珠姉もびっくり。

 俺もこんな演技は全くもって慣れない。


「だって、珠姉はいつも俺のこと子ども扱いだろ?」

「え、そ、悪い意味じゃなくて。昔から面倒を見てきたわけだし……」


 なんか、やけに珠姉が動揺している。


「それはわかってるけど、俺だってもう十七だぞ?」

「ちょ、ちょっと。どうしてそんなに怒ってるの?」


 やべ。ちょっと泣きそうになってる。

 強気と言ってもやり過ぎた?


「いやその、怒ってるわけじゃなくてだな……」


 もうやぶれかぶれだ。


「俺はただ珠姉の事が好きなだけなんだ」

「ええ?」

「だから、その……子ども扱いはやめて欲しい」


 ああ、言ってしまった。その場の勢いでつい。

 どんな言葉が返ってくるのか想像するだに怖い。

 「ごめん、そーちゃん。でも……」とか。

 そんな言葉がきっと返ってくるんだろうな。


 しかし、いつまでも言葉は返ってこなかった。

 不審に思って、見上げてみると、真っ赤になった珠姉。

 この人の顔が赤くなった状態なんて初めてみるぞ。

 いつも落ち着いていて、笑顔。

 あるいは、悲しい事を打ち明けた時は、同じように悲しんでくれたり。

 ともあれ、俺はとてもめずらしい光景を目にしている。


「えと……その……あの……」

「あのさ。珠姉。一体どうしたんだ?」

「ちょっと、そーちゃんの顔が真っ直ぐに見られなくて……うう」


 しまいには、顔を完璧に背けてしまった。

 え?これは一体どういうことだ?


「なあ、ひょっとしてだけど。恥ずかしがってる?」

「そう……みたい。五百年以上生きて来たけど、初めての気分」


 マジか。彼女が告白された風景はこれまでよく見てる。

 ただ、ほとんどの場合は、微笑みをたたえて、落ち着いた表情だった。

 これがそこまで動揺するなんて。

 しかし、この反応って、実は脈アリ?


「珠姉、ひょっとして、実はチョロインだった?」

「チョロイン言わないで!うう……でも……はあ……」


 落ち込んだり、赤くなったり忙しない。


「ごめん、そーちゃん」

「え?」

「今は、これまでの事が色々頭に浮かんできて、返事出来る精神状態じゃないみたい。だから、明日の放課後、また来て?」

「あ、ああ。それじゃ、お大事にな」

「別に病気じゃないから」


 というわけで、妙な状態になった珠姉を残して俺は一人家に帰る羽目に。

 しかし、これまで全く異性として見られていなかったのが、これは大前進では?

 場合によっては、いいお返事をもらえるかもしれないし。


 俺は俺で落ち着かない気分になって、その日は夕食もロクに喉を通らなかった。


(しかし、もし、だ。交際OKの返事が来たら、どうしよう?)


 これまでは芽がなかったからこそ、ある意味平静で居られた。

 しかし、もしOKだったら、それこそ年の差とか、寿命の差とか色々出てくる。

 まだ高二の俺には想像も出来ないけど、いずれ珠姉より老いていく時だって。

 それと、珠姉はもう慣れたと言っていたけど、彼女を置いて死ぬことだって。


(考えてみれば、生まれた頃から、俺のこと知ってるんだよな)


 俺が初めて珠姉を見た記憶があるのは、確か幼稚園児の頃だっただろうか。

 いつも遊んでくれる、近所のお姉さんと言ったところだったはず。

 ただ、俺が小学生になっても、お姉さんはお姉さんのままで。

 中学生になっても、それは変わらなかった。


(そういえば、初めて昔のこと聞いた時、なんて言ってたっけ)


 あれは確か中学三年の頃だったか。


◆◆◆◆


 中学生になった俺は、相変わらず珠姉のところに入り浸っていた。

 元々、母子家庭という事もあって、彼女は特別、俺の面倒を見てくれていた。

 俺は俺で、母さんには言えないことも色々珠姉に話していた。

 

