最終話 愛の告白

 私はサウンに連れられて森を歩く。少し開けたところに出る。そこは、サウンが依然倒れていたエメラルドグリーンのマズナの花畑だ。

「わー!やっぱりキレイ!!」

 サウンは、立ち止まって、振り向く。

「サキミカ、僕の好きなところ増えた?」

 緊張した表情で、自信なさそうに聞く。

「増えたよ、いっぱい。」

「え?ホント?」

 サウンの頬が緩んで、一気に笑顔になる。

 ほんと、分かりやすい。

「うーんとね、強引なところ、真面目なところ、一生懸命なところ、単純なところ、あとは、私に一途なところ、かな?」

「すごい増えてる・・・嬉しい。」

 もう、ニヤケが止まらないようだ。

 他にも醸し出す独特の透明感とか。でも、それを言うとまた外見が好きだって思われるので、言わないことにした。

「僕はサキミカの全部が好きだよ。」

「全部?嫌なところも?」

「そんなふうに思ったことなんて無いよ。」

「ふーん、私の嫌な所がこれからたくさん目に付くかもしれないよ。」

「それでも!今は一緒にいたい。」

 そして、サウンは、近くに咲いているマズナの花を一輪、摘み取る。その花を私に差し出し、緊張した面持ちで、

「サキミカのことが大好きです。僕をサキミカの恋人にして下さい。」

 と正式な告白をする。 

 私は嬉しくて、つい笑顔になる。

「ありがとう。あれ?なんかまだ真ん中の花びらが開いてる。まだ満開じゃなかったのかな?」

 どんどん花びらが開いていき、大きな花になる。そして、その中央にエメラルドグリーンの小さな宝石が出てきた。

 私は、そのきれいな花を受け取る。

「ほんとだ。中に宝石があるなんて知らなかったな。」

 サウンも、意外なことでビックリしている。

「ステキ・・・」

 触ると。ポロッと取れた。

「あ、取れちゃった!」

 そのキラキラ輝く宝石を手の平にのせ、見惚れていると、サウンが腕を掴む。

「返事が聞きたい」 

 真剣な眼差しだ。

「うん、もちろん、私もサウンの恋人になりたい。」

 恥ずかしいけど、、思い切って言った。すると、そのまま腕を引き寄せられ、

ギュウって抱きしめてきた。

「ありがとう、超嬉しい。」

 またあの安心感が湧いてきた。いつまででも自分の身がゆだねることが出来る。

 そして、サウンは腕を解き、大きな目で私を見つめる。そして。顔をゆっくり近づけてくる。

 わっ!キスしてきた!さっきの無理やりなキスとは全然違う、気持ちが溢れている。ドキドキしたけど、やっぱり優しい愛情に包まれる感覚だ。

 だけど、その後、何度も何度もするので、息が苦しくなって、胸を押して突き飛ばす。

「しつこい!」

「何度でもしたいよ。」

 と言ってニヤッと笑う。

「大好きだよ。」

 今度はほっぺたにキスする。

「よし、帰ろう!」

「うん。」

 手を繋いで歩き出す。サウンは、時々私を見て微笑む。

 可愛い・・・やっぱり顔が一番好き・・・かも。

「さっきの長寿の水の話の時、結婚の話が出たから、もし結婚したらって考えちゃって。考えすぎてもうわかんなくなった。僕たちはまだ学生だし、まだまだ先の話だから、もう考えるの止めた。」

「そうだね、大人になったら恋人じゃなくなってるかもしれないしね。」

「怖いこと言うなよ。僕は付きまとうぞ!」

「サウンがだよ。他に可愛くて性格が良い女の子はいくらでもいる。」

「そうかもしれないけど、僕にとってはサキミカが一番可愛いし、ちょっと態度が冷たいところも好き。」

 私の容姿なんて、サウンの美しさの半分にも届かない。付き合うことが学校の女子たちにバレたら、「あんたなんかサウンに釣り合わない!」って文句言われるに決まってる。でも、すぐにバレるだろうな。だってこの笑顔だもの。

 サウンは、幸せオーラ全開で、鼻歌まで歌ってる。


 私たちは歩き疲れながらも、警察に到着した。

「サウン、サキミカ、お帰り~!!

