第40話動揺









人間の記憶とは実に不思議なものである。




あれだけ嫌な思いをしても、いつの日か笑い話になったり、あの経験あったからこそ今の自分がいる、そう都合よく解釈する。





あの頃に戻って生きる、そんなことテレビや映画の中でしか出来ない。





そんなことは重々分かっていた。




人は、そう簡単には変わらない。
















トイレで恐る恐る、LINEをひらいた。




まゆとみきからきた誕生日おめでとうのメッセージのあいだに、久しぶりにみる「間宮周平」という文字があった。





私はひどく動揺した。




あの日以来、私たちはやりとりもしていなかった。




なにをいまさら---

















お誕生日おめでとう!

元気?










短い文章だった。




誕生日おめでとうだなんて、別れのきっかけとなった最後の誕生日以来言われてない。





なぜ急にLINEがきたのか、本当にわからなかった。






返すべきか否か。





悩んで、返すことにした。






元気だよー

ありがとうね







それだけ返して終わるつもりだった。





周平がわたしが結婚したことを恐らく知っているだろう。





お互いの友人たちが多かったから、どこかから聞いてるかもしれない。





さとしにもLINEで結婚したことを伝えていた。






周平の近況は何も知らなかった。




情報もとくになかった。




私は少しばかり周平の近況が気になってしまった。








意外にも、返信が返ってきた。












元気そうならよかった!

いまG県にいるんでしょ?

さとしとこの間のんだときにきいたわー





さとしと飲んだってことはきっと・・・わたしが結婚していることも知ってるよね?





うん!G県にいるよー


まだK区に住んでいるの?






周平は学生時代にK区に住んでいた。




その家に、よく遊びに行っていた。






いや!もうK区にはすんでなくて

N区に住んでるよー

最寄りはY駅!


よくこっち帰ってくるの?






周平はわたしの実家の最寄駅から3駅隣のところに住んでいた。




わたしの実家は社会人2年目の時に引っ越していた。




その時にはもう会っていないので、周平はわたしが引っ越したことを知らない。





わたしS駅に引っ越したから

実家と近いねー笑


まあたまに帰ったりするよー出張もあるし










毎日通過してるわ笑


こんど帰った時連絡してよ!

飲みに行こう。






意外だった。





周平がわたしに会いたがっている・・・?





いままで周平から連絡くることなんてなかったし、別れた後はわたしからしか誘っていなかった。




今更・・・なんだろうか。






もうすぐ、別れてから8年経つのに。















「ゆいかー!ドラマ始まるよー!」




夫の声でハッと我に帰った。




わたしはそのLINEに返信せず、トイレからでた。










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Re:戻生 とおりすがりのひと。 @enarunogeki

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