日本も異世界もかわらない。

@oitukanai

第1話

 あれ? いないのか? 珍しいな、普段だったら俺が帰れば家にいるのに……まぁいいか。


 とりあえず風呂でも入るか……


 風呂に入ると言っても湯に浸かるわけでは無く、とりあえずシャワーだけ浴びて浴室をでたけど……まだ彼女の姿は無い。


 喧嘩とかしてたっけ? いやしてない。というか付き合ってから一度もしてない。

 携帯に連絡も無いし、別れるにしても2年付き合って、何も言わずに出て行くとかはしないだろう。


 てか、荷物もあるしな。

 でも電話してみても電源切れてるし……打つ手がない。

 ……まぁ子供じゃないんだから、その内帰って来るだろ。


 そんな事を考えながら寝室の扉を開いた。


 「――あ?」


 ヤバイ……頭が……


 部屋の扉を開けると、俺は貧血のような感覚に襲われた。

 そして受け身をとるようにベッドに倒れ込んだ。


 なんだ? こんな疲れてたかな? 意識が飛びそうだ……

 もういいや沙彩も帰って来ないし、今日はこのまま寝ちゃおう。







―――――――――――――




 は? 夢? ……いや違うだろ! 冷静になれ俺!


 俺はさっき確かに家のベッドで寝たな?

 寝た。それは間違いないはずだ……


 じゃあこいつらは何だ? 外国人?

 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11人……お、後にも何かいる、女の子……だな。金髪!? てか何だこれ? 女の子の下に魔法陣みたいなのが……


「せ……セーラ様!?」


 おおビックリしたなぁ! 


 俺が後ろの様子を伺っていたら前から声が発せられた。


 俺の名前は小鳥居 星來ことりい せいら。『せいら』であって『セーラ』ではない。けど生まれてこの方、大体セーラって呼ばれてきたから別にいいんだけどね……


「おお……セーラ様が……」「奇跡だ……」「何故!? そんな記述は……」「その格好は?」


 ……じゃなくて何で俺の名前を知ってるんだ?

 それに皆外国人みたいだし……………………!!


 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ

!!!!


 よくよく考えたらコイツらが喋ってるの日本語じゃない!


 とりあえず何らかの方法で俺が眠くなるように仕向けた沙彩が、俺にドッキリを仕掛けているんじゃないかと考えていたんだけど、これは違う!


 明らかに初めて聞く言語なのに俺は理解してしまっている……どういう事だ? 夢か? いや、その考え方は現実逃避だ……待て、とりあえず何か喋っといた方がいいか?


「は……はじめまして」


「この透き通るような声……やはりセーラ様」


 俺が挨拶をすると、11人の中の1人のオッサン紳士みたいなのが感慨深い顔をしている……あれ?

 あれあれ? 何だ今の声? 俺が発した声だよな?


「ンッンん」


 俺は試しに咳払いをしてみたが、やっぱり俺の声だ……何これ? ん? 何か皆でかくない? いや、細身の女の人もいるし、この女の人もバランスを考えて見ても特に大きいわけじゃないよな……俺が小さい?


 …………うん。

 見る限り鏡も無いけどわかるよ……俺今女の体になってるわ。手小さいし、何か胸膨らんでるし……何より……あるはずの場所にあるはずのモノがある感覚が無い。てか何か髪の毛も白いし……別人の体に乗り移ったかのような……


 わかった……分かったよ。

 これはドッキリでもなければ夢でもない。

 俺は、意識を失った後、何らかの方法で異世界に召喚されたんだ。


 現実離れはしている。色々思うところも考えるところもあるけど、今はこの状況が俺にとって安全か……が1番大切だな。


 見た所この11人は俺に危害を加えそうな様子には見えないけど、何だ? 皆高級そうな服、例えるならヨーロッパ風な服装をして、貴族みたいなオーラを漂わせている……オーラとか知らんけど。


 後にある魔法陣の上の女の子と、11人の中心に立つ偉そうなジジイの左横に立つ女性はドレスか……こいつらは何で俺の名前を知ってる? しかも様付けだし……しまいには俺は今女の体をしているはずだから別人を俺として認識しているのか?


