45分間の戦い

空飛ぶ兎

前編

 たかしくんは分速60メートルで目的地へと向かいます。

 数分後、弟のたけしくんは兄の忘れ物に気がつきました。そして、たかしくんが出発してから15分後にたけしくんも出発します。たけしくんは分速120メートルで兄を追いかけます。


「兄さん……! 頼む、間に合ってくれ!」


 どうか、この聖剣、エターナルライトニング・ファイアオブドラグニティ・アブソリュート・K・インフィニティソードを、決戦の前までに兄さんに届けなくては!


 さて、この時、たけしくんは何分後にお兄さんへ忘れ物を届けることができるでしょうか。




「……」


 机の上を走るシャーペンの音がぴたりと止む。自分だけじゃなく、教室中の音が、だ。

 時刻は十一時四十三分。今日は中間試験二日目、そして四時間目の真っ最中である。このテストを乗り切れば給食という心のオアシスに辿り着ける、そう思った矢先の出来事だった。


 えっなんだこれ。なんだこの問題。いや、えっ、なん……だこれ。


 問題が問題と化している。それなら、むしろ正しいのか。いや、そんなことはどうでもいい。

 落ち着け、自分。あまりに予想外の設問で面食らってしまったが、よく考えれば、今は数学の試験時間だ。普通に、数学の問題として計算して解けば正解のはずだ。

 そう思って、解答用紙に目を落とした。




 ※ドラマティックな解答を書いてくれた人には加点します。




「んっぐ、うおお……」

 思わず唸り声を上げてしまった。何人かのクラスメイトが同情と哀れみを込めた視線を向けてくる。おそらく、自分より先にこの文言と対峙した同志達だろう。面構えが違う。


 ドラマティックな解答とは何か、そもそも加点されるなら満点は百点じゃないのか、それともドラマティックな解答含めて完答扱いなのか、というか聖剣の名前がクソダサいとか、ツッコみたいことは山ほどある。山ほどあるが、今はそんなことをしている場合じゃない。

 とりあえず、この問題は後回しにして他の問題を解いていく。時計を見れば、もう十一時五十五分だ。残り時間はあと二十五分。大問三として出してくるような問題に時間をかけすぎだ。すぐさま後半の問題に取り掛かる。

 気づけば、周囲から再びシャーペンが走る音が聞こえていた。クラスメイト達も同じ考えらしい。

 自分も負けてはいられない。予想外の難問は一旦、思考の外に置き、次の問題へと目を落とした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る