第9話「下された罰と勇者の決断」


「いやいやいや、意味分かんないから」


「勇者殿、陛下に対し言葉遣いがあまりにも――――「構わん今回は私が悪い」


 カミルさんや他の近衛が俺に突っかかるが王様が制して話は続いた。今回は完全に俺は被害者だし王様と横に居る俺にとって因縁のある男は詳しい事情を話し出した。


「説明してくれんだよね? そいつも含めて」


「ああ、ユインズは私が付けた……しかし随分と予定とは違ったが?」


「申し訳有りません、陛下……」


 隣で拘束されているユインズ百騎長は実は俺の護衛役で本来の所属は第一騎士団だった事が明かされたんだ。


「護衛の割に俺は酷い目に遭ったんだが?」


「その件に付いては勇者殿、私は第三王子ケーニッヒ派でして」


「ケーニッヒ派? 何だそれ?」


 また謎の単語が出て来たが俺は先を促した。そして分かった事は異世界グレスタード王国の複雑な政治事情だった。


「なるほどケニーのシンパか、貴様は」


「シンパ?」


 後で知ったがシンパとは英語のシンパサイザーの略で陰ながら援助や信奉する者を表すという意味だった。俺は当時は知らなくて、この世界の言葉だと思っていた。


「つまりファンという意味だ快利」


「ニュアンスで何となく分かったけど……それが俺と何の関係が?」


「それは――――「そうか……本物の勇者様が現れたなら殿下の御立場は……」


「ああ……」


 カミルさんの言葉に頷くとユインズは事情を話し始めた。どうやら第三王子というのが俺が現れた事で失脚する可能性が高いらしい。そういえば前線で戦っている唯一の王子がいると転移してすぐの時に聞かされた気がする。


「いや、今の状況なら戦力は多い方が良いだろ? 何を言ってんだ?」


「そう、なのですが……」


「勇者殿、実はケーニッヒ殿下は勇者の生まれ変わりであると国内で言われてまして……それで」


 そもそも王家には勇者の血統つまり血が脈々と受け継がれていたらしいが目の前の王様も含め何代も前から目覚めて無いらしい。だが件の第三王子は証である王家に伝わる聖剣を使う事が出来るそうだ。


「つまり、その第三王子のために俺を暗殺しようとしたのか!?」


「はい、何を言われても私は……殿下のためなら……」


 だがもし俺が本物ならば聖剣を含め全ては俺に権限が委譲されるらしく実際に王様の方針はそういう風に考えているそうだ。


「だからユインズも含め最前線送りにするつもりだ、最後は国の役に立て」


「はっ、陛下……それに勇者殿も……失礼致します」


 そう言うとユインズ百騎長は衛兵に連行されて行った。来週には最前線に送られるそうだ。何というか色々と複雑だ。だが処分はこれだけで終わらなかった。




「次は城外から雇ったメイド見習い、そして第三騎士団と協力し快利の排除に協力した者を全て奴隷に落とす!!」


「は?」


 何を言ってるんだと思ったが当の王様や近衛騎士達はやる気満々だ。すぐに総出で城内の俺を排除しようとした女性、主に第三騎士団所属でメイドをしていた妻や恋人らを一斉に拘束した。


「沙汰を言い渡す!! 全員奴隷堕ちだ!!」


 集められたメイドや城内で仕事をしていた五十名の女性は全員が辺境の地で奴隷にされる事が国王の命令で決まった。裁判なんて無かった。ここで王国制だから王が絶対だと俺は思い知らされたんだ。


「いやいや、王様それはやり過ぎだ!!」


 これには流石に異を唱えた。正直な所を言うと最前線送りもやり過ぎだと思ったくらいで問答無用で彼女らの自由を奪うのは酷過ぎると思ったんだ。


「何を言っている快利、これは世の常だ」


「そうです勇者様、ましてや世界を救う鍵となるあなたを廃した反逆者のような人間だ、例え女子供でも容赦はすべきではない!!」


 王や騎士らが頷いている一方でメイド達は許しを請う言葉と謝罪や土下座を繰り返している。だが王たちは一切の容赦をしないと宣言した。


「だ、だけど……子供まで……」


「お許しを勇者さま助けっ――――「黙れ!! 反逆者風情が!!」


 そう言うと押さえつけられたのは俺に飯をくれなかったメイドで副団長の妻らしい。隣にいるのは娘で一緒にメイド見習いをしていたらしく震えて俺を見ていた。


「な、何もそこまで俺は――――「当然の報いだ、見ておけ反逆者はこうなる!!」


 そう言って二人は容赦なく殴られると気絶させられた。それを見て俺はガチでドン引きだった。確かに酷い目に遭わされたけど目の前の光景は異常だ。


「お前は慈悲の心で接しようとしているが、この世界は違う!! 生き残るためには必要な犠牲だ、高校生のお前には少し難しいかも知れんが学ぶのだぞ」


「ああ……だけど、お、俺は……」


「ふむ、もうよい連れて行け!! 奴隷に落ち、少しでも国に貢献するのだな!!」


 そう言うと騎士や兵士たちに連行されて行った。最後まで許しと慈悲を願う声が玉座の間に響いて俺の心はグチャグチャになりそうだ。俺は被害者なのに何も間違って無いはずなのに、まるで俺が俺の方が加害者みたいだ。