「皆様、一度落ち着いて下さい」


 俺が頭をフル回転させていると、偉そうなジジイの右横に立つ金髪の男が声を発した。


 騎士みたいな感じなのか? 腰に剣を携えて堂々とした佇まい……それに顔は……メチャクチャイケメンじゃねーか……


「セーラ様が召喚されるのは想定外の出来事です。ここは一度、続行されるのか、変更されるのかの会議を開く事を提案致します」


 そのイケメン騎士の言葉で皆少しだけ落ち着きを取り戻したらしい、それぞれが頷いたり、肯定的な意見を言ったりしている。


「セーラ様」


 イケメン騎士が俺に近づき名前を呼んだ。


 まぁなんだイケメンは気に食わないけど、イケメンに様付けで呼ばれるのは苦しゅうない。


「はい」


「セーラ様も混乱されている事と存じますが、このような場所では落ち着いて話しをする事も出来ません、ですので一度部屋を変え、そこで現在のレスティオールの状況と、何故セーラ様が今ここにいるのかを出来る限り説明したいので、お手数ですが――」


「はい、いいですよ」


 話が長い! 俺は何が言いたいのか分かったので食い気味に返事をした。


 俺の返事をきっかけに、イケメン騎士が部屋の扉を開き、偉そうなジジイを筆頭に部屋を出て行く。


 俺もその後を追って歩き出したが、後ろの女の子と他数名は部屋に残るようだ。


 人の感情を思うなど俺のキャラでは無いが、女の子は悲しそうな表情をしているように見えた。







―――――――――――――――





 そして別の部屋に案内された。

 案内される時に辺りを見回した結果、あくまで推測に過ぎないが、ここは城のような場所なのではないかという思考に至った。


 廊下には赤い絨毯、電飾などは豪華な装飾が成されていて、通り過ぎる部屋の扉もしっかりとした作りの物に見えた。何より広すぎる……200メートルは歩いたんじゃないか? これで4日は歩かなくても良いだろう。


 途中、偉そうなジジイ達とは別れ、現在はイケメン騎士と2人でこの豪華な部屋にいるわけだけど……俺の頭もようやく働いてきたようだ。


 冷静になってみて1番思うのは……異世界とかありえなくね? なんだけど、実際俺の体に不可解な事が起こっている以上何でもアリだろうな。


「セーラ様」


 イケメン騎士が俺を呼んだ。


「何ですか?」 


「セーラ様さえ宜しければ、セーラ様が現状理解している事の説明をお願いしても宜しいでしょうか?」


 なんだ? お前が説明してくれるんじゃなかったのか?

 偉そうなジジイと別れる時に何やらコソコソ話していたけど、その時に考えが変わったのか?


 とりあえず俺の理解している事を話す気は無い!

 これが俺の考えてる通り、異世界召喚、又は異世界転生、それはどちらでもいいけど、


 そうだった場合、アニメやラノベの主人公みたいに安直な行動は出来ない。

 見た所敵意は無さそうだし、召喚したくらいだから、何らかの理由があって召喚したんだろう。


 確か奇跡とか記述がどうのって言ってたよな?

 まぁ召喚はしたが、召喚した結果がイレギュラーって所か……ふむ。


「記憶が……無いんです」


 どうだ! これが最適解だろ?

 俺は敵か味方か分からん奴等に俺の知ってる情報や、置かれている状況を知られたくない!


 しかし! お前達は召喚した側の人間だ! 事情があって召喚したんだ! 記憶が無いと言われればお前達から説明するしか無いだろう……勝った……計画通り!!


「……記憶が?」


「はい」


「ですがご自分の名前は認識していた様子に見えましたが」


 チッ……細かい男だな……男ならドンと構えんかい!


「はい、お……私もその事について考えていました……どうして私は自分の名前も知らないのに、あなた方に呼ばれた時に星來という名前が自分の事だと思ったのか……ですが私は……私はその名前が私だと思ってしまったのです! 私があなた方の言う通り星來という人物なのだとしたら、記憶の何処かで覚えていたのかもしれませんね」


「そう……ですか」


 何が、そうですか、だ。

 どう考えても苦しいだろ! これが人狼なら俺間違いなく吊られてるよ! というか……


「あの……」


「なんでしょうか?」


「鏡はありませんか?」


「鏡ですか?」


「はい」


 いちいち聞き直すんじゃねーよ鬱陶しい! あ、無いのか? この世界に鏡が。


「ございますが」


 じゃあ聞き直すな馬鹿。


「貸して頂けませんか? 自分の顔を見たら何か思い出すかも知れません」


「お待ち下さい」


 まぁ、女の姿をしている自分を見たいだけなんだけどね。

 とりあえず自分視点見えるのは首から下が細身で、胸はまぁ、普通くらいかな? それと腰くらいまで伸びる白い髪か……


 これで顔は変わらず俺だったらキツいからな……顔を触ってみた感覚だと男っぽい感じはしなかったけど、念のため確認はしないとな。


「どうぞ」


 イケメンが戸棚から手鏡を取り出し俺に渡した。


「…………」


 俺は不細工ではない事を願い、恐る恐る鏡を見た。


 マー……ヴェラス!!

 神はいた! というか俺自身が女神?

