スリー・ナイツ~開戦~
「エクスー、今日はエクスの隊は訓練だっけ?」
「ああ、グラスの隊もそうだろ。一緒にブリッツに稽古をつけてもらおうぜ」
「うん! そうしよう!」
エクスとグラスはずっと同じ部屋を二人で使っている。城には使われていない部屋がまだあったが、エクスがそれらの部屋を掃除する手間と、グラスと一緒に生活する手間を天秤にかけた結果、後者を選択したからである。
エクスは稽古の準備をして、城の広場にグラスと共に向かった。
「よし、じゃあ今日も稽古に励むか!」
ブリッツも木刀を持って広場に出てきた。エクスとグラスが潜在能力を使いながら協力してかかってもブリッツには勝てない。ブリッツは素の戦闘力も王国最強だ。ちなみに王国二番目の実力者はブリッツの他にこの国に唯一いる抑止力の戦士だが、一週間ほど前から任務で都市を出ている。
「おう、今日こそは一本取ってやるぜ!」
エクスがブリッツに飛び掛かった瞬間、一人の兵士が広場に走りこんできて、同時に城の警報用の鐘が鳴り響いた。
「ブリッツ様! エクス様! グラス様! 大変です!」
「どうした⁉ 何事だ⁉」
「星が! 星が空から降っています!」
「なんだって⁉」
まさかエトワールが都市に直接攻撃を仕掛けてきたのか。あのくそ野郎。それなら今日、俺がお前を殺してやる。
エクス達が広場を飛び出して街を一望できる城の入り口まで行くと、確かに空から隕石が降っていた。一年前と同じ光景だ。そしてその中でもひと際大きな隕石が街に落ちた。
「抑止力の戦士の襲撃だ! 攻撃、防御の潜在能力が使える兵士は隕石の衝突を食い止めろ! 隕石が潜在能力由来のものなら破壊すれば消えるから残骸の心配はするな! 絶対に撃墜して土地を汚染させるんじゃない! おそらく最初に落ちた隕石の場所に戦士本人がいる! 俺が行くから誰も近づくなよ!」
ブリッツは伝令の潜在能力を使える兵士に向かって怒鳴るように指示を出して、一気に城から駆け出す。
「ブリッツ! 俺も行く!」
「エクス! 駄目! 城にも隕石が来る! それを破壊するのが先だよ!」
グラスの声でエクスの走り出した体が止まる。
くそ! エトワールがいるってのに!
「エクス小隊! 都市への直接攻撃から考えて、敵は抑止力の戦士一人だ! 隕石は潜在能力解放者が撃墜する! 他の兵士は市民の避難誘導に行け!」
「グラス小隊! エクス小隊に同じ! 早く行って!」
一般兵士達を街に送り出し、グラスと共に並ぶ。
「ブリッツを信じよ? 今の私達が行っても抑止力の戦士に太刀打ちはできないし、ブリッツの邪魔になるだけだよ」
「ここが片付いたら俺は行く。既に街では死者が出ている。あの野郎、俺の大切な場所を二度も壊しやがってっ……。絶対に殺す」
「隕石を撃墜できる潜在能力解放者の兵士、それぞれ配置につきました! グラス小隊長、エクス小隊長は正面の隕石の撃墜をお願いします! ……第一波、来ます!」
伝令の兵士がエクスとグラスの後ろで状況を伝える。
「エクス、私達はいつでも一緒だよ」
「ああ、グラス、お前が倒れても俺が守ってやるよ」
「氷華乃守護盾!」
「爆裂波!」
エクスとグラスは隕石の撃墜に集中した。
*************************
まさか直接都市を襲撃してくるとは。エトワール、お前は人の命をなんだと思っている。俺達が、抑止力の戦士が力を振るう時は、破滅の時だ。
ブリッツが街にできた大きなクレーターに到着すると、そこには一人の男がいた。一年前と同じ状況、エトワールだ。
「エトワール! どういうつもりだ!」
「お、来たかブリッツ。いやー、祖国から都市をぶっ壊して、とある人物を殺してこいって言われたんでな。それ自体は面倒くさくてあまり気は乗らなかったが、お前と戦えるなら断る理由はない。さあ、もうこのクレーターは汚染されているし、この都市は俺の隕石でいずれ滅ぶ。全力で戦おう。その土地の天候さえも永久に変えるという抑止力の戦士同士の戦い。俺はそれを求めているんだよ!」
エトワールは剣を抜いて一気にブリッツに襲い掛かり、ブリッツも応戦する。
エトワールの星の潜在能力は隕石を生み出したり、流星のような速さで移動できるようだ。しかも奴はこの街の汚染について気に掛ける必要はない。最初から全ての力を解放している。
「おい、ブリッツ! お前も力を解放しないと俺に殺されるだけだぞ!」
くそ、抑止の力を使わなければエトワールとまともに戦えない。だからと言って俺も全力を出せば汚染がとんでもない速さで進んでしまう。抑止の力の影響範囲をこのクレーターの中だけで押さえろ。
「俺は遠慮なんてしないぜ。絶滅流星群!」
こいつ、さらに隕石を⁉ エクス、グラス、そっちは頼んだぞ。俺はなんとかこいつを。
「雷神轟轟!」
*************************
「隕石の数が増えました! 第十波、来ます!」
「おいおい、まじか。このままじゃ撃墜が間に合わないぞ!」
「エクス! 私達は撃墜に集中するだけ!」
その瞬間、これまでの唯一の隕石の着弾地点、ブリッツが向かった場所に大きな雷が落ち、轟音が轟く。
「雷⁉ ブリッツか⁉」
「力を解放したんだわ! ブリッツがエトワールを倒すまで耐えるのよ!」
*************************
「ごほっ……。はぁはぁ、さすがルバンシュ王国騎士団長。五大国最強の戦士と呼ばれているだけのことはあるな」
「ぐっ……。そう思うならこの国から立ち去れっ……。ごほっ」
エトワールとブリッツはお互いに吐血し、剣から相手の血を垂らしながら、向き合う。
「このままでは分が悪いな……。街の破壊は後回しにしようか」
エトワールがそう言うと、これまで街に降っていた隕石が一度止み、二人が戦っているクレーターに隕石が集中して落ち始める。
「力を集中させた。これからは俺の全力だ。ブリッツ、最後に降るのは星かな? それとも雷かな?」
まずい。俺は今ここで出せる全力を出していたんだぞ。これ以上は本当に街が滅ぶ。エトワールは街の破壊のために使っていた力をこの戦いに集中させた。俺はこいつに勝てるだろうか。いや、勝てなければ国が滅ぶだけだ。
「……雷の音が轟くだろうな。勝利の音だ」
ブリッツとエトワールは再び激突した。
*************************
「隕石がクレーターに集中してる! エトワールがブリッツとの戦いに全力を出し始めたんだ! グラス! 俺はクレーターに行く!」
「行ってどうするの⁉ あそこはもう汚染が進んでるよ⁉ もう! 城内の兵士に告ぐ! グラスとエクスがクレーターの確認に向かう! 隕石を撃墜できる潜在能力解放者を二名、城の正面に寄越せ! 現在、街への隕石は止んでいるが、油断するな!」
グラスは伝令に指示を出して、走り出したエクスを追う。
「グラス! お前は来るな! クレーターは汚染が進んでるんだぞ!」
「それは私がさっき言ったじゃん! エクスを一人にできない! 短時間なら大丈夫!」
エクスとグラスが隕石の降り注ぐクレーターの中心地点に着いた時、丁度ブリッツが膝から崩れ落ち、その陰からエトワールが姿を現した。
「ブリッツ⁉」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます