思考の具現化 / 霜月誠

追手門学院大学文芸同好会

第1話

 ぼくは今日、依頼人に約束のものを送らなければならない。もし期限に間に合わなかったら(今まで間に合わなかったことはないが)、依頼人からの評価や信頼度が落ちることは確実だ。

 さっそく作業に取りかかろうと、自室の机に向かう。ぼくは糖分補給として、個装されたチョコレートを口に放りこんだ。舌の温度でそれを溶かしながら、ゆっくりと首をまわす。ポキポキと鳴る音の響きが、ぼくの疲労度のバロメーターになっていた——連日の作業の疲れか、今日は不調の音がした。

 机上に無造作に置かれた道具を手元に寄せ、スマホのタイマーを、二十五分に設定する。この二十五という数字は、ポモドーロ・テクニック——二十五分の作業時間と、短い休息時間を繰り返す時間管理方法——に則ったもので、集中力が続かないぼくにとって最適な長さなのだ。鼻に抜けるチョコレートの香りを感じつつ、ぼくは意識のピントを作業に合わせた。

 依頼人が求めるのは、具現化された思考の線である。ぼくは頭のなかにある、無数の思考の点を、線でつないでいく。できあがった線たちは、クモの巣のように複雑に絡み合うのが常だ。

 道具を用いて、線を具現化するとき、線たちは自在に形を変える。ものすごく長い1本になったり、短いのが連なったりした。まっすぐに伸びたかと思えば、一瞬でぐちゃぐちゃになってしまい、ほどくのに手間がかかることもある。

 ぼくが具現化において重要視しているのは、長さの違う線をバランスよく配置すること、誤って線を消してしまわないこと、線がどの点をつないでいたかを取り違えないことだ——作業を投げやりにしないことが、なによりも重要だったりするのだが。

 二十五分の作業時間の終了を告げるタイマーが鳴ったタイミングで、ぼくは机から布団に移動した。この作業の利点は、場所と時間を問わずに進行できるところにある。布団の上であぐらをかきながら、再び作業に没頭する。


 二十五分の作業時間の終了を告げる、もう何度目かわからないタイマーが鳴る。ぼくはタイマーの鳴りはじめと同時に、依頼人に約束のものを送った。スマホで時間を確認すると、ゆとりをもって期限に間に合ったようだ。

 安堵したぼくは、道具を布団からどかすと、ごろんと仰向けになった。そして目を瞑り、深くて長い呼吸を3つしたところで、意識を手放した。





あとがき


 今回は、「頭にある断片的なアイデア(思考の点)を組み合わせて(線にして)文字に起こす(具現化する)」という自分の執筆スタイルを、そのまま作品に出してみました。抽象的でなぞなぞっぽい作風にしたかったので、いろいろ言葉を言い換えています(文章→具現化された思考の線、執筆→作業、パソコン→道具、編集者→依頼人、約束のもの→小説)。行き当たりばったりで書いたので、文章力のなさが全開ですが、少しでも面白いなと思っていただたら幸いです。

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思考の具現化 / 霜月誠 追手門学院大学文芸同好会 @Bungei0000

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