 タジンとドジン、モゴルンは再会を喜ぶ。モゴルンは涙目だ。

「サキミカ~!!」

 サンダーが駆け寄ってきた。2人が繋いだ手を無理やり離し、優しく抱きしめてくれた。

「お帰り~、無事でほんとに、ほんとに良かった!1」

 言いながら、大泣きしている。

「大げさだよ。」

「大げさじゃ無い!」

「分かった、ただいま、サンダー。」

 そ。の姿を見ながら。先に戻っていたサウンの父親は、

「告白は上手くいったのか?」

 と、さりげなく聞く。

「うん、父さんありがとう。」

 サウンは、満面の笑みを浮かべる。

 また警察に戻っていたペカルは、急いで家に電話する。パランが出た。

「はい、ペカルさん?あら、お友達帰ってきたの?それは良かったわ!それじゃあ、私が車で二人を送り届けるわ!」

 夕飯を食べて眠くなり、窓辺でうたた寝していたトリーとソーハーが

「あなた達~!!お友達が帰ってきたみたいよ!」

という言葉で飛び起きた。

「早く身支度して!今から警察まで車で送るから。」

「は。はい。」

 パランは、いそいそと出かける用意をしている。

「予想より早く帰って来たな。」

 ソーハーはあくびを一つする。

「ほんとだよ、まだ眠い。」

 トリーは目をこする

 2人は無理やり車に詰め込まれる。

 パランはエンジンをかけたが、キュルキュルキュルと変な音がする。

「どうしたのかしら?あら、ボタン間違えちゃったわ。よし!」

 と言うと、車が急発進する。

「わーーーーー!!!」

「ごめんなさいね、私、あんまり運転上手くないのよ。」

「あんまり?ですか?」

ソーハーは聞き間違いかと思って、確認するが、パランには何も聞こえないようだ。

「ヒーーーーーー!!!」

 トリーは、恐怖で泣いている。

 急発進、急ブレーキで、2人はだんだん気持ち悪くなって来た。

「何でもいいから、早く到着してくれーーー!!!」

 警察に到着した時には、トリーもソーハーも、廃人になっていた。

「着いたわよ!私が玄関までついて行くわ。」

 パランは、そう言いながら先に行ってしまったので、2人はよろよろと車を降りて、パランを追いかけた。

「大変お世話になりました。ご飯ごちそうさまでした。」

「お世話になりました。ご飯美味しかったです。」

 トリーとソーハーは深々とお辞儀をする。

「また遊びに来てね!じゃあね!」

 パランは満面の笑みだ。

「二度と行きたくない。」

 トリーは小声でいうと

「ペカルさんはすごいな」。

 ソーハーは、やっぱり感心する。


 通された部屋に入ると、皆のにぎやかな声がした。みんな楽しげだ。

「あー!タジン!ドジン!モゴルンも無事で良かった!!

