最後の応援(後編)
「ほう、どんな作品だね」
「それは、なんと言いましょうか、社長との交流を語っているようです」
「なるほど、彼なりの反旗かな? まあよい、儂が自分で確認しておこう。ところで今日の動きをざっと聞かせてくれ、たまには儂が指示をしよう」
私は嬉しかったのかもしれない。
k―enが動き出した。
それがどんな目的を持っているのか、そんなことよりも、k―enの創作物を堪能できることに胸が躍る。
喜悦を感じ、普段は任せきりにしているギルドの運営に対し、状況を確認し自らが指示をしてやろうという気分になった。
「S級ライターは、8、12、16が連載作品をアップしました」
秘書はタブレットを眺めながら答える。
「他のS級で問題は?」
「1、2は相変わらず鬱が続いています。食事は行っていますが文化的な活動は行えていません」
「他は?」
「3から7まではストック執筆中、9、11は書籍化作業中、それ以外はスランプのようですね」
S級用の個室は20あり、先日空室になった18番以外全部埋まっている。
「スランプの連中に最終通告。三か月以内にまっとうな作品を書かない場合、A級への降格か「ライター」から「レビュアー」への転職に処すとな」
実際、A級への降格でギルドへ所属を続けている前例は無い。
降格の場合、適当な安アパートへの引っ越しと数か月分の家賃という初期装備だけでは、すぐに生命維持ができなくなる。
もちろん猶予期間にA級相当の活動が再開できれば再援助の対象だ。
「レビュアー」の場合、一つのレビュー原稿で5000円。もちろん対象作品を読み込んでもらう必要もある。
こちらはアパートなど住居の配慮は行わない。しばらくネットカフェにでも通える程度の蓄えはあるだろう。
「……承知しました。次にA級ですが……」
私は秘書の報告に対し適切な指示を続ける。
応援コメント、応援数、星の付与、レビュー。
先ほどのインタビュアーは、ギルドの構成員数が数百アカウントと予測しているようだったが、実際はその十倍を軽く超える。
「リーダー」と呼ばれる読み専、「レビュアー」と呼ばれる感想記述者、そして創作活動を行う「ライター」、それ以外にも様々な情報提供や諸活動に協力してくれる人々によってこの「ギルド」は維持されている。
すべての行動は金に換算され、ちょっとした小銭稼ぎから、個室での優雅な暮らしまで、望む報酬に値する活動を行ってもらっている。
自分の作品に様々な評価が付き、指定された行動をするだけで現金を得られる。
金を払っているのは私であって、それは個人的な金の使い道だ。
将来性を買って投資すると言えば、それは美談であり純粋な善意でしかない。
恣意的にユーザー評価が高い作品を生み出すことなど、大した問題ではないのだ。
「次に、新規作品の中に読める作品が三点ほど報告に上がりました」
ギルド内にも下読みは存在する。
新しい作家を見出すのも重要な仕事だ。
「いつものように5話~10話程度までA級、B級のアカウントで応援。更新頻度の高い一作品には星を50個、他は30。一般ユーザーの反応が良い方に継続応援」
「承知しました。スカウトはいかがいたしますか?」
「星500を目安に、質と更新頻度、一般ユーザー数で考えるとしよう」
「承知しました。次に書籍化作品の印税徴収についてですが……」
私の指示はそれからも続いた。
夜になり、一人の時間にk―enの作品を読む。
それはあの頃、二人で交わした創作論だった。
「懐かしいな……」
作中、私への告発めいた内容が潜むが、これがk―enの限界だ。
k―enの創作に決定的に欠けていた部分、それは覚悟。
命を賭してまで何かを得る覚悟の差が、私と
自然な評価を得たいとキミは言ったな。
作られた評価に意味など無いと。
だがどうだ? 私を見ろ。この投稿サイト上に存在する多くの作家を管理し、物語の嗜好性までも指示できるのだ。
没入できる世界を自由に紡ぎだすことができるのだ。
好みの作品に有象無象の反応を与え、書籍化しやすい世論を醸成することすらできるのだ。
それは神にも等しい行為だと思わないか?
私は
なあk―en、私はキミと夢を追いたかった。
キミの作品がこれっぽっちの評価しか得られないこんな世だ。
もう拘らんでもいいだろう?
これがキミに贈る最後の応援だ。
数か月後、いったいどれだけ評価を得られているか、期待しているよ。
私は昼間のインタビュアーの名刺を取出し、作品を検索し拝読する。
「ほう、これはなかなか……B級からスタートだな」
ユーザーネームにリンクされているツイッターアカウントを叩き、DMを送る。
「投稿作家ギルドにようこそ」
―― 了 ――
kーenに告げる K-enterprise @wanmoo
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