第17 二人の想い
夏祭りと花火大会に来た私達は二手に分かれ、私は康介君と夏祭りの会場をまわる事になった。
嬉しい半面、複雑な心境の中、康介君と一緒にいた。
《相変わらずだなぁ~…康介君…》
「相変わらずだね?康介君」
「何がやねん」
「手を繋ぐ事。私、迷子にならないよ」
「迷子になる前に繋ぐんや!今日は特に恭ちゃんに釘打たれてんのにから!」
恭吾君の名前を聞いて、さっきの恭吾君の表情と台詞が脳裏に過った。
《…恭吾君…》
ブレスレットを見つめる私。
『うまくいくと良いね』
「………………」
《どういう事なのかな?》
《私の想いに気付いてる?》
《でも…康介君…好きな人いるし…うまくいくわけないんだけどな…》
「あっ!ねえっ!どうして好きな人、誘わなかったの!?」
「また、その話かいな」
「答えるまで聞きまくるっ!」
「ウザっ!」
「ねえっ!今から誘いなよ!連絡先とか知らないの?」
「知らへん!」
「同じ学校?」
「おっ!金魚すくいや!」
「うわっ!」
グイッと私の手をひっぱり金魚すくいのある出店に駆け寄る。
話は中断。
康介君は、無邪気な子供のように、金魚すくいをやりだした。
隣で見ている私は、康介君の腕前に驚く。
かなり上手い。
「す、凄い…」
《いや…そんな事より話はぐらかされたよね》
私達は、それから色々と廻る。
「ねえ、康介君」
「何?」
「康介君の好きな人って…どんな子?」
「えっ?」
「性格とか…康介君が元気だから逆におとなしい子なのかな?それとも一緒に騒げるような感じの女の子なのかな?」
「…明るくて、みんなのアイドルや」
「…そっか…じゃあモテモテだね」
《アイドルか…じゃあ…可愛い系なのかな…?》
私は泣きそうになった。
「じゃあ…誘うタイミングなかったのかな?モテモテかぁ~…。私なんかで…ごめんね~。つまんないでしょう?」
「いや大丈夫やで」
「気使わなくて良いよ」
パッと繋いでいた手を離す。
「悠菜?」
康介君と一緒にいると辛いだけだ。
私は歩き始める。
グイッと腕を掴まれ引き止められた。
「悠菜!一人で行くなや!」
「大丈夫だよ!」
「大丈夫やないっ!夏祭りの場所から寮までは一緒におらなアカン!」
「………………」
楽しいはずの夏祭りなのに
どうしてこんなに切なくて辛いの?
《夏祭りなんて…来なきゃ良かった…》
《こんな事だったら…みんなと廻った方が…》
「なあ悠菜」
「…何?」
「そういうお前は好きな男(やつ)いてへんの?」
「……」
「…………」
「……いるよ……」
「…えっ?」
「でも…既に失恋してて…」
「…そうなんや…」
私は掴まれた手を離すと歩き始める。
「悠菜っ!待つんや!」
「……………」
「…恋愛って…難しいよね…?」
「………」
私達は、出店を廻る所か賑わっている前を通り過ぎ、気付けば奥まで来ていた。
出店もない人気のない静かな場所で遠くで賑わっている声だけが聞こえてくる。
「悠菜?疲れたんか?」
「慣れない格好していると…流石に疲れたかな…?」
「…そっか…何か食べたいものとかないんか?」
「大丈夫。康介君、何かあったら買って来なよ。私、ここにいるから」
「こんな場所で一人は危険過ぎやろ?」
「……………」
「せっかくの夏祭りなのに…楽しさも何もないね。やっぱり好きな人誘えば良かったって後悔してない?」
「悠菜…あんな好きな人、好きな人言うてるけど…俺は……」
その時だ!
「あれぇ~?もしかしてお邪魔だった感じ?」
「カップル発見!」
「今から楽しい事でもする所だった感じだったのかな?」
私達の前に2人の男の人達が現れた。
《最悪だ…》
「ねえ、彼女、俺達と廻ろうよ」
私の方に歩み寄り始める彼等。
スッと康介君が私の前に立ち塞がった。
「退けよ!」
「……………」
「…じゃあさ、彼氏さん彼女貸してよ!」
「貸す?ふざけんなや!退く事も渡す事もでけへん!」
「良いじゃん!」
「大事な連れさかい、あんたらに渡す訳にはいかへんのや!諦めや!」
「カッコつけやがって!」
「ムカつく!」
「悠菜…離れときぃ…」
ドキン
「…康介…君…」
「彼女に指1本でも触れてみぃ。俺も他のみんなも許さへんで!」
「みんな?意味分かんねーんだけど?」
「つーか…素直に渡せば良いだけの事じゃん!」
「そうそう。付き合ってるならいつでもデート出来るっしょ?」
「彼女渡して俺達も楽しませてよ?彼氏さん」
「…何回も言わせんといてな?渡せるわけない。言うてるやろ?」
「チッ!」
康介君は、2人とやり合う。
2人は逃げるように走り去った。
「全く!何やねん!邪魔すんなや!」
私はそう言う康介君の背中を見つめ気付けば康介君の背中に抱きつき顔を埋めた。
「悠菜…?」
「……き…」
「えっ?」
「私…康介君が好…っ!」
グイッと手を掴み後頭部を押すようにされ
ピュ~~……
ドーーン……
パラパラパラ……
花火が上がるのと同時に押し付けるように強引に唇を塞がれた。
ドキン…
「…お前が好きなんや!」
「…えっ…?」
掴んでいた手をゆっくり離す康介君。
「…誤解…してるみたいやったし…言うタイミングもあらへんかったから…せやけど、お前いてるんやろ?好きな男(やつ)。恭ちゃんやない感じやし…」
「…いるよ…だけど…私も勘違いしてたみたいだから…」
「えっ?」
「私…春日 悠菜は…今、私の目の前にいる桜木 康介が好きです!」
「…えっ?」
「私は…あなたが好き…」
「………………」
私は康介君に抱きつく。
康介君は抱きしめ返した。
ねえ……
恭吾君は知っていたの?
それとも気付いてしまった……?
あんなに切ない恭吾君の表情を見せたのは
私達のお互いの気持ちに
気付いていたから……?
“うまくいくと良いね”
あの言葉と切ない表情をしたのは
きっと……
あなたは私達の
お互いの想いを
見抜いていたんだよね……?
その日の帰り。
「恭吾君…ありがとう……。…それから…ごめんね……」
「えっ?……あー…なるほど……そういう事かぁ~…うまくいったなら良かったね」
「…でも…恭吾君…」
頭をポンポンとする。
「そんな顔しないの!気にするな~」
本当は辛いはずなのに
笑顔で対応する恭吾君。
私は申し訳なく
泣きそうになる。
「悠菜ちゃん」
ぐいっと抱き寄せる。
「泣きたいのは俺だぞ~。悠菜ちゃんが幸せなら、それで良いから。何かあったら相談でも何でものるから。だからそれで良いんだよ悠菜ちゃん」
私は頷く事に精一杯だった。
~ EN D~
パラダイス学園 〜 桜木 康介 編 〜 ハル @haru4649
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