063 無限の選択肢
「JYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
ラクネから巨大な蜘蛛の脚が8本生えた。ラクネの脚が合計16本になってしまった。白目を向いており、ブルブルと首を振っている。正気を失っているようだ。
「ピキイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
超酸スライムのスライは毒々しい黒紫色になり、更に家一軒分程度に巨大化している。
「RYUUUUUUUUUAAAAAAAAAAANNNNNNGUUUUUUUUUUUUU!!」
グオーガは筋肉が盛り上がり頭が埋もれてしまい顔だけがかろうじて見えている。手足は長くなり、もうキングオーガ族とは呼べない姿形に変貌している。
「こいつら一体どうしたんだ?」
どう見ても自我を失っているようにしか見えない。
「ラングくん気を付けてください! あれは倍々の秘薬というレベルを倍にするアイテムを使っています! 私も仲間になれば使わせてやると言われましたが断って正解でした」
ソニアがこの事態の説明をしてくれた。グオーガはLV8000だった。それが倍になったということは今LV16000ということか。
俺のレベルを大きく上回っている。ラクネとスライもグオーガほどではないが俺と同レベル程度にはなっていそうだ。
だが、レベルで勝負が決まるわけではない。技術、スキルの性能、努力で変動する基礎能力にも大きく左右される。俺は強くなる為に努力し続けて来た。奴らに負けるわけにはいかない。
「GOOOOOOOROOOOOOOOOOZUUUUUUUUU!!」
モンスターと化したグオーガが全速力でこちらに突進してくる。その後ろをラクネ、最後尾にスライの巨体が見える。
「くっ! デカいくせに速すぎる!! シールド!」
パリィンッ!
軽い音を立てて簡単にシールドが破られ、巨大な拳が迫る。
「ぐあっ!!」
後ろに飛んで威力を殺しつつ両手で防御する。防御には成功したが両腕にダメージを受けてしまった。
「JYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
続けてラクネの毒の滴る脚が襲ってくる。しかし、こちらはグオーガほど素早くない。これなら避けることが出来る。
「パイソン、ジュピター自動制御!」
8本のジュピターが浮かび上がり、8本の脚と戦い始める。残りの脚は俺が相手をする。
神刀ジュピターのスキル【全てを分かつもの】が自動的に発動する。
スンッ! スンッ!
ほとんど感触がない程に斬れ味を増したジュピターでラクネの脚を切断した。
「JUOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
体液を撒き散らしながら暴れるラクネ。自我はなさそうだが、痛みは感じているようだ。トドメを刺そうと急所を狙うが、頭上を大きな影が覆っていることに気づいた。
「これは……マズい!!」
緊急回避すると上から超酸スライムの塊が降ってきた。
「ピキイイイイイイイイイイイイイイ!!」
「JUBEBEBEBEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
超酸スライムはラクネに直撃し、ラクネはブスブスと煙を上げながら溶けていく。グオーガは一先ず置いといて、先にスライをどうにかしよう。
「ピキ!? ピキキイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
突然スライの体が光り、光が収まると紫色と黄色が混ざった色のスライムへと進化している。ラクネの毒を吸収して超毒酸スライムになったようだ。これは本格的に早く手を打たないと周囲に被害が出てしまう。
「ライトニング1000連射!!」
ババババリバリバリバリバリ!!
