第10話「運命の出会いが二連続? こいつら未来の嫁です」


「キレるってのは凄い怒るって意味だ」


「なるほど……そこまで分かっていながら解放したので?」


 頭ではバカな事をしていると理解している。だけど俺の心がそれを許さなかった。自分のトラウマや過去から少しでも目を逸らしたくて乗り越えた気になりたくてしただけだから結局は自己満足だ。


「ええっと……」


「まさか何も考えてないのですか?」


 ただ自分が嫌な気分になるからという理由だけで王様の命令に反したなんて素直には言いたくない。たぶん俺の立場も悪くなる。だから俺は必死に考えた。


「ふぅ…………違うさ」


「考えをお聞きしても?」


「ああ、王様は良かれと思って罰を下した。だけど不満とかさ……戦争いや戦場では邪魔だと思うんだ、迷いとか色々とさ……」


 自分で何を言ってるか分かっていない。だけど精神論についてエリ姉さんに教えられた事を俺なりに思い出して話していた。


『いいか、快利!! ベストなコンディションで戦える条件は環境で必須だ!!』


『ど~いうこと?』


 当時の俺は小学生でエリ姉さんは中学生で、この頃から体形だけではなく考え方も大人びていたエリ姉さんに俺は教育されていた。


『全力を出すには万全な環境が必須だ、それこそフィジカルもメンタルもどっちも重要視される!! 万全な環境と迷いの無い精神が大事なんだ!!』


『ふ~ん……でも勉強と関係なくない?』


 その後に頭をはたかれ良いからやれと最後は脳筋理論で勉強させられた。こんな半虐待状態で俺は教育された。問題はこの教えをどうやって相手に伝えるかだ。考えあぐねていた俺だが、ここで予想外の展開になった。


「なるほど、勇者殿は精神的な強さを説いておられるのですね?」


「え? あ、うん!! その通り!! よく分かったな!!」


 なんか上手い具合に勝手に勘違いして納得していた。そして俺はそれに乗る事にした。取り合えずテキトーに相づちだけ打ってボロが出ないように必死だった。


「やはりか……しかし勇者殿が学生というのは納得だ。きちんと学問を修めてらっしゃるんですね、一定の視座と見識をお持ちのようだね?」


「ま、まあ、成績は真ん中より少し上で……そこまでは」


 なんかユインズが無駄に気安くなってる気がするな。こいつ一応は厳罰だったはずなんだが……。


「ですが勇者殿は文字を書けるし書を読む事もできる……ゆえに兵の士気についても考えられた!! 実際、士気の下がった兵など使えませんし、それに――――」


 その後も色々と勝手に納得してくれたユインズと無駄に話し込んでしまった。


「ま、納得してくれたんなら良いさ……ふぅ」


「いえいえ、貴方という人間が少し分かりました」

(君はとんでもないお人好しだね快利、気に入ったよ僕は……)


