SF小噺 人類復活、パイ投げ合戦(最終)

「いやぁ先生、お疲れ様でした」

 居酒屋で乾杯のあと担当編集は言った。

 口数の少ない作家のほうは頬を赤らめて頭をかくばかり。

「それで、えーっと……SFの叙事詩的なものは一旦、終わらせてSFのジャンルから別のジャンルを開拓してみてはいかがでしょうか?」

「……別の?」

 作家としては、終わったばかりの仕事をそんな角度で催促するのかよと思うが、人気のあるうちが華だ、とも考えた。

「次世代のSFとしてSGというジャンルを作りたいんですよ」

「SG?」

「アルファベットでFの次はGでしょう? ガール、つまり女の子をメインに据えたサイエンスものです」

 ちょっとこれにはカチンときた。単にジャンルをせばめるだけで何の恩恵も無い。逆に女性に限定するだけではないのだろうか?

「そりゃあ、どうですかね?タイムリープ少女や階段から落ちて性格入れ替わる二人とか銀河で惑星一つ破壊するような女の子たちの話ですか? いやですよ」

「じゃ、じゃあ……SHとか」

 なんのブランドの話しだろう? と、作家は思った。

 SGよりアイディアはも劣化している。I、J、Kと酒を飲みながら酔っていたらアルファベットの順番が一周した……。 

「え、SLというのが……」

「え?」

「ですからSLです」

「サイエンス・ラブ、面白そうですね」

「えっ?」

「僕、ちょっと考えてみますよ」


 これで打ち上げは終わった。科学的恋愛、想像力を日々、鍛えている作家でもまるでわからない。ほろ酔いで家に帰りつきベッドに身を投げる。

「ま、やってみるさ。馬車馬のように……いや機関車えすえるみたいにか」

 服を着替えることもなく、作家は、毛布をたぐり寄せ、眠りについた。

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SF小噺投げやりさん s286 @s286

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