 トリーとソーハーが駆け寄ると、

「おお!!トリー!ソーハー!元気でホントに良かった!!」

 タジンは、静かに泣いて、トリーの頭を撫でる。

「お主は怖がりじゃのによく耐えたな。うん、うん。」

 そして、トリーは、サキミカとサウンを見つけて、駆け寄ろうとして、立ち止まる。

「サウン、お前ついに?」

 ソーハーも追いかけてきて止まる。

「カップルになったか。」

 2人の目が、ある一点にくぎ付けになる。私とサウンの手が繋がっているからだ。

「まあな。」

「何がまあな、だ!やったな!おめでとう!」

 ソーハーは嬉しくて叫ぶ。

「ありがとう!」

 サウンは、恥ずかしそうにコメカミを掻く。

 トリーは、サウンの耳元で、

「キスはしたか?」

「もちろん、何回もだ」。

「ふ、お前、やるな!」

 私は、2人がこそこそ話をしているのが気に入らなかったので、トリーの膝を蹴った

「痛っ!何するんだ!」

「そこ、2人でコソコソ話しない!」

「サウン、こんな凶暴なやつで良いのかよー」

「ハハッ、気を付けるよ。」

 サウンは何も気にしてないようだ。ま、いつものことだからね。

「サウンには、こんなことしないもんね。」

 私が言うと、足が痛くて押さえているトリーは、

「どうだか。まあ、サウンに今、何を言っても無駄だからなー。ハートマークが満開だ。」

 呆れ顔をする。。

「もしも、2人が別れても、俺たちは友達だ!」

 ソーハーは、ポンッと自分の胸を叩く。

「縁起でもないこと言わないでくれよ。」

 サウンは、そう言って、つないだ手を強く握りしめた。


 ソーハーの父親が部屋に入ってきた。

「この度は、捜索へのご協力ありがとう!そして、サウン君のお父様を救出してくれてありがとう!君たち、お手柄だ!」

 ソーハーの父親は、トリー、ソーハー、サウン。私を、1人1人の顔を見ながら、感謝の言葉をかけてくれる。

「そして、子供たちを守ってくれたタジンさん、ドジンさん、モゴルンさん、サウン君のお父様、そしてペカル!」

「はい!」

 ペカルは、直立不動のまま、大きな返事をする。

「皆さん、本当にありがとうございました。」

 すると、サウンの父親は、

「救出したのは私だけではありません、悪者に捕らわれていた姫、女の子も助け出して、家族に笑顔をもたらした。私は君たちのその勇気を誇りに思います。」

 ソーハーの父親も、

「サウンさんの、もう一人の息子さんも元気だということが分かって良かったですね。あと、奥さんですが、ルビー村の病院に転院して頂きました。」

「ほんとですか?ありがとうございます。。」

 トリーの両親も、遅れて部屋に入ってきた。

「後日、あなた方を表彰したいと思います。今日は家に帰り、ゆっくりしてください。」

 

 次の日は、疲れてお昼過ぎまで寝ていた。いつもならサンダーに叩き起こされるが、今日は特別に寝かしてくれたのだ。朝ご飯でも昼ご飯でもない、お腹もあまり空いていないので、スープを作って飲む。その後もゴロゴロしていると、電話がかかってきた。

「もしもし、サウンだけど、サキミカ?元気?」

「うん。元気だけど、まだ疲れが残ってる。」

 昨日も会っていたのに、しかも告白されたのに。遠い昔のできごとのようだ。

「あのさあ、いきなりなんだけど、明日、ヤッキーに会いに行かないか?家族のみんなに会いに行く約束したし、夏休みはまだ少し残ってるし。」

「いいね!行こう!ヤッキーに挨拶しないで別れちゃったから心残りだったんだよね。トリーとソーハーも誘う?」

「誘おう。」

「私はトリーに電話するから、サウンはソーハーに電話して。

「分かった。」

 楽しみになってきた、まだ夏休みは終わらない!

 次の日の朝、森の入り口で待ち合わせをした。一番に私が到着した。その次はサウンだ。

「顔色良さそうだね。」

 サウンは微笑む。

「いっぱい寝たからね。」

 私も微笑んだ。

「おーい、おなよー。」

 ソーハーが来た。まだ眠そうだ。

 最後はトリーだ。

「旅で会った友達に会いに行くって言ったら、店番やらなくてよくなった!!ラッキー!」

 ガッツポーズする。

「それじゃ行こうか。」

 森を抜け、ゴダン町を通り、また森に入る。

 私たちは皆疲れているので、あまり話さずに歩いた。そして。

「ここでサキミカに告白したんだ。」

 サウンは余計なことを言う。

「まさかマズナの花をあげたとか?」

「そうだよ。」

 目の前にエメラルドグリーンの花畑が広がる。

「その時に、花から出てきた宝石がこれ。」

 耳を突き出す。私は、宝石が小さかったので、ピアスにしてみた。

「僕は、母がネックレスにしてくれた。」

 宝石に留め具を埋め込んで、それがキラキラのシルバーチェーンに繋がっている。

 トリーとソーハーは、ペカルの奥さんのパランさんが、心変わりすると、宝石が消えると言っていたことを思い出したが、2人には教えないことにした。やっとカップルになったのに、余計なことは言わないに越したことはない。


