後編:毒

 そして時は流れる。


 何年かの時間がだ。


 あのアイドルは凋落した。アイドルでいる内は可愛ければ良かった。しかしながら女優に転身する為のスキルが足りなかった。もちろんスキルは努力で補える。しかしながら努力しても努力しても足りなかった。だから彼女は失意の果て失踪した。


 自分の時代は終わったのかと悩み、いや、終わってないはずだと思い込んだが為。


 加えて、


 ちやほやされた生活が忘れられず、借金をしてまでも贅沢な生活を続けたがゆえ。


 そして、


 話題の渦中に在って熱狂的な信者を生んだ芸人コンビも、また消費し尽くされた。


 なんの皮肉か、あまりの忙しさに追われ、ついには白い薬に手を出してしまった。


 そののちを語るまでもない。


 ご多分に漏れず、逮捕されて投獄され、そして表舞台から消えていた。無論、その後、彼らを見たものはいない。風の噂で死んだとも廃人になったとも言われている。そして、時折、あの人は今のような感じで思い出されるのが関の山と成り果てた。


 一方で、あの総理大臣はと言えば……、これまた世の中から抹殺されてしまった。


 彼の悲願である憲法改正は成った。しかし、ほどなくして大スキャンダルが発覚。


 スキャンダルの詳しくは省くが、スキャンダルが命取りとなって自宅で首を吊る。


 引責辞職は当然であり、それ以上のものを世間から求められたがゆえに追い詰められての自殺であった。もちろん死んだ当初は大きな騒ぎとなった。しかし、その騒ぎも、いくらかの時を経て忘れられる。無論、総理自身の存在も風化していった。


 そうして、次だ、という言葉が空に溶ける。


 次だな。


 と……。


 あのアイドルは他の新人アイドルに取って代わられた。もちろん芸人も世代交代して新しいコンビが世の中を賑わしている。もちろん政治の世界でも、あの総理などいなかったように新総理が辣腕を振るっている。全てが次に変わっていった。


 時代を風靡した、あの彼らなど始めからいなかったかのうように一切何事もなく。


 また暗い部屋で画面を見つめる男が、嗤う。


 こいつは、まだ大丈夫だな。


 存分に俺を儲けさせてくれ。


 と……。


 そして、画面が切り替わり、新たな時代の寵児が映し出される。


 その映像を見ながら、男は静かに言い放つ。


 次だな。


 と……。


 そして男は厭らしく嗤いながら、こう思う。


 ふふふ。


 全ての裏に俺がいる。そんな事を思っているやつらがいる。だがな。よく考えてみろよ。こいつらをもてはやし、担ぎ上げるのは世の中だ。そして次にしてしまうのも世の中だ。決して俺じゃない。そうだよ。大衆なんだ。大衆が騒ぎ、担ぎ上げる。


 そうして、飽きたら捨ててしまうのさ。だから次になるんだよ。


 俺は、ただその流れの中で儲けさせてもらっているだけの話だ。


 こいつらを次にするのは……、もう言わなくても分かるだろう?


 そうだぜ。お前らなんだよ。


 お前ら。


 ふふふ。


 ふはは。

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ネクスト 星埜銀杏 @iyo_hoshino

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