魅入る
俺が祖父母宅に行った夢を見ていた頃。
彼女と一緒に祖父母宅に行き神社に寄った後、急に倒れたらしい。彼女が急いで連絡してくれたことで緊急搬送されて今に至るそうだ。
その頃、――娘(俺の母)からの電話で祖父母は急いで病院に向かう所だったらしい。
家を出る所で玄関に人がいることに祖母が気づいた。
玄関の鍵は開いているのにしきりにガシャンガシャンとこじ開けようとしている。
不審に思ってみていると俺の声で何かを話している。
孫が死んでしまったかもしれないと腰を抜かしていると、玄関の向こう側に人影がどんどん増えていく。
それらが扉に張り付いて中を覗き見ようとする様子を見せて、恐怖のあまり仏壇に向かってお経を唱えていたそうだ。
しかしお経の声に比例して、無数の人間が扉を叩く音が続く。様々な声がぼそぼそと何かを話している最中、そしてついに孫の声までが「開けろ」と言って来る。
そのばぁちゃんと玄関から響く異様な音に気付いたじぃちゃんが外の異形に向かって怒鳴ったという。
そしてそんなことが続くうち、俺の叫び声で外の人影も消えたそうだ。
俺は病院のベッドでその話をふんふんと聞く。
彼女は怯えていた。
「その私のフリをした人って誰だったの?」
「いや、めちゃくちゃ可愛かったんだけど顔が思い出せないんだよね……」
そう言った所でばぁちゃんが低い声で、
「だがら、くんなっつたべ? おめは前にも魅入られたんだがら。次は連れでがれっぞ」
魅入られるだとか、連れていかれる、だとか怖いオカルト単語を口にした。
父母もじぃちゃんも気まずそうに眼をそらす。
「ちっちぇ時、おめはアレに魅入られだんだがら」
「小さい時もこういう風に倒れたのよ」
母がため息を吐く。
「その時は『お母さんたちにお別れにきた』って言って友達と一緒に来たと言っていたわ。その頃も今回みたいに家では怪奇現象が起きてたの」
「お別れと結婚の挨拶、出来てたらどうなってたのかな」
「――あっぢにづれでがれる」
俺がポツリと言った言葉にじぃちゃんが間髪入れずに答えた。そして珍しく真面目な顔をする。俺はじぃちゃんの優しい顔ばかり見ていたから何となく緊張してしまう。
「おめはもうこっぢさくんなよ。アレはいづもおめぇをねらっでる」
俺は彼女の手を握り、頷くことしかできなかった。
だから祖父母はいつも電車を乗り継いで家に来てくれていたのか、と数年来の謎が解けた気分であった。
魅入る 夏伐 @brs83875an
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