閑話その2「親バカと帰って来た二人」


 ここまで語り終えた所で業務時間となり子供達は皆帰した。子供達はルリとモニカが連れて出て行き、ユリ姉さんは弁当を食べ終えると同じく業務に戻った。そして現在、部屋に残ったのは那結果だけだ。


「ま、これが二人との出会いだ」


「おや、聞いていた話と少し違いますね?」


「俺の視点でのファーストコンタクトは次に話す内容だ、ただ二人からしたら俺との出会いはこっちらしい」


 実は向こうは俺の事を知っていて接触し次に会った時にさも初対面という対応をしたのが慧花だ。


「そして当時は互いの顔も身分も知らず互いに印象最悪だったのが、このわたくし、秋山セリカその人ですわ~!!」


「ですわ~!!」


 今、自分で言った通りの嫁が一人いた。しかも部屋に帰したはずの娘と息子を引き連れ戻って来た。


「セリカ、お前……いつ帰った? 今日は帰りは夕方だと聞いていたが?」


「それは私から説明するよ快利」


 すると続いて入って来たのはブロンドの美女と同じ髪色の男子が入室した。見ると先ほど帰された俺の娘の利星も一緒だ。それは当然だ三人は親子だ。


「慧花、お前もか……それと、おかえりカイン向こうはどうだった?」


「はっ、はい……父さっ……あっ!? 父上」


 家に居る時のように喋ろうとした瞬間、隣から刺す視線で咄嗟に言い直す息子と視線を送った嫁に俺は苦笑しながら口を開いた。


「良いんだよ、ここでは父さんでもパパでもな?」


「えっ、で、ですが……」


「快利、あなたはカインや利星に甘過ぎるといつも……」


「ママは厳しすぎま~す」


 そして後ろで兄を励ましつつ母に意見するのは利星だった。兄弟姉妹の中では少しおませさんでお父さんは心配な子だ。可愛いし美人だし、とにかく可愛いから!!


「まあまあ、それより帰還報告を頼む、セリカ大使及び慧花総武官?」


 今言った通り妻たち、特に外に出て仕事している彼女らは当然だが役職が有る。自治区だが実質は一族経営で要職には親族&知り合いだらけだ。そもそも今や俺の一族が王族に連なるんだから仕方ない。


