第7話
「せいやぁ!」
「なんのぉ!」
「らぁ!」
「はっ!」
「うりゃりゃりゃりゃ!」
「せっほっよっはっとっ」
互いが掛ける声だけ聞けば遊びのようだが、実際に繰り出される攻撃は苛烈にして必殺、
絶対に喧嘩のレベルではない。
カナンの異常さは住民にとっては日常だが、それを躱し続けるジョシュもまた異常と言えた。
野次馬だった住民は思いもよらぬ光景に呆気にとられ、次第に熱を帯びていく。
そして、この街で争いが起これば生まれるものがある。
「さぁ張った張ったぁ!“暴虐の娘カナン”と“謎の旅の少年”の一騎討ちだぁ!オッズはこの通り!1.9倍と5.7倍だよ!」
どこから現れたのか、黒い金属の板に文字が浮かび上がるボードを持った男達。
その男達が持つボードにはカナンとジョシュに付けられた二つ名とオッズ。
それを見た住民達は声を張り上げ、馬券ならぬ喧嘩券を買い求める。
「俺はカナンに2000ラシェだ!」
「カナンに1000!」
「あたしゃあの男の子に3000ラシェ!」
「5000!カナンに5000ラシェだ!」
(俺、人気ねーな!)
ダフ屋の男は見事な腕前で住民が取り出す紙幣と喧嘩券を交換する。最低レートは1000ラシェからのようで、中には10000ラシェから賭けて来る猛者もいた。
そして締切が告げられる直前に、本日最高額が出た。
「俺に10万ラシェ!」
「「「おおっ!」」」
住民達の驚く声をよそに、カナンの攻撃を大きく避けてダフ屋の隣に着地するや、ジョシュは懐から財布を出して10枚の10000ラシェ紙幣を取り出した。
「これで券を買えるんだよね?」
「おーともおーとも、ほい、これが引き換え券だ。それよりあんた大丈夫なのかい?さっきから避けてばっかで手ぇ出してなかったが」
「彼女が例え喧嘩の負け知らずでも、素手で女性を殴るのは趣味じゃないですね」
「ハハッ、それはそれは、そんな甘い考えじゃあ痛い目見るぜ?特にカナン相手ならよぉ?」
「ええ、まぁ、普通の子じゃないのは分かってますけどね。金が懸かってくるならこっちも話が変わって来ますよ。いわば闘技場みたいなもんでしょ?」
「まぁそう言えなくもねぇーなー、なるほど、オメェさんも訳ありなわけだ。おっと、話が冗長に過ぎたな、カナンがお怒りだ」
券のやり取りを見つつ、自分が負けると、10万ラシェも目の前で賭けられた。
これに怒りを覚えないカナンではない。
「なめ腐りやがって、手も出せねぇヘタレがよぉ、オレに勝てるだぁ?ふざけんじゃねぇ、ふざけんじゃねぇおぉぉらぁああ!」
怒りの咆哮を上げながら一気にジョシュとの合間を詰めて右の拳を大きく引きつけながら殴りかかる。
一般人であればその形相に思わず後退るだろう、一般人であれば。
ジョシュは姿勢をやや前屈みに、高速で迫るカナンの懐にスッと入った。
今までよりも速く、静かな動きに対し、カナンは反射的に振り上げた拳を軸に左膝蹴りへと移行する。
その切り替えの速さに内心舌を巻きながらもジョシュもまた対応する。
眼前に迫りくる膝を左手で優しくいなし、カナンの身体が僅かに左へと流れるのに合わせて右の拳を脇腹へと捻り込む。
カナンは、自分の攻撃を防がれたと感じた瞬間には離脱を試みるも、ジョシュの動きの静かさと殺気のなさにタイミングを逃し、もろに攻撃を受けてしまったのだった。
「っぐぅ、ってぇ!やりやがったな、か弱い乙女に何しやがんだ!死ね!」
言うや否や、高速の前蹴りがジョシュの顔に迫る。スウェーで避けたところへ、器用に身体を捻りながら繰り出される逆足の縦回し蹴り。
流石に躱しきれずに片足を曲げ上げて膝で蹴りを受けようとするジョシュにカナンはほくそ笑む。
(その膝ぶち抜く!)
渾身の蹴りがジョシュの膝に当たる。
そしてーーー
「いってぇー!!!」
転がりまわり、痛みに嘆くカナンがいた。
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