 それから数時間後、落ち着いた様子で第三騎士団を連れてユインズは戻った。そしてメイドらを上手く逃がす方法を考えていたら翌日、王に呼び出された。




「へ? 良いんですか?」


「お前が、望んだのだろう?」


 翌朝、なぜか俺の行動は全てバレたのだが王に許された。何が起きたのか全く分からない。あれだけ反対していたのに不思議だ。


「だけど……俺は――――「とある人間にやり過ぎと言われてな、それに快利よ、お前の精神論も納得だ。自分で辿り着いたのか?」


「えっと……向こうで原型は教えてもらった感じかな」


「そうか、良い師がいたのだな……その者に感謝したい……よくここまで立派に」


 エリ姉さんが良い師匠かは謎だけど……てかユインズの言葉を聞いたのだろうか?今さら王様が戦場送りにした部下と会うとは思えないんだけど……謎過ぎる。


「立派かは分からないけど、何で王様そこまで……」


「っ!? すまんな勇者のお前の成長が嬉しくてな……とにかく今回はメイド共は不問に処す、その代わり快利よ今後は勝手な行動はしてくれるなよ?」


「はいはい、分かりましたよ……じゃあ俺は部屋に戻ります」


 そう行って俺は謁見の間を出た。その後に何が行われていたのかを知ったのは随分と後の話だった。



――――Sideケーニッヒ


「もう良いぞユインズ……いやケーニッヒよ」


 快利が退出すると入れ替わりに私が隣の会議室から入室した。今のやり取りもキチンと聞いていた。


「ユインズの振りも中々に上手かったでしょう、父上?」


「まったく、快利に会わせないようにしていたら変化系のスキルを使い会いに行くとは……困ったものだ」


 そして父、フリードリヒが言うと同時に私は元の顔に容姿を戻した。ユインズは既に前線に送ったし何より彼は私の命を忠実にこなしてくれた。


「僕の代わりに勇者を見定めるようにってね、そして期待以上の働きをしてくれた……そして僕が昨晩、最終面接さ」


 そろそろ正体を明かすと私こそがケーニッヒ第三王子その人だ。転移して来た勇者の存在が気になり部下を使い彼を推し量ろうとした。


「お前が昨晩あそこまで言ったのだ。快利の願いを叶えれば力を発揮すると」


「ええ、間違いなく今回の事は彼のためになりますよ」

(そして私のためにもなる……彼には万全で居てもらう必要が有るからね)


 だから愚かなメイド共も元の職場に戻した。もっとも、それだけじゃない。彼の考え方にも一部共感したし彼の考えに非常に興味を惹かれた。


「そうか、では近いうち正式に会ってもらう」


「はい、父上……」

(あんな甘ったれが勇者か、でも知識や理論は私の知らない事も多い……それこそ父上のように……なら精々、役に立ってもらうさ)




 それから数週間、城にも慣れ始め体が万全になったから次の訓練かと思ったのだが違った。いきなり俺は王様に呼び出された。


「なんすか? てか例の事なら許してくれるって話じゃ?」


「違う、実はお前に頼みたい事が有るのだ」


「勇者の訓練では?」


「それは少し休憩だ。実はお前をある者に引き合わせたいのだが中々時間が合わなくてな、前線にいる息子がいると話しただろう?」


 例の第三王子か、ユインズの尊敬てか慕っている王子だろう。実は第一王子と第二王子とは先日、顔合わせをしていた。二人とも超美形イケメンだった。


「戻って来たんですか?」


「まあな、近い内に会わせようと思う」


「そうですか、じゃあ俺は何で呼ばれたんですか?」


 そこで王様は少し躊躇した後に口を開いた。


「実はお転婆娘がいてな」


「王様のですか?」


「いや、私の部下で親友の娘だ……貴族なのだが城下に行っては色々と騒動を起こしてな、困った者なのだ」


 つまり貴族の御令嬢か。あれかなドリルロールみたいな金髪とか扇子持ってて嫌味ったらしいのだろうか? 俺の中の貴族の令嬢のイメージなんてこんなもんだ。


「へ~、それで俺と何の関係が?」


「近衛の者にも探させているのだが、今日は城下に行くのだろう?」


 どうやら勝手に外に出ているらしい。彼女の父つまり当主は今は最前線で戦っていて今は城に預けられているそうだ。


「その娘の名前は?」


「セリカという我が王家に代々仕えてくれているカルスターヴ家の後継者だ」


「ふむ、セリカ様、ですか……分かりました」


 人探しならなんとかなるだろう。城下町と言っても日本の歓楽街より人は圧倒的に少ないし一部はゴーストタウン化してるから見つけるのは簡単そうだ。特徴を色々と聞くと俺は城を出た。




「何気に城下を自由に歩くのは初だな……」


 思わず取り返したスマホでパシャパシャしてしまう。実は俺のスマホだが意外と元気だ。理由は俺の持ってきたハンドバッグに有る。その中にソーラー式の充電器が入っていた。


「一応は表通りは最低限の市場は有る感じか……」


 だが活気は無い。この国がいかに危機を迎えているかが分かる光景だ。俺は屋台の一つで焼きサンドと呼ばれるホットドッグに似た物を食べ歩きして令嬢を探す事になった。


「あ~、王国兵だけど良いですか?」


「はい、何でしょうか?」


 王様からもらった近衛兵のバッジを見せて聞き込みを開始した。だが王様からの証言が雑過ぎた。貴族令嬢で全体的に赤い恰好をしているそうだ。年齢は妙齢で成人前と聞いたから18か19と言った感じだろう。


「という訳なんだが……」


「ああ、そんな年齢の女性は見た覚えが無いですねえ」


「そうか……」


「赤い恰好の娘なら向こうの奥、路地裏の教会の方に……」




 その話を聞いて俺は路地裏に行くと地獄だった。一歩入ると腐臭が漂い目つきの悪い浮浪者だらけだ。スラムという言葉を示すのは目の前の光景だ。


「俺が路地裏に行こうとした時の店主の顔はそういう意味か」


「けっ、王国の騎士かよ」


 俺を見る目が明らかに厳しい。何というか王城内や表通りと違って明らかに敵意の視線が見えた。まあ貧乏人が政治家を恨むのは世の常だ。


「そうだが?」


「騎士様が何の用だよ」


「人を探してる、あんた赤い恰好した女を見なかったか?」


「は? 何で教えると思ってんだ?」


 やはり無理かと立ち去ろうとした時に不意に感じた嫌な感覚に俺は一瞬戸惑った。どうするか悩んでいると俺の背に声がかけられ咄嗟に反応していた。


「そこの騎士!! 後ろですわ!!」


「ちっ!!」


 男がナイフを腰だめにして突進して来たが今の俺は余裕で対応できる。剣を抜くまでもない。というより木刀以外は使いにくいから素手で対応する。


「舐めやがって!!」


「いや、違うんだが……取り合えず仕留めるか」


 軽く捻ると後頭部を殴って昏倒させる。これで大丈夫なはずだ。


「助かったよ……ありがとう」


「あまりにも動きが隙だらけで思わず声が出てしまいましたわ」


「そうか悪かったな小娘、そんで君は誰かな?」


「何と無礼な……それに名を尋ねるならまずは自分から、ですわ」


 生意気そうな赤髪の少女がそこに居た。着ている服は庶民にしては上質な布地の黄色のワンピースみたいな服だ。


「めんどうな小娘だな、じゃあ俺は……あっ……」


 勇者って名乗ったらダメだったんだ。お披露目までは近衛の新人騎士と名乗れと王命だった。城から出る前に言われたのをすっかり忘れていた。


「それで?」


「はいはい、俺は近衛騎士団のカイリという者だ、お嬢ちゃん?」


「はっ、近衛? 嘘ならもっとマシなものを付いたらいかが? あなたのような者、見た事が有りませんわ」


 なんだこのクソ生意気な小娘……身なりからして良いとこの商家の娘か? 見た目は小学校の二、三年生くらいだろうか。


「いやいや、そりゃ君みたいな子供じゃ見た事ないだろ?」


「え? わたくしを……ゴホン、もしかして新人の方?」


「えっ? 何で新人だと分かったんだ?」


「え? それは……あなたのような腑抜けた男は見たこと無いからですわ!!」


 なるほど確かに俺も転移して数か月だが未だ元の世界の甘さや風習は抜けてない。十七年間も向こうで生きて来たから顔から平和がにじみ出ているんだろう。


「そりゃ悪かったな……そうだ、君に聞きたいんだが妙齢のレディを探している」


「ナンパですの?」


「違うから!! てか子供がナンパとか言うな!!」


 最近の子供が進んでるのは異世界でも同じらしい。まったく子供のくせに困ったものだ。


「頭ごなしに無礼な……ふぅ、あなたのような者が近衛とは……」


 小娘に盛大に溜息をつかれてイラっとしたが俺の方が明らかに年上だ。落ち着くんだ快利……これでも俺は勇者だ。


「……悪かったな、では改めて探しているのは貴族の女性なのだが知らないか?」


「きっ、貴族ですの!?」


 この反応……分かった。この小娘は関係者と見た。なら気づかない振りをして情報を聞き出すのが定石だ。エリ姉さんも言っていた。策にハマったと見せれば相手は油断し自滅するとね。