「なあ、珠姉はさ。五百年以上生きてるんだろ?」

「うん?そうだね、現代で言うと、室町時代むろまちじだい後期」

「それはいいんだけど、実際問題どんな気分なのか知りたかったんだ」


 永遠に生きなければいけないものと定命の者との道ならぬ恋。

 漫画でもラノベでもそういうテーマはよく見てきた。

 だからこそ、本当に数百年を生きて来た彼女の本音を聞きたかった。


「一言で言うのは難しいけど……割と楽しい、かな」


 微笑みをたたえて言った言葉は実に意外なものだった。


「でも、仲良くなった人は、自分を置いてっちゃうだろ。寂しくなかったのか?」


 長寿の種族の定番となったお約束。


「それは寂しいよ。でも、そういう人にも子どもが出来たりして。また、その子に子どもが出来たりして。私も、お節介焼きな性格だから、やけに感謝されたりして、それこそ、先祖代々、私の事を語り継いでくれるお家もあったりね。京都市内にも、実はいくつもあるんだ」


 そう言う珠姉は自慢げで、悲壮さはかけらも無かった。


「ああ、でも。これだけ生きてると、不毛な争いや戦争はさんざん見てきてるから。そういうのはすっごく悲しいよ?日本はここ数十年は平和だからいいけど」


 また、スケールのでかいことで。


「そっか。珠姉は強いんだな」


 そう素直に言い切れるのを見て、思ったのだった。


「私の場合、雪が居るっていうのもあるかもね」


 姉妹と言っても、正確には血縁関係はないらしい。

 近い時期に、同じお稲荷様として祀られた関係で姉妹のような関係だとか。


「雪姉って言えばさ。色々な人と付き合ってるじゃん。珠姉はどうなんだ?」


 当時、すでに彼女に恋をしていた俺は、なにげない素振りで聞いてみたのだった。


「憧れはあるよ?憧れは。でも、ちょっと怖いっていうのが正直なところ」


 少し憂鬱そうな表情から出た言葉は意外なものだった。


「実感が湧かないんだけど、怖いっていうのは?」


 やはり寿命に関連したことだろうか。愛する人の死を見届けないと、とか。


「色々あるけど。やっぱりジェネレーションギャップ、かな?」


 と思ったのだけど、返ってきたのは予想外の答え。


「ジェネレーションギャップって。何、言ってるんだよ、珠ねえ」


 俺はといえば、予想外の答えに大爆笑。


「もう。真面目に言ってるんだけど。たとえば、幼い頃した遊びは?とか言われても、室町後期だよ?もうぜんっぜん違うよね。他にも、趣味だって、普段は言ってないけど、古臭いの多いし……」


 どんどん、話が俗な方向に向かっていく。


「古臭いのってたとえば?」

連歌れんがとか」


 歴史に出てくるお話だった。


「もう。笑わないでよ―。昔はそういうのが教養人っていう風潮があったんだから」

「五百年生きてきて、色々あったんだろうけど、出てくる答えが俗っぽ過ぎて」


 もっと深刻な理由で恋愛をしないのだと思っていた。

 

「ただ、真面目な話としては、誰かとお付き合いして。結婚したとして」

「あ、ああ」


 胸がズキンと痛む。


「相手の男の人だけが老いていくのは、申し訳なくなるかも」


 申し訳ない?


「別に申し訳なく思う必要ないと思うけど」

「だって。きっと、取り残されたような気持ちになるんじゃないかな」

「そう、か。そういうのもあるよな」


 もし、彼女と添い遂げようとしたとして。

 徐々に身体も衰えて、白髪も生えて来るのに、彼女だけが若々しいまま。

 確かに、少し辛いかもしれない。


「でも、さ。そういうのも俺はありだと思うな」


 思ったことを気がついたらそのまま言っていた。


「どうして?私は別に気にしないけど……」

「だってさ。今だって、六十過ぎて、二十歳の人と結婚するとかあるじゃん」


 ひょっとしたら、適当な例じゃないかもしれない。

 でも、とっさに思ったのがそれだった。


「でも、その場合は、最初から男の人が老いてるんじゃない?」

「そりゃそうだけどさ。始める前から決めつけてても仕方ないと思うんだよ」


 実際には、本当に彼女の予想通りのことになるかもしれない。


「そーちゃんは楽観的だね」

「でも、そういうとこも珠姉に教えてもらったんだぞ?」

「そっか。じゃあ、いい人が出来たら、ということで」


 やっぱり、俺は眼中になしか。

 そんな事を思ったけど、何はともあれ、チャンスが消えたわけじゃない。


◇◇◇◇


(そういえば、俺が言ったんだったな)


 始める前から決めつけても仕方ないって。

 

