第6話
衝突したとはいえ、そこは長旅で鍛えられたジョシュ。
咄嗟にカナンの体を優しく受け止め、衝撃を殺すように自分が下敷きになるように柔らかく転倒した。
反射で受け止め転びながら考える。
(え、これがここの日常?マジで?)
「ってめぇ!乙女に手ぇ出すたぁいい度胸だ!死ぬんだな?死ぬ覚悟があってのことだな?な?」
「〜〜っ!先に手を出しといてこの言い草、今日という今日は許さねぇ、カナンよ、てめぇの親父によく言っとけや、娘の育て方だけは何も出来ねぇんだなってよ!」
「……オレを失敗だと?そう言うんだな?分かった、死ね!」
「上等だオラぁ!」
そして再発する殴り合い。
ジョシュはまたまた呆れていた。あの少女の膂力は一体なんなのか、大男のタフさはなんなのか、セブンブリッジシティではこれが通常なのか。
分からない。
分からないが見ていて楽しい。こんなに明るく恨みの込めた爽快な殴り合いはあっただろうか?それも少女とオッサンが対等の力関係でだ。
過去の自分が訪れた街ではあり得なかった光景。
改めてセブンブリッジシティが特別な街なんだと思う。
ジョシュが回想しつつ感慨に耽っているあいだにも、二人の殴り合いはヒートアップし、ついには周辺の野次馬にも飛び火した。
当然、誰彼構わずの乱闘となればその矛先はーーー
「ぼーっとしてんじゃねぇ!おめぇも死ね!」
「おっと、」
ご丁寧に殴る口上を叫んでくれたのでジョシュは避ける。
「ちぃっ!逃げんな!おらっ!」
「よっ、ほっ」
「糞がぁ!かかって来いぃ!」
「ではお言葉に甘えてーー」
「ごふっ」
崩れ落ちる男。いきなり殴り掛かってきた屋台の店主らしき男を躱し続け、挑発に乗ってボディにいい一発を入れて、ジョシュも大乱闘を前に思わずハッスルしてしまっていた。
「っ!おいっ!スミノフがやられたぁ!あの余所者をやっちまえぇ!地元民の意地を見せろてめぇらぁ!」
「「「おおーっ!」」」
「えっ?」
喧嘩を買ったと思ったら、地元民の恨みを買っていた模様。しかも何故か指示を出したのは怪力少女のカナンであった。
迫りくる地元民のパンチ、キック、体当たり、果物、包丁ーーー
「わっ!包丁はマズいでしょ、っと!」
飛び交う暴力を避けて、躱して、いなして包丁は掴んで遠くに投げた。
華麗な身のこなしかと思えば、猫のようにしなやかで地面に転がることも厭わない。長旅の成果は喧嘩においても発揮されていた。
(へぇ、女みてぇな綺麗な顔してやがるが、なかなかやるじゃねぇか、おもしれー)
大乱闘が始まって早々に八百屋の親父ジョンをのしたカナンは、果物を食べながらジョシュの喧嘩っぷりを観察していた。
自分がぶっ飛ばされた時の対応といい、襲いかかる攻撃への対処は見事だと、カナンは感心しきりである。
そして顔が好奇心に溢れ、行動に移る。
「よっしゃ!もらったぁ!」
「おっ、と、残念!」
美しいフォームで飛び蹴りを放って来た青年を躱しつつ、顎に拳を放り込む。
青年は白目を剥きながら地面にダイブした。
結果を見ずにさて、次は誰かと視線を巡らそうとした最中、強烈な悪寒に襲われジョシュはその場から飛び退った。
刹那、先程まで立っていた石畳が弾けて飛び散る。
(っ!マジか!嘘だろ!?)
あまりの威力に驚愕しつつ、石畳を砕いた張本人を確認して納得した。
「へぇ、いい反応すんじゃねぇか、旅人さんよぉ、あんた余所者だろ?ここいらじゃ見ない顔だ。楽しくなってきたぜぇ!」
「いやいや、僕は、喧嘩に、巻き、込まれ、た、だけ、だ、か、ら、っうお!」
怪力少女と喧嘩するのは流石にマズいとジョシュは弁明を始めるが、カナンの攻撃は止まらない。
先程までの喧嘩であればいなす事も出来たが、先の威力を見せられては躊躇いが生まれる。
ギリギリのところで躱し続けるジョシュに余裕はない。一方のカナンは楽しげな表情を浮かべながら激しさを増して行くのだった。
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