第8話
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ジョシュと別れたビルは亀の歩みで闘技場の受付へと向かっていた。
むさ苦しい男どもばかり、と思っていたが中には麗人の騎士のような者もいれば、ド派手な衣装の者、それって身を守る物なの?と疑問符の付く装備の者まで多種多様である。
実力もピンからキリまでいるようで、ビルは混合玉石とはこのことかと面白がっていた。
(ふーむ、なかなかの面子が集まっているようだな。お、ヤツはまさか“北の疾風”か?おいおい、“炎武のバルカン”まで。むむ、あれは南大陸の“騎士国の王”ではないのか?それにあれはーーー)
顔だけは知っていた者からかつて紛争で剣を交わした者まで、北大陸の猛者に南大陸の猛者、さらにセブンブリッジシティの築かれた海峡を挟む東西の海の猛者まで、弱そうな者を意識から排除して観察すれば、本当に楽しめそうだと、ビルは知らず知らずの内に笑みを浮かべていた。
そしてようやく受付へと到着。名前と出身地、使う武器、魔法の有無、これらを記入し参加費を払う。エントリーナンバーを貰って大会要項が書かれた紙を渡された。
それら一連の流れは澱みなく実にスムーズに行われ、この闘技大会が如何に長年に渡り繰り返されて来たのかを示している。
しかし、そのスムーズさは受付の話。
戦う為にやって来た戦士達はあらくれた者ばかり、受付に並ぶという苦痛極まる難行に辟易していた。彼らのストレスはもはや暴発寸前、煮えたぎる油のごとし。
そこに投げ込まれる火種。
「はぁー、やっと受付おわったぁ、マジめんどくせぇ、この仕組みなんとかしろよなぁ」
「ふっ、受付ぐらいで愚痴をこぼすとは、未熟よのぉ」
「あんだぁ?オッサン、誰が未熟だってんだよ」
「お前だよ、チビ助」
「カッチーン、俺をチビ呼ばわりしたな?はい怒った、はい怒ったよ俺は!死ね!」
ビルの後方で口論が始まったかと思えば、喧嘩が始まっていた。明日から闘技大会なのに血気盛んだなぁ、とビルは振り返り驚いた。
大男の首が転げ落ち鮮血が噴き上がっている。
さらによく見れば、大剣を振り切った際に、周りにいた連中まで斬りつけていた。
その中心に立つ男、恐らく息子のジョシュと同世代と思われる少年が血に濡れながら笑っている。
尋常じゃない事態に驚いていたが、周りの斬りつけられた側はたまったものではない。
怒り心頭でやり返さんと少年に殺到する。
「はっはー、どんなもんだい!なめてかかるから死ねんだよ!おめぇーら雑魚も死ね!」
自分から斬りつけておいて、反撃されれば罵りながら更に斬る。めちゃくちゃな言動だがその腕は本物のようで、見事に返り討ちにしていく。
それを遠目に見ていた連中も、溜まった鬱憤を晴らす機会はここぞとばかりに襲い掛かっていった。その闘争は瞬く間に広がり、闘技場まわりの広場は戦場さながらの乱戦の様子を見せ始めた。
ビルは少年の一連の動きと周辺の剣呑さを鑑みて、気配を消しながら素早くその場を離脱した。
滾った気持ちを抑えられず闘争に繰り出す者、襲われ返り討ちにする者、逃げ惑う者。
それらを傍目に、ビルは事前に確認していた信じ難い話が現実であった事に改めて驚かされていた。
セブンブリッジシティは行政による警察機関がないせいで、わざわざ喧嘩や死闘を止める者がいない街なのだ。
基本的に住民達は有償の警邏組織にサービスランク毎の金額を払うことで安全を得ている。
高額になれば腕の立つ武人が24時間体制で身を守ってくれるし、安ければ一日一回の見廻り程度になってしまう。
金がなければ自分の身は自分で守るしかない。
金と武力がモノを言う街、それがセブンブリッジシティだ。
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