(まあ、珠姉からいい返事が来たらの話だけど)


 悲壮な事は考えずに、付き合っていきたい。そう思ったのだった。


◇◇◇◇


 翌日の放課後。


「ええと。昨日ぶり?珠姉」


 どんな返事が来るやら、緊張もあってぎこちなくなってしまった。


「あ、うん。じゃあ、そこ座ってて?」


 といつものカウンター席を指定される。


「お好み焼き、要る?」

「いや、別にそんなにお腹空いてないけど」

「お好み焼き、要る?」

「わかった」


 何故か知らないが、お好み焼きを焼きたい気分らしい。


「あのね」

「うん?」


 鉄板に油を塗りながら、何気ない素振りでの切り出し。


「昨日、あれから色々考えてみたんだ」

「ああ。それは、その、ありがとう?」

「こっちの台詞だよー。恋とか縁がないだろうなーって思ってたし」


 続いて、お好み焼きの生地を鉄板に。


「それで、昔からのそーちゃんの事、色々思い出してたの」

「ちょ、昔からって。赤ちゃんの頃からだろ?勘弁してくれよ」

「そう言われても……覚えてるんだし」


 まさか、返事の場面でそんなことを言われるとは。

 恥ずかし過ぎる。


「あと、そーちゃんが中三の頃かな。ちょっと話したこととか」

「俺も昨日、それ思い出してた」

「そうそう。「始める前から決めつけても仕方ない」ってね」


 具材を焼きながら、少し照れくさそうに言う珠姉。


「俺も、ちょっと勢いで言ったところあったけどな」

「それでも、確かに、始める前から、諦めてたところがあったから」


 だんだん、お好み焼きが完成に近づいて行く。


「でも、昨日まで全然意識してなかっただろ?どうして突然?」

「そ、それは……あんな風に強い声で「男として見て欲しい」って言われて」


 それは意識しちゃうよ、と。


「やっぱり珠姉、チョロインなんじゃ?」

「そんなことないよ。そーちゃんだからだよ」


 とうとう完成したお好み焼き。

 それに、ソースとマヨネーズ、それに鰹節などを振りかけて。


「はい。お待ちどうさん。彼女の手作りお好み焼きだよ♪」


 なんて、言いながら、とても恥ずかしそうな珠姉だった。


「ぷっ。もしかして、それやりたかったから?」


 なんで、お好み焼きを無理やりにでも焼いたのか疑問だったけど。


「対面で返事とか恥ずかしかったし。作りながらなら、出来るかなって……」


 相変わらず恥ずかしそうな彼女がとても可愛い。


「珠姉、本当に五百年生きてるんだよな?実は、十七歳くらいだったりしない?」

「何が言いたいの?」

「だって、俺の同級生でも、そこまで初心な奴は少ないっていうかさ……」


 なんで、告白の返事一つでここまで恥ずかしがっているんだろう。


「それは、私はちょっと恋愛諦めてたから。とにかく。私も覚悟決めたから!」

「覚悟?」

「始めたからには、私は生涯添い遂げる覚悟だからね?」

「ええと、つまり、実質婚約?」

「当然だよ。途中で振られたら、ずっとトラウマになりそうだし」


 思ったより、重い返事だった。


「ま、いいや。珠姉と一緒に居られるならなんでも」

「もう。やっぱり楽観的なんだから。でも、姉さん女房だからね?」

「それはまあ、五百歳近い歳の差があるわけだし」


 当然の事だと思う。


「そういうんじゃなくて!ちゃんと尻に敷いて上げるんだから!」

「相当根に持ってるな」

「初デートは、私がリードしてあげるからね?」

「といって、手を繋ぐのにも真っ赤になってそうな気がするけど」

「むー。そういう意地悪するなら、告白の件はナシにするよ」

「いやいや、そういうのはナシだろ」


 というわけで、御年五百を超える、超姉さん女房と俺は付き合う羽目に。

 きっと、楽しいだけじゃないだろうけど、やってみなくちゃわからない。

 そんな事を思う暑い夏の一日だった。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

久しぶりに(?)幼馴染ものじゃない短編です。

今回のテーマは、「寿命の違う者同士の日常での恋愛」でしょうか。

変に重苦しくなく、日常の中を生きる神様とのお話を書いてみたかったのです。


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年齢五百歳の美人な神様に告白してみたら、とても初心だった件 久野真一 @kuno1234

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