第6話 リザルト
Q. 謎の液体生物が頭上で爆発飛散したらどうなるでしょう?
A. 謎の液体だらけになります
経緯を説明しよう。
狼の弱点を突いたら、爆散し構成していた液体が降りかかってきた。体の下にいた俺は避けることもできずに甘受するほかなかった。
以上だ。
短すぎる? いや、それ以外説明することないし。終わったと安堵する暇も、強敵に勝利した余韻に浸る暇もない。終わった瞬間に炸裂するこのトラップ、悪辣すぎひん?
とりあえず体の状態を確認する。液体を全身に浴びたが、幸いなことにダメージはない。状態異常なども確認できない。害はないのか? 液体自体はさらさらしており、臭いはない。ただ少し重く感じる。色は狼の時と違い、白くはない。灰色というより少し汚れた白といった方がしっくりくる。色も伴って石膏というかコンクリートで固められたみたいだな、おい。もっとも液体自体は、少し経つと跡形もなく消えた。消えてよかった、取り除く方法が思いつかなかったし。
周りを確認する。視界内に白はない。天井と四方の壁は土の色に変わり、床も土色である。あの謎の白は消えている。今度こそ終わったらしい。
長い戦いの疲れからか、体を起こすこともだるい。正直指を動かすこともつらいが、戦果確認をしない訳にもいかない。そのまま自身のステータス画面を確認する。
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名前:ブレイ
レベル:3
クラス:暗殺者(アサシン)
メインスキル:
『短刀術』Lv.2
『投擲』Lv.1
『隠形』Lv.1
『攻撃・弱点』Lv.1
『奇襲』Lv.1
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レベルが一つ上がり、スキルを一つ習得している。変化としてはそれだけだ。ドロップはない。いや、先程の狼のドロップがあったとしたら液体だろうし、別に要らないからいいが。全体的に死闘の結果としては物足りない気がするが、これはチュートリアル戦闘である。対マネキン集団の時と同じように制限あるのだろう。
レベルアップによる変化は分からない。詳細が分からない以上、体感で感じるしかない。しかし、体が動かしやすくなったなど変化は感じない。そもそもレベルアップによる変化があるのか? いや、何かしらあるはずだ。ないと、レベルが存在する意味がなくなってしまう。
スキルで増えたのは『奇襲』。相手に認識されていない場合のみ、初撃の威力を上げるスキルだ。どことなく「レイドピアス」に似ている効果だな。
そういえば、「レイドピアス」の取得タイミングは、短刀術のレベルアップ時ではなくて『奇襲』を取得したタイミングだったような。
ログを見返してみると、確かに『奇襲』取得した直後に「レイドピアス」を覚えている。『奇襲』を取得したことにより、「レイドピアス」を覚えたのか? 他にも何かありそうだな、他のスキルや技が取得条件になっているものが。正直そういう隠されている条件はワクワクするものがある。全部探してみたいという欲はある。いや、全て探すのは無理だと分かっているが、それでも探してみたい。一つの目標にしてみるか。
ともかく、戦闘を終え、体も動かせるようになった今、これ以上留まる理由もなし。次に移動するか。
狼を倒した後に空いた通路に向かう。通路の前で立ち止まり、部屋に向かって一礼してから、通路に入る。通路はまっすぐな一本道でどこにつながっているか全くわからない。暗くてわからない訳ではない。上部に灯りがあるため、暗くはない。ただ単に先が見通せないぐらい長いのだ。そんな道を一歩ごとに進んでいく。
そんな中考えるのは、先程戦った狼のこと。あの狼は強かった。一撃で致命傷になる攻撃にほぼ隙の無い立ち回り、そして攻撃の出を潰す針毛。他のゲームで戦った大半の敵よりも強い。クリアしたからこそ言える。絶対にチュートリアルで戦えて良い敵ではない。ゲーム終盤で出てくるような敵だ。いくらVR系になってアクション要素が強まり、他のゲームのプレイヤースキルである程度戦えるようになるからと言って、ゲームを開始したばかりのプレイヤーでは無理だ。
