第9話
「かぁー、やっぱり闘技大会の前日はこうでなくちゃねぇ!」
「だな!この時期の風物詩だからなー、それにしても今年は例年に比べて激しいな!」
「確かに、あれだあの中心にいる小僧がスゲェーよ、身の丈はある大剣を振り回してよ、ぽんぽん首を飛ばしてやがらぁ」
「今年の【黒の広場】は今まで一番赤く染まるかもな!」
冷えたエールを片手に乱戦を楽しむ住民達。
彼らにとってはこの光景は見慣れたもので、楽しみでもあった。
いつからか闘技場まわりの広場は【黒の広場】と呼ばれるようになっていた。かつては他の建物と同じように“軽量硬化レンガ”の赤茶色であったが、誰も止めることの無い乱戦による鮮血が染みて、酸化し黒くなっていったのだ。
闘技大会は南北両大陸に加え、西海の向こう側のインドラ大陸、東陽海の向こう側のシナ大陸、更に各諸島から腕自慢の猛者が集まって来る。
参加者は多い年には1000人を超える事もあり、そういった場合には自然と場外乱闘が発生し、それが結果として一次予選となる事が通例であった。
それでも、今年のそれは例年以上に激しく、目の肥えた住民からしても異常な有様だった。
あれほど暴れていた参加者達が見る間に倒れ伏せていく。
途中から不利を覚って逃げようとする者すら命が刈り取られていく始末。誰も止めることの無い凶気すらこの街では日常なのだ。
血煙漂う凶気の中心にいる獰猛な笑みを浮かべる少年の周りには、既に彼以外立っている者はいない。
剣を振るうのに合わせて生き残った強者達のまわりには死者が山となり、等間隔に不思議な空間がなされていた。
ここで生き残ったことがそれぞれが強者であることを示しており、見定めるように視線を巡らせている。
熱に浮かされまだまだ戦ってやろうという者もいれば、静かに敵を待ち構える者もいる。
雑魚が一通り片付けられた今、まだ乱闘が続くのであれば、ここからが本当の戦いとなる。
ピリピリと緊張が張り詰めて行く中それを遮る声が響く。
「おーい、このくらいで止めておこーぜー」
のんびりとした緊張感が一切感じられない声に、剣呑な視線が集められた。
そこには乱闘から抜け出そうと動いたにも関わらず、結局巻き込まれてうんざりした顔のビルがいた。
視線を一身に受けているが、気にもせず血濡れのロングソードを近くに転がっている死体の服でキレイに拭き取っている。
集まる視線の圧にも動じず更に言葉を重ねた。
「これ以上にヤッちまうと、明日の相手がいなくなっちまうんじゃねーかなー」
「はっ、だからどーしたってんだ!怖気づいたかよ?クソジジイ!」
「……俺にも君くらいの年頃の息子がいるんだけど、ジジイはなくない?」
あ、クソの方は気にしないんだ、と会話を何気なく聞いていた面子の複数人が思ってしまった。そこで更に全体の緊張が弛緩し、構えていた武器を下ろす者が、チラホラと。
その空気を敏感に感じた件の少年が煽るように吠えた。
「おいおいおい!こんな腰抜けのクソジジイの言うことを聞いちまうのかよ!」
「……そこのオッサンの言うことはもっともさ、明日にこそ活躍しなくちゃいけないからねぇ。そこらの住民に見せる為に来てないのさ」
「で、あるな。そこな御仁と貴女の言う通りである。我が武は安くない」
ブロンドの長い髪の露出多めの美人と巌のような身体をした大男が鉾を収めるべく、ビルの言葉に追随した。
その様子が伝播し、ここが引き時かと皆が武器を仕舞い出す。流石にその流れは止めようもなく、少年もついに大剣を下ろした。
「クソジジイ、明日はおぼえとけよ!」
(クソジジイだから覚えれるかな?と煽ってはいけないんだろうなぁ)
ビルは内心を隠しながら素直に頷くと、その場を立ち去った。残された少年の目線は、ずっとその背中を追っていたのだった。
セブン ブリッジ シティ 本の雨 @bookrain
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