後編
残り時間は十分。半ばやけくそ気味に大問三に取り掛かる。
そもそも、この問題の解答は「15分」だ。たかだか15分の移動距離を、こんなに必死になる必要があるだろうか。それとも15分あればラスボスの元へ辿り着いてしまうのか。どんな距離感だ。近所のスーパーか。
そんな時だった。ふと、気づいた。
——たかしくんが意図的に聖剣エターナルなんとかを置いていった、という可能性はないだろうか。
たけしくんに追いかけさせることが目的だったとか。何か、たけしくんとタイミングをずらして出発しなければならない理由があったのかもしれない。
そう、例えば——敵の目を欺くために。
「これだ!」
思わず声を漏らしてしまったが、今は周りのクラスメイトの視線も気にならない。ようやく、自分なりの真実に辿り着いたのだから。
自信満々に回答用紙へ書き込んでいく。たかしくんは敵に追われていて、兄弟二人が一緒に住む家までついてこられてしまった。そこで、たかしくんは聖剣エターナルなんとかと、たけしくんを置いて、家を出た。非武装なら狙われるリスクが上がる、言い換えれば、囮として有用だからだ。
そう、つまり、たかしくんはたけしくんを守るために先に出発したのだ。
シャーペンが滑るように動いていく。そうか、そうだったんだ。遅ればせながら、たかしくんの意図に気づいたたけしくんは慌てて後を追う。たかしくんの相棒である、聖剣エターナルなんとかを持って。
ああ、きっとそうだ。ようやく追いついたものの、そこにいたのはボロボロになったたかしくんだった。それを見たたけしくんは——。
夢中でシャーペンを走らせる。
キーンコーンカーンコーン。気づけば、試験時間は終わっていた。
*
時は流れて、一週間後のテスト返却日。数学の加藤が淡々と生徒の名前を呼び、テスト用紙を渡していく。一喜一憂するクラスメイトを見ていると、どんどん手汗がにじんでくる。
「中野くん」
「あ、はい!」
名前を呼ばれて、席を立つ。期待と不安で大きく脈打つ心臓を押さえて、教卓の前に立った。
加藤が小さく息を吸う。
「中野くん。大問三のあなたの回答はとても良かったです。ドラマティックでカタルシスのある胸アツ展開でした。書き手のパッションが溢れんばかりにほとばしっていましたね」
真顔で眼鏡を押し上げながら言う加藤。横文字が多くてよくわからないけれど、どうやら褒められたらしい。
「ただ、一点だけとても惜しいミスがありました」
加藤は解答欄を指差して言う。
「私は言ったはずです——たけしくんの覚醒はなし、だと」
——たけしくんは15分後にようやく追いつく。しかし、そこにいたのはボロボロになったたかしくんだった。それを見たたけしくんは、聖剣エターナル(略)の真の力を解放し、敵を一掃した。本当は、たけしくんこそが聖剣の真の持ち主だったのだ。
そこには、赤い字で「たけしくんが覚醒しているので減点」と書かれていた。
45分間の戦い 空飛ぶ兎 @rabibi_uto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます