第21話 鉄血のセフィナ ①

鉄血―――と叫びながらモンスターを殴り殺したのは勇者ギルドのサブマスター、セフィナだった。


 赤く光る腕が元通りになるのを見つめた後で、彼女は兵士たちの方を向く。


「危なかったわね、兵士さん」


 2発の打撃により見事モンスターを倒して見せたセフィナの佇まいに、おお……という感嘆の声が兵士たちから上がる。


 彼女は視線をそのまま俺の方へ移し、すこし驚くような顔をした。

 やばい……俺、殺されるのか?


「あら、アレス。なんでこんな前線都市に、モブの貴方がいるの?」


 目が合うなり、毒づかれる。


「だれがモブだ……お前こそ何でこんなタイミングよく飛び出てきてんだ」


 セフィナの疑問より、こっちの疑問のほうが先に湧いてきた。なぜ俺たちが戦闘してるところにこう都合よく登場することができたのだろうか。


「それは、こいつらを追っかけて来たからよ」


 セフィナは倒したモンスター、そして未だに俺が捕えているモンスターを順番に指差して言った。


「追っかけて?」

「そうよ、追い返すのに失敗したやつらが何匹か居てね……まああんたには関係ない話よ」


 ふん、と彼女は鼻を鳴らす。どうやら心の底から嫌われてしまっているみたいだ。


「それより、あのそよ風を止めてもらっていいかしら」


 不機嫌なままの声色で言われる。再び《加護》を馬鹿にされカチンとくるが、もはや続ける意味も無いのでおとなしく従った。


「ああ……しっかり倒して見せろよ」

「ええ。出来ないあんたの代わりにね」


 心底むかつくな!と心の中で叫ぶ。そして、突風を止めると、やっと自由を取り戻したモンスターがこちらへ向かってくる。

 彼女の《加護》が再び発動し―――構える拳は赤い光を取り戻す。


 この加護について、俺は詳細を聞いたことはない。本人はそれを分かっているのかすら知らないが、外から見てわかるのは、とにかく「筋力」って感じのスキルを得ていると云うことだけだ。


 モンスターはさっき倒されたやつと同じく、一辺倒に叫びながら突進してくる。こいつらは魔界の生物の中でもかなり知能の低い部類だろうが、図体の大きさとどう猛さは人間にはとてつもない脅威だ。

 その巨大なモンスターの突進にぽつんと一人の女が対峙する。とてつもなく異様な光景であるはずだが、この場面に限ってはとてつもなく頼もしい。

 モンスターがセフィナに肉薄する。彼女は右腕を、重い袋を放り投げるように振り、こぶしをモンスターの側頭部へぶつけた。


―――ドサリ。


 気を失ったか命が絶たれたか、殴られたモンスターは眠るように地に崩れた。




「協力感謝する、ギルドの副長よ」


 セフィナが重いフックでモンスターを倒してしまった後、兵士たちはすっかり平静さを取り戻していた。20名程はそろっていたはずだが、セフィナに礼をする指揮官と数人以外は、市場の復旧や調査のために散って行ってしまった。


「いいえ、私たちがモンスターを取り逃がして迷惑掛けたわね」

「とんでもない。我々もギルド員の手を借りず、確実にモンスターを殺すことが出来ればこのような事態にはならないだろう。不甲斐ないものだ」

「王国軍の協力は絶対に欠かせないわ、自信をもっていいのよ」


 セフィナからの気遣いの言葉に、一瞬だけ指揮官は眉をひそめた。この王国に兵士とギルドの明らかな身分の違いというものはないが、それがまるであるような、つまり彼らが下であるとも取れる言い方は彼のカンに障ったはずだ。


「……有難い」


 指揮官の言葉は一度途切れた。何か言葉を探してるようだ。


「特にラタイアで実戦経験を積んでいるあなた達は一番信頼しているわ」

「ここでもギルドと協働してやっとのことではあるが……」

「それは私たちも一緒よ。また、全員で協力して戦う日が来るわ」

「そうだな、今度の決戦が中止となったのは残念だったが、準備はいつでもできている」


 中止となった決戦―――ラタイアイ平原で行われるはずだった作戦のことだろう。あそこにはギルドメンバーと合わせて、ラキア王国軍も勢ぞろいしていた。しかし、きっと上手くいくかわからない戦いにこうも意欲的なのは少し意外だ。


「海峡まで敵が迫ってるのは変わらないし、そう遠くはないはずね」


 戦いがまたあるだろうということを確認し、安心したところで指揮官の彼も町の復旧作業へと去っていった。

 それとともに、俺の方へセフィナが歩いてきた。

 まずい―――と俺の本能が感じ取る。追放の1件から初めて顔を合わせるが、今となっては部外者であるだけの俺……問答無用で始末されてしまう可能性もゼロではない。


「数日ぶりね、アレス」

「ああ、ブレウスは一緒じゃないのか?」


 ギルドマスターと一緒じゃないセフィナは珍しい。


「ギルドマスターなら、あの壁を作ってからすぐに残党狩りに行ったわ。あんたには関係ないんだけどね」


 そういってセフィナは先ほど通りの建物を突き破って出現した城壁を指さした。


「あれは何だったんだよ」

「それはもちろん、あの上を走ってここまで駆けつけるためよ」

「それはよく考えたな、でも俺の風の《加護》があればもっと楽なのになあ」


 わざとらしく頷く動作をして見せる。いつの間にか横にいたユクリアも同じく「うんうん」とやっている。

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マイナーモブ集団が世界を救う?! ~《不死の勇者》たちの最強ギルドを追放されたので、隠れたスキルを持つモブ達と一緒に見返すことにしました~ プロジェクターK @deadhimo

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