フォー・ザ・ネイション~天を貫く雷~
「ブリッツ⁉」
エクス⁉ グラス⁉ なぜここに来た⁉
ブリッツはこちらに走ってくる二人を見ながら、エトワールが至近距離で生み出し、放った隕石を正面から受けてしまって失った左腕を押さえた。
「俺は全力なのに、お前はこのクレーターから汚染が広がらない程度の力しか解放していない! そんな手加減をして俺に勝てると思うな!」
エトワールがブリッツを蹴り上げて、ブリッツは横に吹っ飛ぶ。
「ブリッツ! くそ! 爆裂波!」
「氷華乃大剣!」
エクスとグラスが同時にエトワールに攻撃を仕掛けたが、エトワールは二人の目には追えない速さでそれをかわし、二人は痛みを感じる前に別々の方向に吹っ飛ばされていた。
どうなった⁉ 俺は攻撃されたのか⁉ やっと体が痛みを感知し始めるが、あまりの衝撃で叫ぶ声も出なし、体は全く動かない。グラスは生きているのか? 幸い意識はある。どうにか状況を……。
「おいおい、抑止力の戦士に対抗できるのは抑止力の戦士だけだ。学校で習わなかったのか? ん? これは驚いた! お前、一年前の小僧じゃないか! 今回の任務は都市の破壊とお前を殺すことだったんだよ。探す手間が省けた。まさか王国の騎士になってるとはな! それに潜在能力にも目覚めている! 俺からしたらくそみたいなものだが、大した成長だ!」
エトワールは剣をエクスの脇腹辺りに突き刺す。
「ぐはぁ!」
「なぜ自分が殺されるか分からないままだと死んでも死にきれないよな。どうせこのまま死ぬんだ。教えてやるよ」
エトワールは剣を引き抜き、エクスの腹からは血が流れる。
ぐっ……。このままだと俺は数分ももたないな。
「もう知っているかもしれないが、俺が一年前アンファ村から奪った書物には予想通り、抑止の力の覚醒方法が書いてあった。まあ、かといって抑止力の戦士を無尽蔵に作れるわけではないがな。問題はなぜあんな小さな村にそんな書物があったかだ。
それはあの村が、千年前に起きた五大国の抑止力の戦士同士の全面戦争、オールアウトと呼ばれるあの戦争の記録の語り手だったからだ。オールアウトはこの大陸の半分以上の土地を汚染し、あまりの惨劇に記録は残っていない。……とされていたが、アンファ村の住人はその記録を代々語り継いでいた。それにあの村の住人は何やら潜在能力とは違う特別な力をその身に宿しているらしい。そんな危険な存在、生かしておくわけにはいかないだろ?
だからお前は俺に殺されるんだ。この長くに渡る戦争において、我が国の勝利を確実なものとするために死んでくれ。苦しかっただろう! 今楽にしてやる!」
エトワールが剣を振り上げる。
くそ。報復どころじゃない。俺も村のみんなと同じようにこいつになすすべもなく殺されるのか。
エクスは覚悟を決めて、目を閉じた。だがその瞬間、瞼を閉じているにも関わらず、視界が明るくなり、鼓膜が破れるほどの轟音が鳴った。
「……エトワール、お前にエクスは殺させない」
エクスが目を開けると、ブリッツが立ち上がっていた。そして空を黒雲が覆い、クレーターに雷が雨のように降り始める。
「ブリッツ! まだ動けたの……」
エトワールが言葉を言い終わる前にブリッツが轟音と共に雷のような軌道を描きながらエトワールに切りかかった。
「そうだ! やっと本気を出したのか⁉ 天候が変わった! お前が既に片腕なのが惜しいが、決着を付けよう!」
二人はとんでもない速さで剣を交わし、空では雷と星がぶつかり合っている。
あれが抑止力の戦士……。人間を超えている。こんな力が存在していいのか。
「ぐふっ!」
まずいな。このままだと本当に死ぬ。なんとか傷口を塞がなければ。
体を起こそうとした瞬間、傷口が急に冷たくなった。
エクスが横を向くとグラスが傍にいた。
「エクスっ……。死んだら駄目っ! 今、私が止血してあげるからねっ……」
グラスもエトワールの最初の一撃でかなりの重症なはずだが、力を振り絞って、俺の傷口を凍らせた。
「ぐっ……。た、助かった……。ブリッツは⁉」
「分かんないっ……。戦いがどうなってるかさえ分かんないぐらい滅茶苦茶な力だよっ……」
一分ほどの轟音と破壊の後、ブリッツとエトワールが距離をとる。お互いに満身創痍、いや、片腕な分、ブリッツの方が重傷だった。
「ブリッツ! お前にはがっかりしたよ! これほどの、これほどの力があるというのに、お前はまだ全力を出さないのか⁉ どうせ滅びるんだ! 周りのことなんて考えるなよ!」
「エトワール、お前とは違って俺には守るものが多いんだよ……。ぐふっ!」
エトワールが激しく血を口から吹き出す。
このままじゃ、ブリッツも死ぬ。俺には何ができる?