 森をやっとの思いで抜けた。水色の炎の塔を見つける。

「この塔の近くって言ってたよね。」

 その辺の木々を探しまわる。

「小さいから見つけにくいよね。」

 すると、ひと際、幹が太い大木の陰に、人影が見えた。

「サウン、サウン、そこに人がいる。怖い。」

 私は思わず抱きつく。サウンは硬直した。

「うわっ誰だよ。」

 トリーとソーハーもサウンの所に集まり4人で固まる。

「そこに誰かいますか?」

 勇気を出して聞いてみた。

 ゴソゴソッ

「ヒィ!!」

 トリーが小さく叫ぶ。

「もし誰かいるなら出て来て下さい。」

 私は続けて聞く。

 ゆっくりと影が動く。シャドゥンが姿を現した。

「こんにちは!初めまして。」

 作り笑いをする。

「あーーーー!!!」

 そのシャドゥンは突然泣き出す。

「え、ちょっと怖いんだけど。」

 また4人で固まる。サウンの腕に私とトリーがしがみつく。

 でも、なんか誰かに顔が似てる。誰だっけ?えっと、えーっと・・・

「あーーー!!!」

 ついに思い出したのだ。

「うわっ、何だよびっくりするなー」

 トリーは、ますますサウンの腕にしがみつく

「痛い、お前はやめろっ。」

 サウンがトリーを突き放す。

「あなた、ヤッキーね?」

「え?そんな訳ないだろう。ヤッキーはもっと小さい、小人だよ。」

 ソーハーが怪訝な顔をする。

「ううん、やっぱり小人なんていないのよ。シャドゥンのヤッキーが、小人に化けたのよ。」

「ええーーーー???」

 3人は信じられない様子だ。

「フフッ、バレましたか。はい、私がヤッキーです。」

「やっぱり!私たちはあなたに会うために来たのよ。ちゃんと挨拶出来なかったから。会えて良かった!」

「ずいぶんと大きいな。サキミカよりも大きいぞ。」

 サウンは、ヤッキーを凝視する。

 ソーハーはまだ信じていない。

「うーん、話すと長くなるので、うちに来ませんか?」


 ヤッキーの家は、この大木の向こうにあった。木でできた平屋建ての家だ。庭には、ハンモックが2本の木に括りつけられている。家に入ると、以前言ってた通り、奥さんと娘さんがいた。

「こんにちは。お邪魔します。」

 私たちが挨拶すると、明るく元気な奥さんが出迎えてくれた。

「あら!いらっしゃい。まぁ、良い男が3人も!」

「ご主人様の迷路に一緒に行った方たちだよ。」

「その節はありがとうございました。」

 奥さんは、丁寧なお辞儀をする。

「あ、いえ。」

 と言いつつ、何のことか分からなかった。「ご主人様」とは誰のことだろうか?

 奥の部屋へ通された。すると、娘さんが来て、

「ホントだ良い男!恋人いますか?」

 サウンに言い寄る。サウンは私をチラッと見て、

「はい、います。」

「なんだ!残念!!」

「おいおい、ちょっと話あるから後で良いか?」

 娘さんはブツブツ文句を言いながら、部屋を出て行く。


 「私はね、昔、あの水色の炎の塔に住んでいたんだ。」

「え?」

 唐突に言われたので、4人は顔を合わす。

「正確には、ご主人様が、だが。あそこは古くからある建物で、私のご主人様が気にいって、あの塔を買ったんです。」 

 ヤッキーは、一つ呼吸をしてからまた話し出す。

「家の中に何故か井戸があったんです。しかも、水が無く使われていなかった。しばらく放置していたんですが、ご主人様が井戸を埋めると言い出して工事をすることになりました。ですが、工事が始まってすぐに地下の迷路が見つかったんです。」

「あの迷路ね。」

「井戸の代わりにドアと階段を作りました。ご主人様は最初は暇つぶしに迷路を歩いていたんですが、何度歩いても、出口にたどり着かない。そのうち、何としてでも出口を見つける!とばかりに、とても執着するほどに熱狂していました。迷路を発見してから、おおよそ1年でやっと出口に見つけたんです。ご主人様は。出口までどう進むかを紙に書いたんです。それを私にもくれて。出口の外にはキレイな湖があったと教えてくれたんです。あと、黒い服を着た人たちが湖の周りにいるとも言っていて、だからいつも出口辺りに椅子を置き、コバルトブルーの湖を眺めながら読書をしていたそうです。でも私は怖くて行けなかった。そのうちご主人様は亡くなってしまった。その後、あの塔は売り出されることになりましたが、ご主人様の思い出が詰まった迷路をそのままにしておきたくて、私が怪物を3人連れてきて、入ってくる人を追い出すことにしたんです。怪物といっても、森にいる獣を怪物に化けさせただけですが。」

「獣にしては大きかったな。」

 トリーは思い出して身震いする。

「大きくしたんです。でも、あなた方が、どんどん怪物を倒していくのを見て。とても焦りました、私は小人に化けて迷路に入るドアを隠そうとしたんですが、その前にあなた方は見つけてしまった。ドアを開けて階段を下りて行く。どうしたら良いかわからなくなって、もうこの際、一緒に行って、ご主人様が見た湖を見ようと考えました。」