加えて感情も違和感があった。戦っている最中、狼の感情を読み取ったことを思い出す。読み取ったのは、憎悪と称賛。どうして矛盾しているような感情を持っていたのか、気にならない訳ではない。どのように生きてくればそのような感情を持てるようになるのか、それは確かに気になる。しかし、本題は別にある。感情そのものだ。狼は確かに俺に対する憎悪と称賛という感情を持っていた。しかし、マネキンからは感情は読み取れなかった。同じものから生まれ、同じもので構成されていたにも関わらず。どうにもそこに意味があるような気がしてならない。狼の強さといい、感情といい、ただのチュートリアルに思えん。
ふと気づく。先程より周りが明るいことに。それどころか眩しくて目が痛くなるレベルで。一歩進むごとに少しずつ光量が増している気がする。もはや隣の壁すら見えなくたってしまった。もはや何も見えないが、それでも進んでいく。すると、いつの間にか周りを何かが囲んでいた。敵意は、ない。害意もない。何かは分からないが、不思議と焦りはない。しばらくその何か達は俺の周りを旋回していた。いつまで続くのか。俺の想いを読んだのか、囲んでいたうちの一つが軌道を変更し、俺の体に衝突。そのまま、吸い込まれていった。他の奴らは、それを見届けた後に忽然と気配を消していった。
先程のものは何だ、俺に身に何か起きたのか。ステータス画面を表示させるが何も変化はない。変化はないが、目は開けられる様になった。周りの光量が落ちたわけではない。むしろ増している。それでも、光に焼かれることなく目は開けられる。開けられるだけで、辺り一面真っ白だが。何だったのか、まるでわからない。しかし、害があるものでないのは直感できた。今、まだ時期ではことも。胸中の疑問と共に深く息を吐きだす。今知ることができないのなら、仕方ない。気にしないでおくか。光に目がくらむことがないのは良いことだしな。
そのタイミングで通路の先が見えた。見えたというと語弊がある。周りと比べて一際明るくなったのだ。この先の旅路を祝福するかのように。もしくは、太陽のごとく何もかも焼き尽くかのように。光り輝く先は近くまで行っても何もわからない。膜のようなものがあり、触れると水面のように波紋が広がる。そして、ほとんど抵抗なく入ることができる。間違いなく道の終点。はてさて、これから先はどうなっているやら。出来れば、楽しめる世界であればいいが。
そして、俺は膜の先へ一歩踏み出した。
そこは先程までとあるプレイヤーが死闘を繰り広げていた場所。あちこちに戦闘の跡が残り、無事な所は天井くらい。そんな場所の床が唐突に盛り上がる。人の高さまで盛り上がった床は左右に割れていき、中から白い木造の扉が現れた。現れた扉はひとりでに開き、中から一人の人物が出てくる。その人物は白いベールを被り、布一枚で裁縫されたような服を着ていた。そう、ブレイのチュートリアルを担当した人物である。その人物は荒らされた部屋を見まわすと、右手を高く掲げる。すると右手中心に光りはじめ、その後右手に杖が収まっていた。
豪華な杖であった。扉と同じように白い木製の杖は、ベールの人物の身の丈を超えていた。杖の下部からはそれぞれ赤、青、緑色の棒が伸びている。それら三本は螺旋を描き、持ち手を保護しつつ杖の上部まで伸び、先端で水晶を固定していた。水晶は無色透明であり、角度によって光る角度を変えている。よく見ると水晶の中には、何かの鱗、歯車、そして薙刀が入っていた。
ベールの人物はそのまま杖を振り下ろす。杖が地に触れた次の瞬間、部屋から全ての痕跡は消えた。所々にあった戦闘の傷が一つ残らず修復され、天井、壁が白い状態になる。そして、床からマネキンが一体生まれ、部屋の中央で佇んだ。何もかもブレイが訪れる前、チュートリアル戦闘が始まる前の状態に戻る。
「チュートリアル、戦闘部門。4戦中3戦勝利、1戦
何かを確認するかのようにベールの人物は呟く。それは高いソプラノの声。通りが良く、いつまでも聞きたくなる女性の声であった。同時にその人物の感情がどこまでも抜け落ちた声であり、人から発せられたとは思えないくらい意志が感じられない。自然な形で不自然さを強調する声だった。
そんな言葉を残し、部屋の状態を確認し終えたベールの人物は扉の中に消えていった。
Next Episode 『第1章 選ばれた出会い』
世界を、楽しめっ! 井崎 刀真 @macdog
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