第9話 晩餐会、なのです

 急遽開かれた晩餐会ではあったのだが、元々予定されていたと思えるくらい充実した料理が並べられていた。ムチムチ王国で最近食べられるようになった異世界の料理と、ダルダル王国で古くから食べられていた伝統的な料理が食べきれないくらいに用意されていたのだ。


「急に料理を作って持って来いって言われた時はびっくりしたけど、こんな庶民的な料理を晩餐会で出してもいいのかな?」

「いいと思うの。どうせあの二人は料理に格式なんて求めてないし、美味しければ何でもいいと思うの」

「それならいいんだけどね。ところで、僕も操も招待されていたわけでもないのに一緒に食べて行っていいの?」

「あのバカ兄さんが決めた事だから一緒に食べてってくれていいんだけど、何か予定でもあるの?」

「予定は無いんだけど、操がまだ隣町から帰ってきてないんで始まる前に来ることが出来るかわからないんだよね。今日は珍しく操が買い物に行ってくるって言ってたんだけど、君達に誘われるタイミングで買い物に行ってるなんて運が悪いよね」

「運が悪いのはマサシさんの方かもしれないなの。あのバカ兄さんとメシアン王子は似たようなにおいがしているからきっとよくない事が起きると思うの」

「あんまり不吉な事は言わないで欲しいな。プリン姫の嫌な予感って当たる確率高いからちょっと怖くなっちゃいますよ」

「うーん、何となくなんだけど、プリンたちじゃなくてあのバカ王子二人によくない事が起こるような予感がしているの。そうなったらちょっと面白いって思ってしまうの」

「そんな事はおっしゃらないで今は王子たちを信じてみてはいかがですか?」

「そんな嫌そうな顔して言ってる百合ちゃんもバカ王子二人の事は信じていないんじゃないかな。そんな風にプリンには見えるのだけど、きっと百合ちゃんも信じてないと思うのだけどどう思っているのかな?」

「ええ、私はあの二人の事は信用しておりませんよ。この世界で私が信用しているのは自分とプリン姫だけですからね」

「百合ちゃん、プリンも百合ちゃんの事だけは信頼しているの。これからもずっと一緒にいて欲しいの」

「プリン姫、もちろんですよ」

「ちょっと待ってください。そこに僕も入れてくださいよ」

「何を言っているんですか。あなたはそこそこ信用は出来たとしても、完全に信頼するなんて無理な話ですよ」

「そうなのね。マサシさんは人と交渉する時も戦闘の時もあんまり役に立っていなかったけど、何かが必要になった時だけは役に立つと思っているの。それ以外であんまり役に立っていた場面は思い浮かばないけれど、その点だけは信用してもいいと思っているの」

「ですが、その取り出している物がどこから来ているのか私にもさっぱり見当がつかないという点では多少不安になってしまうのですが、彼がいなければ大魔王ルシファーの討伐ももう少し手間取ってしまったかもしれないというのも事実なのですよね。ただ、それがどれくらい影響していたのかと聞かれると答えに詰まってしまうというのも事実なのですよ」

「そうなのね。異世界からやってきた勇者のはずが戦闘では全く役に立たなくて、百合ちゃんに頼りきりだったって事は置いといて。大魔王ルシファーと戦う時よりも今の方がみんなのために役に立っているっていうのは、異世界からやってきた勇者じゃなくて異世界からやってきた商人と言った方が正しいかもしれないって思ってしまうのね。今日だってバカ兄さんもマサシさんの事は異世界から来た勇者ではなく異世界から来た商人だって思っているみたいだったからね。でも、それはムチムチ王国に住んでいる人なら誰でも思っていることだと思うの。マサシさんはそんな印象だと思ってしまうなの」

「私もプリン姫の意見に完全に同意ですが、一つ付け加えるとすると、私の事をジロジロといやらしい目で見ている変態だという事ですね。戦闘中でも敵の動きを注視するべき時に私の事をじっと見ていたのは忘れられませんよ。あんな風にいやらしい目で見られてしまうと動きも鈍くなってしまいますし、それさえなければ大魔王軍の幹部を取り逃がすことも無かったと思いますよ。ま、その後にこっそりと始末しておいたので問題無いと言えば問題ないのですが、そのおかげで私の休息時間が少し減ってしまったのは問題かもしれませんがね」

「それだけじゃなくて、プリンが思うには……」

「ああ、ごめんなさい。異世界からやってきてるのに戦闘で役に立たないって本当にごめんなさない。十分に反省しているから許してください」

「別にプリンは気にしてないのだけれど、正直な話百合ちゃんがいれば他の人はどうでも良かったと思っているの。ただ、二人で大魔王ルシファーを討伐するのがダメだったってだけなのだから、マサシさんと操がいてくれて助かったのも事実なの。大魔王ルシファーを倒して平和になった今だからこそ二人がいてくれて良かったなって思う事の方が多いの。今日だってマサシさんの世界の料理を出すことが出来たのはマサシさんのお陰だし、その良くわからない能力が無ければダルダル王国の料理だけでムチムチ王国は何も料理を出せなかったかもしれないって思っているくらいなの。ムチムチ王国は庶民料理は美味しくても晩餐会に出すような料理はあまりないのだけれど、マサシさんたちの世界の料理はどれも珍しいからプリンは嬉しいって思っているなのよ」

「そう言ってもらえると嬉しいんだけど、僕が作った料理も家庭料理だったりするんだけどね。でも、違う世界の料理って特別感があるのはわかる気がするかも」


 晩餐会が開かれることは王子二人の間で決まっていた事ではあるのだが、それを事前に伝えていなかったため準備もまだ終わっておらず、言い忘れた責任を感じている王子たちも準備を手伝おうとしているのだが、二人の王子が手伝うことによってさらに準備に時間がかかってしまっていることは誰も言えないのであった。

 準備が一向に進まない晩餐会ではあったのだが、そのおかげで操は晩餐会の途中でやってくるという目に遭わずに済んだのだった。


 ひと際目立つ黄色いドレスを身に纏って登場した操は派手なアクセサリーを身に付けていたのだ。ドレスとアクセサリーに夕日が反射してキラキラと光っていたのだけれど、プリン姫ですらドレスを着ていない今の状況では完全に浮いてしまっていた。


「あ、あれ。晩餐会って聞いてきたからドレスを着てきたんだけど、みんな普段着なの?」

「普段着と言いますか、我々は動きやすい恰好をしているだけですね。プリン姫も今日はドレスよりもその方がいいと思ったみたいですし、メシアン王子になるべく気に入られないようにしたいみたいですよ」

「ちょっと、そういうことは余にも教えて欲しかったな。これじゃあ余だけ張り切ってるみたいに見えるじゃないか。もう、余は一度帰って着替えてくるぞ」

「残念ですが着替えに戻る時間は無いみたいですね。では、ご自身の席についてくださいね。私は今日はメイドとしてではなくプリン姫の騎士として招待されているので操さんの隣に失礼いたしますね」

「やだやだやだ、一人だけこんな格好しているのはいやなの。余は一回帰って着替えてくるの」

「大丈夫ですよ。あちらにいらっしゃる王子二人も正装ですからね。よかったら操さんは王子二人の間に席を移動されてはいかがですか?」

「そんなのは絶対に嫌だよ」

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