第10話 美味、なのです
プリン姫は結婚というものに興味は無いのであった。王位は兄の誰かが継げばいいと思っているし、兄たちも自分が王位を継承するべきだと考えていたのだ。ただ、国民の全てが王位を継ぐのはどの王子でもなくプリン姫が相応しいと思っているのである。その思いは周辺諸国どころか世界中の国々でも変わらないようで、プリン姫ではなく王子の誰かが継承してしまうとムチムチ王国の終焉は近いとさえ言われているのであった。
プリン姫の兄である王子たちはそれぞれ自分の価値を認めさせるための冒険に出ているのだが、そのどれもが近場にピクニック気分で行われるものなので、本人たちの意思とは無関係に遊び歩いているだけの無能な後継者とさえ思われているのであった。
実際に彼らが行ってきた功績というのは何もなく、王族なのに話しやすい人といった印象しか持たれていないのである。もっとも、親しみやすいタイプの人なのかと言われるとそうではなく、単純に国民になめられているだけの無能な王子といった印象はぬぐい切れないのである。そんな彼らについている執事たちはどこを見ても優秀なものが多いのだが、そんな優秀な彼らの力をもってしてもどうすることが出来ない。プリン姫も決して優秀な姫だという事ではないのだが、王子たちと比べてみると大魔王ルシファーにとどめを刺したことを差し引いても優秀に見えるのである。
ダルダル王国はムチムチ王国の属国に近い扱いを受けていた時期もあったのだが、市民同士の中に上下関係は無く交易も盛んなので表面上は対等な関係である。しかし、一部の貴族の間では新興国であるムチムチ王国の支配化にあったことを恥じている者もおり、今回のプリン姫とメシアン王子の婚姻話が出てきたのもその不満を解消する目的もあったりするのである。
メシアン王子もムチムチ王国の王子たち同様に優秀な人材であるとは言えないような人間だったのだが、それゆえに降ってわいてきた婚約の話も全て流れてしまっていた。今回のプリン姫との婚約の話も当然流れるとは思っているのだけれど、万が一の可能性を信じて猛烈にアプローチをすることを決めていたのに、王子同士の苦労話に花が咲いてしまってプリン姫をそっちのけでメシアン王子はグダグダ王子と親交を深めるだけで終わってしまったのだ。
プリン姫は美味い食事があればそれで満足できるので晩餐会自体は嬉しかったのだが、隣にいる百合ちゃんと操がダルダル王国の若い男性たちに話しかけられているのが少しだけ気になっていた。知らない人に話しかけられるのはあまり好きではないのだけれど、自分だけ話しかけられないというのはあまり気分の良いモノではなく、プリン姫はそれを気にしないようにするためなのか、いつも以上に食事に集中していたのだった。食事に集中しているプリン姫ではあったのだけれど、百合ちゃんと操だけではなくマサシまでダルダル王国の若い女性と話が盛り上がっているのを見てしまい、さらに食べる量が増えていったのは仕方のない事だったのかもしれない。
本来であれば晩餐会の食事が無くなることなどないのであるが、今期あの晩餐会は懇談会の側面もあったためにバイキング形式で開かれていたため、各自が好きな料理を好きなだけ食べることが出来たのだが、用意されている食事のほとんどをプリン姫一人で食べてしまったこともあり、一時間も待たずに用意されていた食事は全て無くなっていたのだ。追加で運ばれてくる食事もプリン姫がほとんど食べてしまっていたのでダルダル王国の人達は大変驚いていたのだが、百合ちゃんもそれなりに食べていたのは誰も気が付いていないのであった。
「そんなにたくさん食べてたら百合ちゃんはまた太っちゃうよ」
「そうですね。私もプリン姫のようにいくら食べても体型が変わらない体だったらよかったんですけど、その分出すものが普通の人よりも多いのは少し恥ずかしいんで、今のままでいいんじゃないかって思いますね。これだけの量を食べた後でしたらまた天界に行かないといけないのかと思うと、私も少し気が滅入っていしまいますが仕方ない事ですしね。プリン姫は美味しいものを見付けると我慢出来なくなってしまうんでしょうが、その後にアレに付き合わされるこちらの身になっていただけるとありがたいですね。もしよろしければなんですが、その様子をマサシさんの持っている映像として記録する装置を借りて撮影してみましょうか?」
「百合ちゃん。それは人としてもやっちゃ駄目な事だし、プリンのそんな姿は百合ちゃんしか見ちゃ駄目なの」
「私も見たくて見ているわけではないのですが。それよりも、世界を救ったプリン姫が天界を汚しているというのは面白い事だと思いますので、私としてはこれからも続けていただきたいと思いますよ」
食事の場でする話ではないのだろうと思いながらも、プリン姫と百合ちゃんはなるべく他の人の迷惑にならないように会話を濁していた。ただ、マサシ一人だけは二人の会話を理解して食欲が著しく減退していったのであった。
「皆のもの聞いてくれ。我々が想定していたよりも早い時間ではあるが、用意していた料理が全て無くなってしまった。今から追加で用意することも出来ないので申し訳ないが今回の晩餐会は今から軽食と飲み物だけになってしまう。我が妹プリン姫の食欲は底を知らぬが故の事であるが、世界を救った英雄である我が妹プリン姫がダルダル王国の食事を気に入った証だと思えば嬉しい限りである」
「そうだな。俺様の国の料理をプリン姫に気に入ってもらえて嬉しいぜ。料理だけではなく俺様の事も気に入ってもらえるのなら嬉しい限りではあるのだがな。これより先は食材と時間の都合で軽食しか出せないと思うが、どうか最後まで楽しんでいってくれ」
王子二人はこの場を上手く取り仕切ったと思っているようであるが、晩餐会に参加している者達は二人の会話をほとんど聞いていなかったのだ。そもそも、ほとんどの人は早い時間で食事を終えていたのでこれ以降に何かが出てきても食べることは無いのだが、王子二人にはそれがわかっていないのである。無くなれば追加するだけの簡単な仕事をしているだけなので、プリン姫がいなければ多くの食材が無駄になって残された料理を見た料理人たちの士気も下がってしまっていた事だろう。プリン姫の知らないところで王子二人に対する料理人たちの評価とモチベーションを保つことに貢献していたのだが、狙ってやったことではなく食事に満足していたため行った行為であるということは誰も知らないのであった。
プリン姫に話しかけようと会場をうろうろしていた王子二人であったが、その時にはすでにプリン姫は百合ちゃんと共に天界へと移動していたのだった。
祭りの時以上に食べ過ぎたプリン姫はいつもよりも長い時間天界にとどまることになったのだが、プリン姫が滞在した時間以上に天界には強い雨が降っていたのだった。その雨は全てを洗い流して元の天界に戻そうとしていたのだが、プリン姫が展開に降り立っていたという証までは洗い流すことは出来ないのであった。
そして、プリン姫が再びムチムチ王国の戻ってきたときには事件が起こっていたのであった。
「大変です。グダグダ王子が何者かの手によって殺害されました」
プリン姫は何が起こったかわからないまま現場に向かうと、そこには変わり果てた姿のグダグダ王子が横たわっていたのであった。
ムチムチプリンプリン姫と青薔薇百合百合メイドが世界を救った後の話 釧路太郎 @Kushirotaro
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