「ピキイイイイイイイイイイイイイイ!!」
スライの体が雷撃で少しずつ小さくなっていく。
「OREEEEEEEEESAMAAAAAAAAAAAAA!!」
グオーガが乱入してきた。俺は魔法を中断することなくグオーガの攻撃を回避しようと試みることにした。
「ぐああああっ!!」
やっぱり駄目でした。回避しようとしても追いつかれ攻撃を受ける。メキメキと両腕の骨が音を立てる。やっぱり先にグオーガを排除すべきだ。
「サンドショット!!」
「MEGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
グオーガの目にサンドショットを放ち、一時的だが時間を作ることに成功した。
「ライトニング1000連射!!」
「ピイイイイイイィィィィ…………」
スライは完全に蒸発した。さすがにもう復活することはないだろう。最後に残るはグオーガのみだ。
だが、グオーガを倒す術がない。どうすればいい? 何かないか? と考えていると、一つだけ可能性を見つけた。
「さっきパイソンのレベルが上がったはずだ」
パイソンの書を開く。スキルの説明には『LSTM Long Short-Term Memory』と書かれている。
詳細を読むと、どうやら学習させることで未来を予測することが出来るようになるらしい。急いでパイソンに学習用の呪文を書き込む。
「パイソン、LSTM学習開始!」
あとは学習が完了するまでグオーガの攻撃を凌げばいいだけだ。それが至難の業だとも言うけども、やるしかない。
「YUUUUUURUUUUUUUZAAAAAAAAAAAANNNNNNN!!!」
目潰しから回復したグオーガは四つん這いとなり、獣のように一瞬にして間合いを詰めてくる。
「多重シールド!!」
目の前に5枚のシールドを重ねて展開する。
バリィン! バリィン! バリィン! バリィン! バリィン!!
グオーガは大きく口を開き、シールドを噛み砕きながら突進してくる。その姿には、もはや魔族の誇りなど
グオーガの口が俺の胴に噛み付く瞬間、魔法を発動させる。
「ファイアーボール!!」
グオーガの口と俺の体の間でファイアボールを炸裂させることで、反発力が生まれる。俺は爆風に逆らわずにバックステップする。グオーガは逆に爆風に逆らって進むことになり、速度が落ちた。
「JIIIIIIIIIIINEEEEEEEEEEEEEE!!」
グオーガが爆風を振り払い、追いかけてくる。グオーガは体を回転させ、空気を切り裂きながらこちらに飛びかかる。
とっさに回避したが間に合わず右腕が大きく切り裂かれた。
「ぐあああああ!」
切り裂かれた部分が熱く感じ、その後痛みが襲ってくる。
痛みに一瞬気を取られた、その一瞬が極限の戦いでは命取りとなる。
グオーガはその隙に野生的な勘で気づいたのか鋭利な爪で心臓を狙って来た。
ここまでか。そう思った時、グオーガの動きがまるでスローモーションのようにゆっくりに感じられるようになった。極限の集中力を発揮するとまるで時が止まったかのように感じることがあるという。
パイソンの書がゆっくりと開き、そこには『学習完了』の文字が浮かび上がる。よし、きた!!
「パイソン、LSTM発動!」
極限の集中状態の中、LSTM発動による未来予測がグオーガの未来を映し出す。
グオーガの爪の連続攻撃の未来が見える。しかし、攻撃箇所が予測できれば左腕1本でも問題ない。
ガガガガガガッ!!
全ての攻撃をジュピターで逸らしながら紙一重で避ける。グオーガは回避されたことに驚き後退する。
「BUUUURRRRRYYYYYY!!」
もはや何の雄叫びかも分からない言葉を発したグオーガが両手両足で地面を掴み前傾姿勢を取る。
グオーガは体を回転させ、空気を切り裂きながらこちらに飛びかかる。先程大ダメージを受けた技だ。
「回転しながら俺の右肩を噛み潰す気か。それなら……」
俺は腰を低くし、神刀ジュピターを構える。ジュピターは俺の右肩があった位置で構える形だ。
「GUUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
グオーガの回転する体にジュピターの刃が食い込み、持っていかれそうになるが気合で踏ん張る。
ズズズ……ズバアアアアアア!!