「仕方ないな。じゃあその守るものを減らしてやるよ!」
エトワールが剣先をこちらに向けて突っ込んでくる! まずい! あいつの狙いは俺とグラスだ!
グサッ!
俺は力を振り絞ってグラスの前に立ったが、その俺の前にブリッツが立ち、背中までエトワールの剣に貫かれた。
「ブ、ブリッツっ……。なんでっ……」
「ぐふっ……! ……当たり前だろ。俺はこの国を、この国に住むみんなを守るために存在してるんだ。……それに、エクス、グラス、お前たちは大切な娘と息子だ……」
「おいおい、ブリッツ! なんて馬鹿なことをしたんだ⁉」
「エトワール、この勝負、お前の勝ちだ。俺はじきに死ぬ。だが、このままお前をこの国に残すわけにはいかない。少し付き合ってもらうぞ」
ブリッツは剣に貫かれたまま、エトワールを右手で離さないように強く掴み、自分ごとエトワールに雷を落とす。
「ぐわぁぁぁ!」
「ぐっ……。グラス、エクス……俺からの最後の言葉だ。しっかりと聞けよ。……グラス、君の笑顔、明るさには何度も救われた。君といると食事も稽古もなんでもない休日だって光り輝くものになった。エクスという手間のかかる弟がいるが、しっかり姉として俺の代わりに見守ってくれ」
ブリッツの体が段々と赤くなっていく。
「ブリッツ⁉ まさか⁉」
「グラス! 分かったか? 君がこれからエクスを導くんだぞ」
「……う、うんっ……!」
グラスは何かを察したように涙を流しながらブリッツに答える。
「……エクス、エクスはその体に強大な力を宿している。だがその力は報復のためのものじゃない。その力で国を、みんなを守るんだ。復讐は復讐の連鎖を呼び、その先に待つのは破滅だ。だから俺が今日ここで、エクスの鎖を絶つ。これからは過去じゃなくて、未来のために生きろ」
「ブリッツ……」
「俺は二人の本当の父親にはなれなかったかもしれない。だが、俺は二人に救われたよ。一緒に過ごした日々は楽しかった。……もっと遊べばよかったな。もっと稽古をつけてやればよかった。どのみち長くは生きられない命だったが、いざこうなると死にたくないな。……だが、そんな大切な日々を過ごしたからこそ、俺は君達を守るためにここでお別れを言わなきゃならない」
ブリッツの体がさらに赤くなる。
「ブリッツっ! 貴様、まさか融解する気か⁉」
「エトワール、待たせたな。お前は星の抑止力だろ。俺と一緒に星になってもらおうか」
再び雷がブリッツとエトワールの下に落ち、エトワールが叫び声をあげる。
「エクス、グラス。俺は空から君達を見守っている。……それと……愛してる。ははっ……。改めて言うと何か恥ずかしいな……。……お別れだ。国を頼んだぞ……」
俺とエクスが最後に見たブリッツの顔は今までに見たことないほどの笑顔だった。
その日、人々は様々なことを目撃した。空から降り注ぐ星。それまで晴天だったにも関わらず急に黒雲を伴い轟音と共に落ち続けた雷。
その終わりも奇妙なものだったという。地面から空高くへと昇った雷、そして空を覆っていた黒雲を一瞬で晴らした空中での大きな爆発。
強大だったにも関わらず、都市には全く被害をもたらすことがなかったその爆発で、この国、人民を最も愛した戦士であった俺とグラスの父が命を落としたことを知っているのは一部の人間だけだった……。
*************************
五年後……。
「グラス、エクス、今日は他の国の抑止力の戦士も来ている。氷の抑止力、爆撃の抑止力として舐められるなよ」
「分かってるよ。ヴェント、お前こそ風の抑止力として少し覇気が足りないんじゃないのか?」
「おーおー、こっちは老い先短いってのにずいぶん言ってくれるな。あの日、クレーターの中から俺が怪我で動けないお前とグラスを助けなかったら、汚染地帯に取り残されてお前達は死んでたぞー」
「エクス! ヴェント! そろそろ部屋に入るよ!」
「ああ。グラス、髪跳ねてるぞ」
「えー⁉ もっと早く言ってよー!」
今日は五大国会議だ。あの日、ブリッツが都市を、俺達を守った日以降、どこの国も期を待つように目立った動きは見せなかった。だが、この中にエトワールを使って俺の村を滅ぼし、ブリッツを殺した奴がいるんだろ? やるならやってやるよ。俺は、俺とグラスは逃げも隠れもしない。
もう二度と大切なものを奪わせない。
俺がこの抑止の力で全てを守ってみせる。
「爆撃の抑止力、ルバンシュ王国騎士団長エクスだ。俺がこの戦争を終わらせる」
俺を追放した村がその日のうちに滅ぼされた。どうやら俺が報復を誓った相手は抑止の力という強大な力を持った敵国の戦士らしいが、必ずその報いは受けさせる~抑止力の戦士達~ 堂上みゆき @miyukidojo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます