ショートショート「密です」
ウイルスが蔓延し、荒廃しつつある日本。
生き残った人々は「ソーシャル・ディスタンス」を合言葉に、「ヤマアラシのジレンマ」の例え話のように適切な距離を保って生活していた。
禍殃を生き延びた私は、この日長らく付き合っていた恋人と「事」に及ぼうと、自分のアパートへと連れ込んだ。
もちろん、人の目をかいくぐって……
私と、私の恋人は肌と肌と合わせ、激しく戯れていた。
しかし、私たちにとっての幸せな時間も長くは続かなかった。
嫌な予感がした。何かがおかしい。
周囲に目を配る。
ドアの手前では、見えない何かがうねっていた。
次の瞬間、音も無く空間の切れ目から現れたのは――
「都知事……」
気がついたときにはもう遅かった。
「密です――」
都知事がそう言い放つやいなや、私の横にいた恋人が消滅した。
いや、むしろ別次元から顕現した何かに飲み込まれた、と形容できた。
私は一瞬にして恐怖に襲われ、トラウマを刷り込まれた。
悪寒が身体を拘束し、動けない……
次に都知事が言葉を発した瞬間、私はこの世から消えてしまうことだけは明確に認識できた。
だが都知事は不敵な笑みを浮かべつつ、「ソーシャル・ディスタンス」という言葉を残して、空間の割れ目へと去っていった。
私はこの時初めて、「生きている」ということを肌で感じた。
――あの日から10年経った。
消えた恋人の行方は今でもわかっていない。
シリーズ 薄っぺらいショートショート ホワイトロリータ @WhiteLolita
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