「まあ、知らなそうだし仕方ないな~」


「知らない!! そんな貴族の義務を果たしている完璧な侯爵家のレディなんて、わたくし知りませんわ~!!」


 大当たりだ。さて……問題はどうやって聞き出すか……それが問題だ。彼女を通して問題のセリカ嬢を探さなくてはいけない。




「カイリ!! 次はこちらですわ!!」


「はいはい、お嬢様」


 そして俺は教会でこき使われていた。荷物運びと他にも薪割りと大変だった。どうしてこなったかと言えば目の前の皆からお嬢様と呼ばれている小娘の指示だ。


「それにしても、陛下も人員を寄こしてくれるならキチンとした者を……」


「へいへい、悪かったなお嬢様」


 彼女は王城関係者と言った。こんな小娘でも商家の娘らしく働いているそうだ。だから彼女から事情を聞き出すため仕方なく教会で手伝いをしている。


「シスター、この小娘……じゃなくてお嬢様の言ってる事は本当ですか?」


「え、ええ……その、お嬢様の言う通り……です」


 苦笑しつつ小娘の顔色を見ているのは大の大人が情けない。


「そうですか」

(聖職者って言っても金持ちのガキにヘコヘコしててさ)


 支援者のとこのガキだし仕方ないのか。俺も向こうでは一応は社長の息子だったんだけど優遇された事なんて一度も無かった。


「どうしましたのカイリ?」


「なんでも無いですよお嬢様?」


「そうですの? 何か嫌な事が有ったのかと思いましたわ」


 意外に鋭い。それとも教養が有るから俺の表情に気が付いたのだろうか。そう、俺は世界で二番目に嫌いな人間を思い浮かべたから顔に出たんだろう。


「少し、嫌な事を思い出しただけです」


「そうですの……ですが安心なさい近い内に解決しますわ!!」


「どうしてですか?」


 そんな簡単に解決しない問題だ。だが俺の心の中なんか完全無視して目の前のお嬢様の話は続いていた。


「あなたも近衛なら知っているかと思いますが勇者様が降臨されたの!! この情勢も魔王軍を倒し王都の窮状も貧困も勇者様が解決して下さいます!! 」


「勇者……ですか?」


 目の前に居るんですけどね……勇者。


「ええ!! お父様が言ってました、勇者様は民や王家そして、わたくし達を救う素晴らしき方なのだと話して下さいましたの!!」


「あっ……そう、ですね」


 俺を胡散臭い目で見ていた時とは違って目がキラキラしてる。これすげえプレッシャーだな現実は俺だなんて分かったら失望されそうだ。


「どうしましたの?」


「いえいえ、そういう顔をしてれば年相応で可愛らしいと思ったんですよ」


 咄嗟に出た言葉だった。正体がバレないようにと考えたら、この言葉しか出なかったんだ。ま、確かに顔の造形は美人さんで可愛いとは思う。


「なっ!? ぶ、無礼な……無礼です、わ……」


 そんな時だった。和んだ空気が一瞬でぶち壊される悲鳴が教会に響き渡った。




「いたいた、あの騎士と小娘ですぜアニキぃ~」


「ほう、てめぇらか」


 教会の表に俺と小娘が出るとシスターの一人が、いかにもなゴロツキ達に捕まっていた。これまたテンプレな……。


「誰だ?」

「誰ですの?」


「お、俺を忘れたのか!! さっきだぞ!!」


 そこで二人して数刻前を思い出す。そう言えば雑魚を昏倒させて放置して来たのを忘れていた。


「下賤な方は記憶に残りませんの、失礼」


「う~ん、あんまりにも一瞬だったから、ごめん」


 俺は小娘と違ってキチンと謝ったぞと相手を見た。だが向こうは怒りを鎮める所か逆にキレていた。見ると人数も十人くらいに増えていた。


「まあ、いい、お前もだが今回はそこの金持ちの嬢ちゃんに用が有る」


「なんですの?」


「いつもの護衛がいねえじゃねえか、だからさ、てめえの親から金をふんだくれるって寸法よ!!」


 護衛が普段は付いてるのか……やはり金持ちなのは確定か。それにしても何者なんだろうか、この小娘?


「愚かな……顔を晒して誘拐? 成立するとでも?」


「するだろ、お前意外み~んな殺しちまえばよ!! やるぞお前ら!!」


 そして奴らはいきなり魔法を放った。そして俺は動かざるを得なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る