「迷路の右とか左とか書かれていた紙はあそこにあったんじゃない、ヤッキーが元々持っていたものなんですね?」

 サウンが、確認すると、

「そうです。」

「そんな都合よくあるわけないと少し思ってました。」

 サウンは、笑みを浮かべる。

「一緒に行って良かったと思ってます。美しい湖を見ることが出来て、皆さんとも友達になれました。」

 ヤッキーは、優しく微笑んだ。。

「あなたと友達になれてほんと嬉しいわ。」

 私は、ヤッキーの手を取る。

「なんであそこに怪物がいるのか、やっと分かったよ。」

 ソーハーは、納得した様子だ。

「これからも人を入れないつもりです。あの迷路も湖を汚されては困る。」

 そして、私たちは家族にお礼をして家を出た。

「ヤッキー、また遊びに来るね!」

「はい、お待ちしてます。」

「元気でな!」

「またな!」

「また来るよ!」

 手を振って、別れる。

「あーー!夏休みがもう終わっちゃうなー」

 トリーが突然叫ぶ。ソーハーは、

「まだ終わってないけど、明日から家の手伝いやらされるから終わったも同然か。」

 と言いあくびをする。

「今年の夏休みはいろんな場所へ行けて、友達もたくさんできて、良い思い出になったわ。」

 私は、いろいろな出来事を思い出す。

「僕は、一生忘れられない夏休みになった。」

 そう言って、サウンは私を見つめて笑う。

「今、すごい幸せだよ。」


 その幸せはその後も続き、3年の月日が経った。ついにサウンと結婚することになった。今日、結婚式が行われる。

 私は1人、広い控室にいた。白と赤のキサラに着替え、薄っすら口紅を塗る。

 サンダーが入ってくる。

「着替えたかな?」

「緊張してきた。ねえ、サンダー、お水をちょうだいよ。」

「やれやれ、我がままを言えるのは今日までだぞ。」

 と言って水を差しだす。

「うん。」

 急に悲しくなってきた。

「ねえ、これからも私のそばにいてよ。」

「これからそばにいるのは、サウン君だ。でも、困った時は、いつでも私を頼りなさい。私はずっとあなたの親代わりだからね。」

「ウ、ウウッ」

 涙があふれてきた、

「サンダー、今まで本当にありがとう。今までサンダーのおかげで寂しくなかった。感謝してもしきれないよ。」

 涙が止まらない。

「これ、泣いてはダメだ、目が腫れてしまう。」

「うん。」

 サウンに、腫れぼったい目のブサイク顔を見せたくない。頑張って泣かないようにしなきゃ。

「すぐに頼るから覚悟してね。」

「うんうん、分かった、分かった。」


「やーい、おめでとうだ、このやろう!」

 と言って、トリーが部屋に入ってきた。憎たらしいやつが来た。

「おめでとう。サキミカ!」

 ソーハーは笑顔で祝福してくれる。

「ありがとう、私、緊張で死にそうなの。」

「ああ。ほんとに死ぬかもな。サウンのやつ、恐ろしい程に美しくなってたぞ。お前卒倒するんじゃないか?しかも、口紅塗ってたぞ。」

 ソーハーはまた脅してくる。

「どうしょう・・・」

「おい、大丈夫かよ。」

 ソーハーが心配すると、

「深呼吸しろ!」

 トリーが見本の深呼吸をする。

「スーハ-、スーハ―。ほら真似して!」

「スーハ-、スーハ―。スーハ-、スーハ―。」

 バカみたいに繰り返す。すると、

「キレイよ、サキミカさん。」

 フレイラは。そう言って、羨ましそうに私を見た。

「すごいわ、あんな良い男をものにするなんて。ほんとにおめでとう!」

「うん、ありがとう。今日のピアノ演奏、引き受けてくれてありがとう。よろしくお願いします。」

「任せて!」


 次に入ってきたのは、ペカルと奥さんのパラン。

「サキミカさん、おめでとうございます。」

 ペカルは、笑顔で、祝福した。

「やだ、可愛いわー!!」

「あ、ありがとうございます。」

「ごめんね、奥さんいつもこのテンションなんだ。」

「あ、なんか、トリーとソーハーにチラッと聞きました。ハハハ・・・」

「本当におめでとう!!」

手をヒラヒラさせて、部屋を出て行く。


 次にタジンとドジン、モゴルンがやってきた。

「おめでとう!!!」

「おめでとう!!!」

「サキミカさん。おめでとうございます!