分厚い鱗に覆われたグオーガの体を斬り裂いた。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!」
グオーガは痛みで地面を転がる。
LSTMが次の未来を見せる。グオーガの傷はすぐに回復し、俺に向かってくる未来だ。何もしなければそうなるだろう。
だが、俺がそうはさせない。
「じゃあな、グオーガ。アンデッドになって蘇ったらまた殺してやるよ」
俺はグオーガの首を斬り落とした。
さぁ、仲間たちの所に戻ろうか。いや、その前に倍々の秘薬だったか、危険なアイテムは俺が処分しておこう。
倍々の秘薬をアイテムボックスに放り込む。
周りを見渡すと、ほとんどの敵兵は制圧され、皆が何かを待つようにこちらを見ている。
やれやれ、仕方がない。こういうのは苦手なんだがな。
そう思いつつ神刀ジュピターを掲げて勝鬨をあげる。
「敵の大将を討ち取ったぞ!!魔王軍の勝利だ!!」
「「うおおおおおおおおおおおお!!」」
「さすがアニキっす!!」
「救世主だ! 魔族国の英雄だー!」
ソニアが泣きながら胸に飛び込んでくる。
「ラングくん……無事で良かった。そして国を守ってくれてありがとう」
「あー! ずるいです! 私もハグしたいです!」
「わ、私はラング様に肩をお貸ししますの!」
リタとラビリスもやってきて言い合いを始めた。
そこにガイガ率いる冒険者集団【漆黒の終焉】がやってきて何やら大量の箱を持ってきた。
「アニキ! 見てくださいよ! グオーガの野郎たんまり貯め込んでたみたいですぜ」
グオーガの貯め込んだ金貨をガイガが見つけて持ってきた。
「おいやめろ! 俺に金貨を近づけるな!」
忠告するが既に手遅れだ。金貨が浮かび上がり勝手にアイテムボックスに収納されていく。だが、貧乏スキルのせいでアイテムボックスのリストには金貨が出てこないのだ。
全ての金貨を収納した時、例の声が聞こえてきた。
『貧乏スキルの許容量を超えました。スキルが進化します』
『スキル 富裕を獲得しました』
「はは……マジかよ……」
長年苦しめられてきた貧乏スキルが富裕スキルに進化した。確認の為、アイテムボックスを見ると金貨が入っている。これからは物々交換などしなくてもいいのだ。
――それから3ヶ月が経過した。
「汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
今日は結婚式だ。俺はソニアと結婚することになった。魔王が戦死し、この国には王が必要だった。そして俺が英雄に祭り上げられてしまった結果、ソニアと結婚し新たな国王となることが決まった。
「汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
――結婚式も終わり、自室に戻った。そして窓から見える都を見てこれからのことを考える。
これからは仲間たちと協力し、ソニアと共に新たな魔王として国を支えていくことになるだろう。
ここまでこれたのはユニークスキル【パイソン】のおかげだ。
「パイソンもLV9まで上がったのか。10まで上がったらどうなるんだろうな?」
ふと、思ったことを口にすると、急に気になってしまう。
「そういえば倍々の秘薬とかいうアイテムがあったな」
倍々の秘薬を鑑定すると一度だけ使用するのであればデメリットなくレベルが2倍になるというものだった。
思いついたら試さずにはいられない。ペロッ。
『レベルアップ! レベルが25600になりました』
『スキルレベルアップ! パイソンのレベルが10になりました』
思った通りだ。ニヤリとしてしまう。
「さぁ、これからどうしようか?」
目の前には無限の選択肢が広がっている。
完
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最後まで読んで頂きありがとうございました!
パイソンは現実世界のPythonがモチーフとなっております
Pythonを使えるようになると仕事や趣味でも活用できると思いますので是非あなたもパイソンの書を手に入れてみてください
作中の呪文をコピー&ペーストで動作すると思いますので興味がある方はお試しください
※呪文の全角スペースは半角スペース2つに置き換えてください
『感想』
『レビュー』
もお待ちしております!ありがとうございました!
貧乏で非力だからと解雇され殺されかけたが、便利なユニークスキルで超効率ステータスアップ。四天王に生きてることがバレても魔王以上の実力なら問題ない パピプラトン @Papiplaton
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