小人プロレスに関する恐るべき真実

@HasumiChouji

小人プロレスに関する恐るべき真実

「本日は、御著書に関してのインタビューに応じていただき、ありがとうございます」

「あ、どうも、今回『小人レスラーは人権団体に殺された』を刊行しました観城 貫です」

「御本業は確か……」

「はい、出版社の夏夢社の社長です。今回の本も自分の会社から出版しました」

「で、こちらの本を書かれた切っ掛けですが……」

「ええ、何の件だったか忘れたんですが……多分、ハリウッド映画の過剰なポリコレ表現についてだと思うんですが……『まるで、小人プロレスを潰して、小人レスラーにその後の仕事の世話もしなかった人権団体みたいだ』とtwitterに書いたら……その発言に絡んできた変なヤツが居まして」

「へえ……」

「そいつは『その人権団体ってのはどこだ?』『露頭に迷った小人レスラーってのは誰だ?』『どこに書いてあった話だ?』と意味不明な事を言いまして……」

「はぁ……」

「いや、『人権団体が小人プロレスを潰して、小人レスラーを露頭に迷わせた』って、みんな知ってる常識じゃないですか? それこそ『かの牟田口廉也閣下は歴史に残る名将であり、インパール作戦の失敗を過大評価する説は、アジア解放の為の正義の戦争だった大東亜戦争を貶めんとする反日勢力の宣伝の結果である』って事が自明である程度には自明な話ですよね?」

「えっ?」

「『えっ?』って、何が『えっ?』なんですか?」

「話を戻しましょう……。普通は、そう云う相手はブロックすると思うのですが……」

「ですが、私に絡んできた気○いが……どうやら、blogで『人権団体が小人プロレスを潰して、小人レスラーを露頭に迷わせた』って『常識』は間違いだと云う反日宣伝工作を行なっている事を知りまして……」

「あの……その……どこが『反日宣伝工作』なので……しょ……う……」

「はぁっ?」

「あ、話を元に戻しましょう……。それで、その意見への反論として……」

「ええ、こう云う間違った意見は、完膚無きまでに論破せねばならないと思いまして……社員達に命じて、『人権団体が小人プロレスを潰して、小人レスラーを露頭に迷わせた』事の根拠を探させたのですよ」

「え……ええっと……御自分で調べたのではなくて……ですか?」

「それが、どうかしましたか?」

「あの……通常の業務とは別にですか?」

「もちろんです。これまで通りの仕事をこなした上で、別に私が命じた調査に対しても一定の成果を出せと命じました」

「で……では……残業代は……?」

「ウチの社員の給料は固定給です。ひょっとして『残業代出さないのは違法だろ』とかブサヨみたいな戯言を言われたいのですか?」

「あ……あの……一応……労基法で……そのっ…。」

「あのねぇ、今時、どこの会社でもサービス残業ぐらいやらせてるでしょ。イチイチ騒ぐ事ですか? 会社員の一万人や十万人が過労死したり手取りの給料が減るのと、日本が経済的に中国・韓国・台湾などに遅れを取るのと、どっちがマシですか?」

「ええっと……」

「さっきから、そもそも、一体全体、何が『ええっと』なんですか?」

「あ……あ……話を戻しましょう。その調査の結果は、どうなりました?」

「ええ、国会図書館の関連書籍をほぼ全て調べても、『人権団体が小人プロレスを潰して、小人レスラーを露頭に迷わせた』と云う情報は、伝聞情報しか、そう言っている小人プロレス団体関係者は既に死んでいるので裏を取れないかのどちらかだ、と云う結果になりました」

「えっと……『小人プロレス団体』?」

「どうかしましたか?」

「あの……小人プロレスの専門の団体など無くて、『小人プロレス』は女子プロレスなどの一部門だった筈……」

「『小人プロレス』が女子プロレスなどの一部門だと言われるのなら、逆もまた然りですよね? 女子プロレスが『小人プロレス』団体の一部門だったと云う見方も可能でしょう?」

「ええっと……」

「だから、何度も言いますが、何が『ええっと』なんですか?」

「は……話を戻しましょう。それだと……あの……書名になっているような主張の証拠はどこにも無い……と云う事に……」

「これだから、紙の本を過度に重視する頭でっかちは使えないんですよ。真実はネットにいくらでも転がってるでしょッ‼」

「あ……あの……観城さんは……出版社の社長だった筈では……?」

「それが何か?」

「ええっと……話を戻しましょう。今までの調査結果と……この本のタイトルが結び付かないんですが……」

「だから、書いてある通りですよ。確実に起きた事の証拠が残っていないとするなら……考えられる事は1つです。小人レスラー達は口封じの為に、人権団体に殺されたんですよッ‼」

「……す……すいません……あの……このタイトル……喩えじゃなくて、文字通りの意味だったのですか?」

「あんた……インタビュー前に、私の本を読んで無かったのかよッ⁈」

「い……いえ……。『どうして、最後の結論に到るか判らない』とか『最後の結論の意味が判らない』と云うAmazonのレビューがほとんどだったので……はい……」

「はぁ、そうですか……。全く、ネット上の真実より、紙の本に書いてある事を重視するヤツは、本当に頭が悪いようですね」

「えっと……観城さんは……出版社の社長……」

「だから、それがどうしたんですか?」

「では……最後にサプライズ・ゲストを……」

「えっ?」

「元『小人レスラー』の皆さんと、今でも『小人プロレス』の地方巡業をやられてる皆さんです」

「はぁ? そんなヤツ、どこに居る?」

「ですから、観城さんの目の前に……」

「何を言ってる? ネット上にそんな情報など無い以上、目の前に実在していようと信じる事など出来るモノか」

「あの……SNSもやってるし、Youtubeにも動画が上ってるんですが……」

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