中編
十二時三分。試験時間も残り十五分強となった頃、教室の扉が遠慮なしに勢いよく開けられた。音に驚いた生徒達が一斉に顔を上げる。
「皆さん、試験お疲れ様です。数学の加藤です」
真顔で眼鏡を押し上げながら言い切る加藤。堅物みたいな容姿、言動の彼が、聖剣エターナルなんとかを書いていたのかと思うとなんだか複雑な気持ちになる。楽しかったのだろうか……。
加藤は表情を変えず、定型文のように言葉を続けた。
「何か質問のある人はいますか?」
教室中が押し黙った。理由は明白、疑問だらけだからだ。何をどう質問すればいいのか、逆に戸惑っているのである。
「質問、ありませんか?」
ありすぎるくらいです。
教室内は「お前が行け」「いやお前こそ行け」と誰もが周囲に目配せしている。試験中とは思えないレベルのアイコンタクトだ。カンニングを疑われてもおかしくない。
「……はい」
上田さんが手を挙げた。常に学年上位の成績と噂の彼女なら、この難問を打破するような質問をしてくれるに違いない。
「大問三についてなんですが——」
きた。
「助っ人として、父のただしさんを登場させてもいいですか?」
「駄目です」
「んぐうおお……」
先ほどと同じクラスメイト達がこちらを振り返った。視線に哀れみが増している。
頭のいい人は、なんというか、やはり自分のような一般人とは違う思考で生きているのだろうか。そうか、父のただしさんを助っ人に、か……。
それにしても、即答した加藤も加藤だ。これくらいの質問は想定内だったのだろうか。守備範囲が広すぎる。
「他に質問もなさそうですので、私はこれで失礼します」
そんなことを考えていたら、早々に加藤が立ち去ろうとしていた。しまった、結局、大事なことを何も聞けていない。
「ああ、それから——」
教室を出ようとした加藤が振り返る。
「大問三ですが、大事なことを一つ伝えておきます」
皆が一斉に身構える気配を感じた。
「移動中、たけしくんの覚醒はなしです。では皆さん頑張ってください」
無常に響く扉の音。見なくてもわかる、教室中が呆気に取られた顔をしていた。
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