 皆、笑顔を見せてくれて嬉しい。

「モゴルン!あなたは私の心のよりどころよ!」

 あの旅の後、悩み相談をすると、いつもちゃんと聞いてくれたのだ。

「もう、緊張しすぎて気持ち悪くなってきた。」

「大丈夫ですか?」

 深呼吸する。

「スーハ-、スーハ―。スーハ-、スーハ―」。

 モゴルンは背中をさすってくれる。

「だいぶ良くなってきたわ、ありがとう。」

「良かったです。」

 3人とも、優しく微笑んでくれる。

「それじゃあ、後でね!」

 私は手を振る。

 そこにヤッキーが来る。

「久しぶり!また会えて嬉しいよ!おめでとう、2人の幸せを心からお祈りしていますよ。」

「ありがとうございます。。」

 私はお辞儀をする。


 そして、一番びっくりした人が来た。3年ぶりの再会だ。

「サキミカーーーー!!!久しぶりーーーー!!!」

「姫ーー!!遠いのに来てくれたの?

「来たわよ、あなたのこと好きだから来たわよ。」

「それはサウンでしょ?」

「違うわ、私も近々結婚するのよ。だから、あなたのために来たのよ。気軽に文句を言える人って、なかなかいなくて。」

「文句?」

 聞き間違え??

「あなたみたいな図々しい友達って周りにいなくて、物足りないの。ねえ、時々手紙を書いて良いかしら?」

「うん、ぜひ。毒舌で返してあげるわ。」

「やだ、楽しみ!今日はほんとに結婚おめでとう!!」


 最後に、サウンの両親とビヌクが入ってくる。

 サウンのお父さんは、

「サキミカさん、息子をよろしく頼みますね。」

 と言ってくれる。

「はい。」

 サウンのお母さんは、

「私のこと、本当のお母さんだと想ってね。遠慮しないで。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 私にも両親ができたのがとても嬉しい。と同時に、とても難しい気がした。

「キレイだね、サウンをよろしくね!おめでとう!」

 ビヌクが、優しく言う。

「はい!」

「じゃあ、会場に行ってるからね。」

「また後で。」

 私も、深呼吸をしてから、結婚式の会場に向かう。


 式場のドアの前で、今日初めてサウンに会う。

 白の上に紫のキサラを重ね着している。ソーハーが言ってた通り、薄っすら赤い口紅を塗っていた。目を見張るほどの美しさだ。スーハ-、スーハ―。だいだいは花嫁の方がキレイで主役になるが、サウンは、例外中の例外で、あまりにも美しくて、どんな花嫁も霞んでしまう。だから私は脇役でもいい。サウンの美しさに私はひれ伏すのだ。

「今日は一段と可愛いね。」

「フフッ、今日はキレイ!とか可愛い!とかたくさんお世辞を言ってもらった。正直嬉しかった。良い気分なんだ。」

「僕がお世辞を言う訳ないだろう。ほんとに可愛いよ。」

「そんなこと言ってくれるのはサウンだけよ。ありがとう。褒めてくれて。」

「本当のことだよ。」

 そう言って、私を抱きしめる。

「やっと手に入れた。愛してるよ。」

「うん、私もよ。サウンに会えてほんとに良かった。」

 これからずっと一緒にいられる。明日からの生活が楽しみで楽しみで仕方がない。

,

「ねえ、もうそろそろ式が始まるよ。」

「緊張するな。」

「深呼吸すると良いわ。スーハ―、スーハ―。」

「深呼吸か。スーハ―、スーハ―。」

 サウンは真剣だ

「フフッ」

 私たちは、腕を組んで、ドアを開ける、すると、拍手と歓声が湧き上がる。

 ピアノの演奏が始める。

「おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

 祝福してもらえて良かった。

 最後に、サウンは結婚の決意を述べる。

「今日は私たちの結婚式にお集まりくださり、誠にありがとうございます。。これからは夫婦共に手を取り合って、楽しく生きていきたいと思います。。どうぞこれからもよろしくお願いします。」

 サウンと私はお辞儀をする。再び拍手が起こる。

 サウンが微笑む。私の大切な人たちがみんな笑顔になった。


 すべての人に笑顔があふれますように!!


―終わり―



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