 白い肌に白い睫毛。薄く水色掛かった瞳、少し童顔だけど顔が綺麗過ぎて年齢が予想しにくいが……完璧だ。


 自分の名前が女みたいだと思っていた……お前、女みたいな名前してるなーって言われた事も何度もある。


 何故男なのに星來なんて名前を付けたんだ、馬鹿なのか貴様は、と思った時もあった。


 完璧だよ母さん、今全てを許そう……いや、それは違うな、許すのはやめよう。


「何か思い出されたでしょうか?」


 うるせーな、今見てんだろ、邪魔すんな。

 さっきはとんでもないイケメンだな、って思ったけどこの顔を見ちゃうとなぁ、何か、あぁ、イケメンなんじゃない? って感じに見えてきた。


「いえ……何も思い出せません」


「そうですか」


 そうですかじゃねーだろ! お前さっき、状況を出来る限り説明するって言っただろ!


「先程そちらから説明していただけると言っていたと思うのですが……」


「申し訳ありません、現在会議を行っているため、それが終わるまでは何も話さないようにと、仰せつかっておりますので」


 やっぱり俺の情報を話さなくて正解だな。何の会議だか知らないけど、このタイミングだ、十中八九俺の話だろう。


 正直分からない事ばかりだけど、窓は無いし、扉の前には剣を携えたイケメン騎士……逃げるのは不可能だし、そもそも上った階段の数を考えると、窓があっても飛び降りるのは無理だな。


「私は……殺されるのですか?」


 ストレートだけどこの聞き方が1番良いだろう。


「……恐らくそれは無いと思います」


 恐らく……か、まぁ、表情に動揺も見られないし、嘘を吐いている様子は無いな。気になるのは発言の前の間だな……嘘を吐くなら、それは無いと断言すればいい。


 何だ? 何の間なんだ………………無理だ、わかんねぇ。


「記憶が無いというのに随分落ち着いているのですね」


 記憶はあるからな。

 鋭い観察眼だけど、俺はボロは出さない。


「何も分からないんです……狼狽えた所で良い事があるとは思えません。それに、私を知っている人がいる……会議が終われば話してもらえるんですよね? 今はそれをただ待つだけです」


 ベストアンサー! どうだイケメン!? こんな可愛い女の子が気丈に振る舞う姿に心打たれるだろう! この女声にも慣れてきたし、くっさい演技でもなんでもしてやるわ!


「そうですか」


 お前さっきから塩対応すぎない?

 俺が可哀想だとか思わないの? 正直引くわ。


 そんな事を思っていたら扉が開かれ、1人の男が俺の方を見た後、イケメン騎士に耳打ちを始めた。


 耳打ちが終わると、イケメン騎士が俺の方に向き直る。


「セーラ様、会議が長引きそうですので、そちらのベッドを使い、今晩はこの部屋でお休み下さい」


「……はい」


「では、私もこれで失礼します。何かありましたら、部屋の外の兵士に声を掛けてください」


 はいはい……部屋の外には兵士がいるから逃られねーぞ、って言いたいのね。


 それを言うとイケメン騎士と耳打ちオジサンは俺に頭を下げて、部屋を後にした。


 さて、相変わらず逃げるのは不可能。状況を察するのも無理。もし俺が殺される予定だとしても、女の体じゃあ頑張っても、抵抗虚しく殺されるだけだろうな。


 待てよ……異世界なら魔法とか使えるんじゃないか?

 さっきも女の子の下に魔法陣みたいなのあったし……いっちょやってみっか!




―――――――――――――



 無理だった。


 火を出すイメージをしたり、水を出すイメージをしたり、とにかく2時間くらい色々試してみたけど、手を振ってみたり、両手を広げてみたり、ただただ変な奴だった。


 もう疲れたから、自分の服でもめくってみようかとも思ったけど、人間として大切な何かを失いそうだったのでそれもやめた。


 それにしても俺は何で普通に喋れるんだろうか?

 奴等が喋ってる言葉も、俺が喋ってる言葉も、聞いた事も無い言葉なのに、俺は聞き取れるし喋れる。


 勿論、日本語も喋れるけど、奴等が日本語を聞き取れるかは試してないので不明。

 イケメン騎士に試そうとは思ったけど、無駄に怪しまれたくはないからな……


 最初の部屋から現在までを色々考えてみたけど、やっぱり無理。情報が少なすぎて答えに辿り着ける気がしない。


 とりあえず奴等が俺を召喚した際に起こったイレギュラーが俺にとっての不幸でない事を願うしかないな。


 まぁ、やれる事はやったし、寝るか……あ、トイレ行きたくなったらどうしよう……





――――――――――――



「――様。セーラ様」


 俺は誰かの声で目を覚ました。


 起きたら夢でした。なんて事はなく、声の方を向くと、イケメン騎士と耳打ちオジサンがいた。


「また、お会い出来て嬉しいです……セーラ・ミリアーナ様」


 耳打ちオジサンが目に涙を溜めながら訳の分からない事を言っていた。

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