第8話 長寿の水の秘密

 海と森の分岐点のところで、2手に別れることになる。

「それでは、ここでお別れです。皆さんどうかくれぐれもお気をつけて。また逢う日を楽しみにしています。」

 ペカルは、名残惜しそうにする。 

 トリーは、サウンの耳元で、

「サウン、サキミカと上手くやれよ。応援してるぜ。」

 と言ってから、笑ってウインクした。

 ソーハーは、サウンには

「サキミカを頼んだぞ。」

 と言うが、私には

「サウンは自分に自信をつけたから、かなりヤバいぜ。気をつけろよ」

 と脅してくる。

「分かったから、気を付けるから!みんなも元気でね!モゴルンによろしく伝えておいてね。」

 私たちは。笑いながら、手を振って別れた。


 森の中をしばらく歩いて行くと、謎の白い建物の前に着いた。試しに、

「すいません、ちょっとお伺いしたいことがあります。」

 と、わりと大きめの声で言ってみたが、何も反応がない。

 ドアも、

 「コンコンコンッ」

 って叩くが、やっぱり反応はない。

「あの木の下で、誰か出入りするまで待ちませんか?」

 私が座りたかったので、近くの木の下に腰を下ろす。

「今日誰も来なかったら、どうする?」

「またナタリーの家に行くか?」

 それも悪くないと思ったが、大げさに「さようなら」して出てきたので、かなり決まりが悪い。

 朝ご飯を、結構な量を食べたので、段々眠くなってきた。うたた寝していると、

「誰か来たぞ。」

「あの黒いマントを羽織った人だ。あの人、前に見た人だから僕が行ってきます。」

足早に歩く、その人を逃さないように、走って追いかけた。

「すみません!あの!ここにビヌクさんはいらっしゃいますか?」

 いきなり声をかけられてびっくりして、さらに「ビヌク」という名前を出したので、相手はかなり動揺している。

「き、君は誰だね?」

「ビヌクの弟のサウンです、」

「弟?ということはミックス?」

「ミックス?」

 その人はとても興奮しているようだ

「今、報告してくるから、ここで待ってて。。」

 その男の人は、急ぎ足で中に入って行った。

 中に人がいたのか?こっちの怪しい呼びかけは無視したのか?それとも防音になっているのか?

 サウンが戻ってきた

「何か、僕が「ミックス」?に間違われて、中の人に報告しに行くって言われて。もしかしたら中に入れてもらえるかもしれない。」

「ミックス」が何か分からないけど、とても重要なことのようだった。

 取り合えず、話を合わせることにした。

 3人で建物の前に立って待つ。

「ずいぶん待たせるな。」

 サウンの父親は、だんだんイライラし始めた。

 それからしばらくして、先ほどの男が現れた。

「あれ?あなた方は誰ですか?」

「私は、ビヌクとこの子の父親です」

 サウンを見て言う。

「なんと!これは大変だ!あなたは重罪を犯した。いえ。勇敢な人だ。」

 何やらひどく感動してサウンのお父さんを見た。

「私の名前は、ロディンです。」

「あと、彼女はこの子の恋人です。」

 サウンのお父さんが私を紹介してくれた。

「うーん、他人は入れたくないな」

「他人じゃないです。僕たち・・・結婚してるんです。だから、家族です!」

 サウンは、一瞬ためらったが、嘘を堂々と言い放った。

 結婚?いきなり嘘をついたわね。でもこうでも言わないと私だけ1人取り残される。

「本当か?何か証明できるものを持っているか?」

 もう嘘がばれているのかしら?

