隣の佐東さん
やひろ
第1話 はじめまして
僕んちの隣の家には、黒猫が住んでいる。
名前は佐東さん。
その佐東さんは実は佐東さんは、猫又だ。
シッポが実は二つに分かれているんだ。先の方だから、かなり分かりにくいけどね。
このことを知っているのは、今のところ僕だけ…だと思う。佐東さんは、聞いてもちゃんと答えてくれないから、あんまり自信ないけど。
どうしてそんなことを知っているかって?
答えは簡単だよ。子供は、生き物を触るのが好きだってこと。
あれは、僕んちがここに引っ越してきた日のこと。
家中を探検してたとき、庭の垣根が壊れてたから覗くと、縁側に黒猫が気持ちよさそうに寝ていたんだ。それが佐東さんなんだけどね。
ぐっすり眠ってるみたいだから、すごく触ってみたくなって。それで、こっそり垣根を越えて、お隣に入ったわけ。
抜き足、差し足、忍足ってね。
音を立てないように、人生で一番慎重に近づいて、背中にそっと触ったんだ。もう、すっごく気持ち良い手触りだったんだ。
だから、ちょっとだけのつもりだったんだけど、ついつい触り続けてたら、怒られた。
「触るな」
「わっ」
家の人に怒られたと思ったんだ。で、見回しても誰もいなくて、きょろきょろと周囲を見ながら、もう一度触ろうとしたら、また、同じ声がしたんだ。
「だから、触るな。聞こえてないのか」
尻尾で手を叩かれた。手じゃないところが、やさしいよね。
まあそれは置いておいて、その時に、初めて猫である佐東さんが、しゃべったことに気づいたんだ。
ニャーじゃなくて、普通の言葉なんだよ。だから、すごくびっくりして、佐東さんの顔に手を伸ばしたんだ。ロボットとか、機械が埋め込まれてるとか思って、近くで確かめたかったんだけど、これはさすがに引っ掻かれた。
これは僕が悪いから、しょうがないよね。
それから少しの間、にらみ合いが続いた。
「誰だ、お前は?」
「僕? 僕は、隣の家に引っ越してきた子供だよ。ねえ、何でしゃべれるの?」
「……しまった、三室じゃなかったか……よし、お前がこのことを誰にも言わないというなら、教えてやる。約束できるか」
佐東さんは鼻の上のところにしわを寄せて、いわゆる苦虫を噛み潰したようなっていうやつだと思うんだけど、普通の猫で見たことのないすごい顔で話してきたんだ。これで「出来ない」って言おうもんなら、何が起きていたか…。ところで、よく聞く苦虫って何だろうね?
「もちろん」
僕は、即答したよ。
あったりまえだよね。だって、秘密ってドキドキワクワクするもんだし、こんな大事なこと、みんなに内緒で知ってるってスゴイことだと思ったんだ。
そして次の日から、僕はお隣の縁側に出没するようになったわけ。
隣の佐東さん やひろ @yahiro_s
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