「忘れているようですが我らは今やグレスタード王国の大公つまり貴族ですからね快利? 扱いは四大公爵家と言えど特別なのです」


「いや正直、ドノンのおっさんのとこ以外は全部特別だろ? それでエルントゥーナ以外の二つはどうだった?」


 そこで俺は残りのエルントゥーナ家以外の二家、ドインマーグド家とカルスターヴ家の情勢を聞いていた。ま、二つとも身内みたいなもんだけど一応は聞いておく。


「ドインマーグド家いえセリーナの方は純血派が悪さをしてるようだよ快利」


「そうか師匠は他には?」


「特には、そういえばカインの剣の腕を褒めていた、そうよねカイン?」


 そう言われて一歩前に出たカインは嬉しそうな顔を隠さず興奮して成果を自信満々な笑顔で言った。


「はっ、はい!! セリーナ様に剣を褒めていただきました父上!!」


「そうか、さすがは俺の子だ!!」


 その顔だけで俺も満足だ。跡取りのなんと誇らしい事だろう。きっと俺を越える賢王になるに違いない今から将来が楽しみだ。


「親バカですね」

「親バカだよ」

「親バカですわ……」


 嫁たちの親バカ三重奏で俺は息子を褒めただけで呆れられていた。




「ゴホン、では次にセリカ、ダインはどうだった?」


「ええ、父上の報告通り少しづつ成果を上げていますわ」


「そうか、これでカルスターヴ家の復興も軌道に乗るか?」


「ええ、いずれ戻る家ですからキチンと守らせてますわ、ただダインは国中の鑑定で今は地獄を見てますわ」


「ますわ~」


 そして戻るであろう張本人の娘のルフィナは今日も元気に「ですわ」を連呼している。母親の口癖が移っているな……可愛い。


「そうか、たまには俺にも回してくれ少しなら手伝うさ」


「そんな余裕が快利に有るとは、ではこちらの書類をお願いします」


 余計なことを言った結果、仕事が増えた。


「那結果……お前、鬼か?」


「いいえ、秘書で嫁ですが何か?」


 仕方ないから書類をまとめつつ俺は報告を聞いていた。復興したカルスターヴ家と火種を抱えているドインマーグド家そして異世界からの防衛を担う辺境伯に近い公爵家である秋山家どこも大変な家だ。


「おっさんの家が羨ましい……」


 四大家で唯一、平和そうなエルントゥーナ家を揶揄するとセリカが報告書を見ながら口を開いた。


「エルントゥーナも色々と大変そうですわ、末の孫娘が思った以上の魔力持ちで家が割れているそうで」


「そうなのか? そう言えば前に来たヴィクトルも中々の強さだったな」


「そうなのです問題は彼の妹ですわ。女なのに魔力が高いという点で、ね?」


 それを聞いて俺は納得した。当たり前だが遺伝というのは向こうの世界にも存在する。そして魔力や魔法は子に遺伝する。ならば魔力量や魔法の質を上げたい時はどうするか? 答えは高い者同士を結ばせ子を産ませるだ。


「なるほど、どの家も血を欲するか……なら分家筋もか?」


「そのようで、いたいけな十代の少女には家族以外の親族の男が全員レイプ魔に見えるそうですわ……」


 そして四大家でも末席の孫娘など狙い目も良い所だ。外に嫁に出るのは確実で産ませれば子は優秀なのは確定済み。なら既成事実さえ有れば手に入る。強引にでも手籠めしようと考えるだろう。


「会ったのか?」


「ええ、メルファという娘です。豪胆でしたが少し危うく折れそうな娘でしたわ」


 どこか諦めと悔しさを含んだ笑みを浮かべるセリカを見て自然と口が動いていた。昔からコイツの言葉は放っておけない。出会いからそうだった。


「助けたいのか?」


「しようとしたら断られましたわ、自分も自身の純潔も自力で守るそうですわ」


「そうか、ライの親族らしいが……祈るしかないか」


 おっさんの孫娘なら俺のかつての旅の仲間でもあるライカルドの一族にも当たる。俺としても知り合いの孫だし政略結婚は避けてやりたいとこだ。


「ええ、そうですわね」


 だが数年後に俺と彼女は再会する事になる。しかも、その時横に居るのは……おっとこれ以上は未来の話だ。ただ一つ、彼女を照らし守る騎士を見出すのが俺になるなんてこの時は思っていなかった。




「報告は以上ですわ」


「私もだ快利」


 子供達が出て行くのを確認すると改めて二人に頼んでいた報告をしてもらう。そして終わると俺は落胆した。


「それで第一次Y計画の生き残りは?」


「三名だ……じゅうぶんに仕上がったさ」


 慧花が沈痛な面持ちで言うのに頷くが顔を見る限りハッキリ分かる。失敗だ。


「慧花、それで犠牲者は?」


「半年で六名だ」


 やはり死者は出たか……分かってはいたが最悪な結果だ。


途中帰還者リタイヤ組は?」


「五十名弱だ……」


「そうか、故郷には戻れそうか?」


「十六名だけは国に戻れる手筈だ。元々が機関出身者だったから……だが他は」


 機関とは文字通り、こちらの世界各国からの養成機関から選ばれた精鋭だ。得られた情報や魔法の研究成果を母国に持ち帰る気だろう。


「残りは島で引き取る、無事な奴は保安部に、戦えない奴は区役所でな」


「それが快利、リタイヤ組の半数以上はグレスタードに戻りたがってるんだ……」


 慧花の言葉に俺は困惑した。何で本国に戻りたいんだ。地獄の半年だったろうに……何でだろうか?


「何でだ?」


「そのぉ……割と結ばれる率が多いのでしてよ快利」


「マジか!? それは予想外な結果だな……ある意味で成功かY計画?」


 セリカの話で驚かされた。なるほどな、まさか研修よりも恋愛がお盛んとは……最近の子は進んでると感心した。先ほどから話しているY計画だが正式名称『勇者育成計画』で次世代量産型勇者を作るのが狙いの計画だ。


「だが戦力の補充と言う意味では失敗だ」


「Y計画はあくまで近衛の代わりになる戦力を生み出し島と王国本土に配備し、こちらの世界への抑止力とすること……ですからね」


 そのために本国の近衛騎士と同レベルの上級魔法や+7以上のスキル持ちを増やし複数名で勇者に近い者を疑似的に生み出す計画だ。数年前に頓挫した人造魔王計画にも似ているが最大の違いは育成という点だ。


「星明や尋人には優秀な者を見定めさせているんだがな……」


「まあ仕方ないさ快利、あの二人は本当に貴重だった、今からでも早瀬くんも島に戻すべきでは?」


 Y計画の前身となる計画で俺は一人の少年を送り出した。彼は俺や王国の出した試練を突破し二年で魔法を中級まで修得した。あと五年もすれば上級に手が届くレベルで現状で唯一のY計画の成功例だ。


「あいつの傷はまだ癒えないさ……なら向こうで後進を育成させた方がいい」


 ただ、あいつ早瀬尋人が異世界に渡った理由が悲しいもので奴の心の傷を癒すためのものでも有った。だから俺は未だ心が壊れたままの尋人を戻すのは反対だった。


「それとですね、向こうで働き口も増え始めまして、そちらに回そうと考えてます」


「向こうで? 何かあったのか?」


「ええ、スーパーHOJYOの王都支店でね、なんせ店長と王都支社長が求人をかなり出してるからね」


 スーパーHOJYOは日本でも多く展開する北城グループの経営するスーパーマーケットのチェーンだ。そこの会長を始めとした上層部と千堂グループが懇意にしている関係上と俺達も付き合いをしていた。それに俺には個人的な付き合いも有る。


「そうか悠斗は元気だったか?」


「ええ、それにあの二人も元気そうでした」


 そして、島と日本を結ぶ食料調達をそのグループの御曹司である青年が極秘に請け負っていた。そいつが北城悠斗だ。そして俺は、とある事件の解決と後処理を手伝いそいつと友情を築いた。


「本当に傷は癒えたのか? やはり俺が……」


「快利、君の悪い癖だ。二人は傷は消さず向き合うと決めた……自らの罪に」


 慧花に強く言われたが納得はできない。救える者を救わないなんて救世主失格だ。


「だけど、それは……」


 あの二人は自己満足で良いだろう。だけど悠斗はどうなる? 俺の友は……あの事件で深く傷つきながら二人を守ったアイツの思いは?


「悠斗さんも納得済みでキチンと断られましたわね?」


 セリカに強い語気で言われ俺はハッとした。そうだった……三人は俺の力の行使を望まなかった。


「ああ、そうだったな……でも悲し過ぎるじゃないか……あんな結末」


「その悲しみを強さに変え二人は己を律しているのですわ快利、現に今は二人は悠斗さんを支えてますから」


 それを言われたら何も言えない。本人達が良いと言ってるのに俺が介入するのは違うな。例えそれが正しい行いだとしても本人らが望んでいないのだから。


「ふぅ、そうだな……本当にお前には勝てないなセリカ、それに慧花もさ」


「当たり前だ快利、私は王国にいた頃からずっと君に夢中なんだから」


「わたくしも同じく、ですわ」


 その二人の言葉に俺は再び当時を回想し始めた。

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転移先がブラックとか聞いてない!!――勇者になってもヌルゲーじゃありませんでした―― 他津哉 @aekanarukan

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