「結婚に証明なんて無いです。」

 私は反論する。

「それはそうだが、家族以外は入れることは出来ない。」

 ロディンが迷っていると、

「分かりました。証明します。愛し合っていることを。」

 サウンが言って、私を見た。

「ごめん、こんな形でしたくなかったけど・・・俺たちキスしよう。そうすれば信じてもらえると思うんだ。」

 小さな声でひそひそ話す。この人は、とんでもないことを言う。

「分かった。」

「目を閉じて。」

 サウンが、軽く触れるキスをした。

 サウンのお父さんは、ビックリしすぎて、固まってしまった。

 ロディンは、目のやり場に困って、

「ウォッホン!!分かりました。認めます。」

 と言った。無事に難関を突破した。

 「非常事態じゃなかったら、サウン、今、命ないからね。」

  無論、サウンじゃなかったら絶対許さないけど。でも、順番が違うから、やっぱりショックだ。

「気持ちが入ってたら、こんな軽くじゃ済まないよ。」

 と言って、ウインクした。

「何を言うか!」

 とにかく、中に入れたのだ。今は忘れよう。

 入り口には誰もいなかった。左に曲がった最初のドアを開ける。中にはいくつかの椅子があるが、他には何も無かった。

「ビヌクを連れてくる。それが最もの証明だ。椅子に座っていて下さい。」


 程なくして、ビヌクが姿を見せた。

「父さん、なぜここに?」

 初めて見るその人は、ものすごく驚いている。

「何故って、お前がいきなり消えてしまったからだよ。」

「それは、僕が密かに謎の水について調べてたら、ロディンさんに見つかってしまい、研究に協力することになって。頻繁にここに来てる。最近は全然家に帰ってない。」

「謎の水?だって?」

 サウンが聞くと、

「君はサウンだね。君が小さいころに一度会ったことがあるよ。お母さんに似て美しく育ったね。」

「僕は覚えてないので、僕にとっては初めましてです。よろしくお願いします。」

 サウンは、頭を深々と下げた。そして、

「これは僕の奥さんだ。サキミカさん」

 と私のことを紹介してくれたので、

「よろしくお願いしします。」

 挨拶する。ビヌクはサウンに似ていないが、とてもカッコいい。

「え?もう結婚したの?」

「うん、まだ結婚式はしてないけど。式をしたら出席してよ。」

「ああ、もちろんだよ。」

 すると、ロディンが質問をしてきた。

「サウン君は、久しぶりにビヌクに会ったのかい?」

「はい、離れて暮らしていて。」


「私たちは「長寿の水」の研究と、結婚の救済を行っています」

 ロディンが自己紹介をしてくれるが、何を言っているのか、意味が全く分からない。そして、

「あなたのお名前を教えてください。」

「私の名前は、カインと言います。」

 サウンのお父さんの名前を初めて知った、

「カインさん、あなたは、何故、血筋が違う人と結婚したのですか?」

 急に自分の結婚について聞かれ、動揺していたが、深呼吸を一つして静かに話し出

した。 

「彼女は、早く両親を亡くしていて、シャドゥンに育てられていました。そのシャドゥンと僕の知り合いのシャドゥンが友達で、それで出会いました。血筋が違う人との結婚をは禁じられているのは知っていましたが、それでも彼女と一緒にいたかった。当然、正式な「結婚」は出来なかった。でも、ビヌクが産まれて、とても幸せだった。でも彼女は、寿命より早く亡くなってしまったんです。病気でした。」

 カインは、その当時のことについて、思いを巡らしている様子だった

「父さんはまだその人のことを愛していますか?」

 父親が自分の母親以外に好きな人がいたのは、やはり抵抗があるようだ。

「ああ、もちろん。でも。お前の母さんも愛しているよ。親の紹介で結婚したんだが、とても大切な人だ。彼女が亡くなって私があまりにもふさぎ込んでいたから、両親が心配して。でもおかげでサウンに出会えた。」

 サウンへの愛を感じた。 

・・・亡くなった奥さんは、私と同じような生い立ちだったんだ。好きだけど結婚出来ない人と一緒に居られて幸せだったのだろうか?私は・・・どうせサウンとは結婚できない。だから。ただ恋をして楽しめば良い。さっきの軽いキスのように、ドキドキを楽しめば良いんだ。結婚なんて重すぎるよ。