「さて快利、利用して済まなかった。許してくれとは言わんが代わりに褒美を与えたいと思う」


「いや、俺は……そんなの――――「せめてもの罪滅ぼし、受け取ってくれないか? 頼む……快利よ」


 当時の俺は罪滅ぼしなんて言われて「何で?」という感じだった。この真相を知るのは七年後になるのを当時の俺は知らない。当時の俺は利用された怒りと同時に国のためなのも納得した。だから怒りはするけど理解はしていたんだ。


「分かった。なら王様、褒美とか要らないから、さっきの連中の解放とか……」


「ならん!! それはならんぞ快利」


「…………分かった、いえ、分かり……ました」


 そして俺は王国が発行している戦時下で有効な紙幣といざという時に宝石と一級品の装備を渡された。そして数日後には俺専用の装備も譲渡されるらしい。その日は結局それで終わり俺は久しぶりに王城の部屋へ戻った。


「何で……なんで、こんなに胸糞悪いんだよ……こういうのってスカッとするんじゃねえのかよ、テレビとか漫画ではそうだったのに何でだよ……くそっ!!」




 そして数日後の深夜に俺は王城を出て森の小屋にいた。既にこの時、俺は王城内では眠れなくなっていたから……寝る時は小屋の中と決めていた。それだけ王城内では警戒を怠らなかった。


「そう、だよな……悪いのはアイツらで原因だって……」


 俺は独り言で自分を納得させようとしたが落ち着かなかった。今も脳裏から離れないのは連行される女子供の悲鳴や懇願、それにユインズの最後の言葉で呪詛のように何度も頭の中をリフレインしていた。


「でも、あいつら俺に最後は助けを……あっ!?」


 思い出したのは向こうの世界つまり現実の世界での俺へのイジメだった。理由は分からないけど親友のようで少しだけ恋心を抱いていた子やクラスメイトから俺は謎のイジメを受けていた。


「やられたから今度はやり返す? だけど俺は……そんな事は」


 去年までは仲の良かった俺の親友で二度目の恋……それは無残にも打ち砕かれた。少しの間、疎遠になってから急に豹変して俺はただ驚いて後は苦しかった。もっとも疎遠になった原因が俺だと知るのは七年後の話だ。


「今度は俺が、俺の方がイジメ側に?」


 俺は小屋の中を行ったり来たりしてブツブツ呟く。思い出すのは家での不遇な扱いと学校でのイジメ他にも今までの不幸な自分の生い立ち全てだ。そんな事が頭の中でグルグルと駆け巡り俺はフゥと溜息を吐いて大声で怒鳴っていた。


「俺は……俺は!! あんな奴らと同じになりたくない!!」


 気付けば勝手に体が動いていて俺はメイドらが連行された場所をスキルで探し出していた。そこからの行動は早かった。俺は不意打ちで門番らを気絶させると彼女らを解放した。


「な、何で私達を……」


「もちろん利用するためだ、俺の力は分かってると思うから大人しく付いて来い」


 支給されたばかりの鎧を着て俺は威圧感を頑張って出して彼女らを連れ出す。当時の俺は転送魔法はおろか転移魔術ですら修得しておらず五十名近くを連れて歩くのは大変だった。特に森の近くでは魔物が多くて護衛しながら進むのも一苦労だ。


「あの、どこ、まで?」


「もう少しだから、頑張ってくれ」


 そうやって声をかけながら途中で回復魔法や医療魔術で一団を癒しながら進んでいた。どうやら数日ですでにひどい扱いを受けていたようで足を引きずってる者も居て俺は罪悪感から治療していた。


「そ、その、ここで何をするんだい?」


「もう少しで迎えが来る、それまで荷物まとめておいてくれ」


 なぜか身支度を整えてる女性陣を見て不思議だったが俺は昨日の内に狩っておいた魔物の肉やら薬草やらの布袋を渡した。道具は王様の褒章で街中で用意したものだ。


「え、これって食料?」


「後で必要になるからな昨日の内に魔力抜きもしておいたし……って、どうしたんだよ、あんたら?」


「これは、いったい?」


「ああ、それは――――「勇者殿お待たせ致しました……」


 そして話を聞く前に迎えが来た。それはユインズ百騎長だった。俺は明日、前線に送られる予定の彼や第三騎士団を逃がす計画を立てていた。だからギリギリまで悩んでいた。このタイミングで逃がさないといけないと考え行動した。


「他のやつらは?」


「勇者殿、この先の演習場に……」


「そうか、ではそこまで彼女らを連れて行く」


「は、ですが……」


「お前ら全員で俺に負けたんだ、言う事は聞いてくれ」


 そう言うと全員がおとなしく付き従った。そこで俺は家族らを再会させた。せめて戦地に行く前に会わせてやりたかったし、彼女たちの無事も知らせた方が良いと思った。奴隷落ちしたと聞いて絶望したと聞いたのも俺の重荷だった。




「その、勇者殿、こんな事したら陛下が……」


「ああ、キレるだろうなぁ……」


「あの勇者殿、キレるとは?」


 ユインズの言葉に頷きながら俺は満足していた。目の前では小さな宴が開かれていて出陣式に近いものらしい。彼らにとっては罰則の意味合いの出陣で家族は人質で奴隷落ちだから士気は最悪だったそうだ。だから俺はダメだと思ったんだ。

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