062 嫌な予感

「ふざけるなぁ! 俺様の顔に泥を塗りやがって!」


 グオーガの怒鳴り声が聞こえる。


 あっさりと殺された勇者。


 ボロボロになったラクネ。


 一欠片だけここに残った分裂体のスライ。


 戦える者はグオーガしか残っていない。


「はじめから俺様が戦っていればよかったんだ!」


 グオーガはこちらに向かって堂々と近づいてくる。最初は怒りの表情だったグオーガだが、今は自信満々にニヤついている。俺を倒せる思っているんだろうな。


「ラング〜、やっとお前を殺すことが出来るぜぇ〜。俺様は魔王になるのが夢だったが、それと同じくらいお前をこの手で殺したかったんだ」


「俺は俺の邪魔さえしなければ、どうでも良かったんだがな。しかし、ソニアを誘拐し、俺を殺そうとしてくるのなら殺してやる」


 俺は魔王剣ダークヴルムをアイテムボックスにしまい、神刀ジュピターを2本取り出すと左右の手に持って構える。


「てめぇごときが二刀流かよ。すぐ殺しちまうのも勿体ねぇ。どの程度の腕か少し遊んでやるぜぇ」


 グオーガは手斧を2本、両手に持ち一足飛びでこちらに迫ってきた。


 両の手斧を俺の頭めがけて左右から叩きつけるように襲ってくる。


 ガガィンッ!!


 俺はそれぞれの手斧をジュピターで弾き返す。グオーガは驚いた表情で後退する。


「おいおい! 俺様の手斧を弾き返すなんてどんな手品を使ったんだ!?」


 今のはわざと弾き返した。次は断ち切る。後退したグオーガに今度は俺が接近する。グオーガは手斧を交差させて防御態勢を取る。


「ふっ!!」


 裂帛れっぱくの気合とともに横一文字に一閃する。グオーガの持つ手斧が断ち切られ地面に転がる。


「グオアアアアアァァァァ!!」


 グオーガを見ると腕と胸のあたりから血を流している。手斧で防御しきれなかったのだろう。


「俺様に傷をつけただとぉ!? ふざけんな!! 俺様はLV8000なんだぞ!! 人型糞野郎なんかに負けるわけねぇんだよ!!!」


「レベルで勝負が決まるわけじゃないが、俺のレベルは12800だ」


「ば、馬鹿な!?」


 驚き、隙だらけとなったグオーガの鳩尾みぞおちに全力の蹴りを入れる。相手の骨を折った感覚が脚に伝わる。勝負ありだ。


「グアアアアアアアアア」


 グオーガは大きく後ろに吹き飛び、地面に転がる。死んだように動かなくなるグオーガ。しばらく様子を見ていると、ムクリと起き上がる。


「クソが! こんなに差があるわけがねぇ!!」


「現実を受け入れろ。今までのことを謝罪し反省するなら、痛みを感じないように殺してやる」


「くそがああああああああああああ!!!」


 地面を殴り続けるグオーガ。


「はぁっ……はぁっ……こうなったらアレを使うしかねぇ。ラクネ、スライこっちに来い!!」


 グオーガが何やら取り出すとラクネとスライに舐めさせた。そしてグオーガ自身も舐める。


 グオーガがニヤリと笑った直後、3人とも苦しみだした。


「一体何をするつもりなんだ?」


 何が起こっているのか分からず不用意に近づけない。ただ、嫌な予感が頭から離れなかった。

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