300日後に死ぬオレ ー殺した人間の寿命が奪える世界でー
@ame-sarasa
1日目 余命宣告
「ガンです」
俺の行き付けの闇医者である鷲山祐未先生は俺にそう告げた。相変わらず白衣にクールな美貌が良く目立つ。
「元々あった肝臓のガンが肺に転移してしまっているわ。ステージは4ってところね」
やはりそうか。時々全身に激痛がはしる時やめまいが起きることがあった。
俺の身体はもう回復不可能なほどにボロボロなのか……。
「軽々しく言ってくれますね」
「結構、真剣に言ったつもりだったんだけど。第一、重く言おうと軽く言おうと状況は変わらないもの。もっと厳しい事を言うようだけど、寿命は、よく見積もっても一年」
「一年ですか……」
「ただ、この世界において寿命なんて言葉、意味がないことぐらい、あなた、いや高野律君ともなれば分かっているでしょう。だって、人を刺殺すれば、寿命が奪えるもの。」
この世界では刺殺した人間の寿命が奪える。それは、願いが叶うとされる12振りの刀を集め、神となった男が世界のルールを再構築したからだ。
そのせいで、ただの一般人だった人たちが殺し合い、世界は荒廃した。奪った寿命によって、老いていた身体は若返り、不治の病も回復する。
奪い取った寿命は今の自分の状態に関係なくクリアに手に入る。どんな病気も老衰も奪った寿命には適用されない。
「あなたって人は本当に底の知れない人です。なぜ俺の仕事を知っているのか」
「ふふ。闇医者という職業上、情報はあらゆる所から回ってくるのよ」
俺は刑事をしている。ただし、特殊警察。今では最も犯罪件数が多くなった刑法199条、殺人罪。その中でも刺殺を行った加害者を殺す秘密裏に組織された部隊。誰も守らないこの法律の唯一の守護者。
「酔狂な人だよな、先生も。医者なんて職業が儲かっていたのは過去の話だというのに」
「金儲けの為にやっている訳ではないから…… それにキミみたいな刺殺に抵抗がある人まだ少しはいるしね」
医者はほとんど廃業されたと言っていい。なぜなら、他者を殺めればどんな傷も病気もその寿命によって治ってしまうからだ。
だからこそ、こんな世界でも自分の患者を他者を犠牲にしないで、助けようとする鷲山先生を俺は尊敬している。
「俺は殺しに抵抗があるから、ここに来ている訳じゃない。俺の誓いのために寿命を奪うことが出来ないだけなんだ」
「そう。それは左腰に付けた得物の影響かしら?」
「もう十分だろ。薬をくれ」
俺の武器に干渉されるのはいくら尊敬する鷲山先生でも避けたかった。俺は話を逸らす。
「それは構わないけど。ただ、私程度じゃ痛み止め程度の薬しか出せないわよ。あなたの身体は内側もボロボロだけど、外側だって傷だらけなのよ。どうやったら、若冠二十歳でそんな傷を負う人生を歩めるのよ」
俺の事を真剣に心配しながら、鷲山先生は薬を渡してくれる。いつもすまない。
「今日も行くの? 戦場へ」
「ああ。俺にはそこしか居場所がない」
「また、来なさいよ。元気な姿で、ね」
俺は鷲山先生に金を払い、この荒れ果てた街にぽつりと存在するこの病院を出た。
300日後に死ぬオレ ー殺した人間の寿命が奪える世界でー @ame-sarasa
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