「私からも質問をしてもよいですか?長寿の水とは何んですか?」

「そうですね、あなた方にはよく知ってもらう必要がありますね。」

 と言って、ロディンがゆっくりと話を始める。


「昔々、寿命はもともと50年ほどだったんです。書物に記載がありました。長寿の水とは、シャドゥンが古来より大切に持っていた水です。しかし、それを、長生きしたいと思った人たち、そう、今、ゴダン町に住む祖先の人たちが奪ったんです。」

「僕の町の人が・・・そんな酷い人たちだったなんて。」

 サウンはとてもショックを受けている。

「奪った水を飲むと、どんどん寿命が延びたんです。300年もです。でもその噂を聞きつけた人たちが押し寄せた。しかし、その人たちには薄めた水や、ただの水を渡していた。薄めた水を飲んだ人たちの寿命はおよそ100年。ただの水の人を飲んだ人たちは当然50年のままで変わらなかった。ゴダンの人は長寿の水を独占したかったからです。」

「許せない。そりゃ誰だって長生きしたいって思うよ。だけど、そのせいで父さんは愛する人を失ったあとも、ずっと長く生きなきゃならなくなった。そんなの全然幸せじゃないよ。同じように年を取って同じぐらいに死ぬのが一番良いのに!」

 サウンは、自分の祖先のことが憎らしくなった。

「そうですよね。だから私たちは、その長寿の水の研究と同時に、そういう悲しいカップルがいるかどうかの調査を始めたんです・・・。昔は、町と町が離れているので交流が無かったから良かった。でも、最近は車ができて自由に移動できるようになり、他の町と交流できるようになった。そのせいで禁じられている結婚が増えてしまったんです。私たちは町を周って、禁じられた結婚をした人がいないか、密かに調べて、その方たちを救済しようとしています。具体的にはどう救済するかと言うと、寿命が短い人の方に長寿の水を飲ませ、相手の方の寿命と同じになるよう調節します。長生きの人たちに薄めた水を飲ませても変わらなかったので。そして、長生きしたい人が嘘をついて、またこの水を奪うかもしれない。だからこの活動は極秘なんです。」

「私の場合は、もう妻が亡くなったので、間に合わなかった。」

 カインは、ポツリとつぶやく。

「残念です。!この活動を始めたのは、10年前からなんです。」

 ロディンが、とても悔しがった

「ビヌクさんのような、寿命が違うカップルから生まれる「ミックス」は、寿命がとても不安定です。まだまだ解明できないことばかりです。


「僕は、母さんの寿命を20年過ぎてもう70歳だ。見た目も「おじさん」ぐらいでまだ「おじいさん」じゃない。僕は、普通じゃないことを知っていたので、結婚はしないようにしていました。だって相手の人が可哀そうじゃないですか?」

 ビヌクは、明るく言うが、

「ごめんな、ビヌク、私のせいで・・・」

 カインは、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「いえ、私はそれを恨んだことはないです。それはそれで、寿命がどこまで伸びるか楽しみになりました。僕は、歴史の授業で、長寿の水がどこに隠されているがまだ見つかってない、と習いました。それで、僕なりにいろいろ調べているうちに・・・見つけたんです。それは、昔、長寿の水を求めた人たちが掘った地下道です。長寿の水を密かに運ぶためのものだと思われます。だって、たまたま僕の家の使われていない井戸からここまで地下道で繋がっていたんだよ。それで僕も密かに水を探しにきていて・・・湧き水や井戸水を探しました。それで飲んでみたりましたが。僕がそもそも普通の人じゃないから、よく分からなくて。そんな活動をしているうちに、こちらの研究所の人に見つかってしまって、その時から僕は研究の対象者になりました。だから、最近ずっと家に帰ってなかったんです。」

「そうだったのか、私は何も知らずに・・・ごめんな。」

 カインは、いたたまれなくなった。

「あの、サウン君、確認なんですが、今の話を聞く限りでは、君は「ミックス」ではありませんね?」

 ロディンが確認する。

「はい、違います。話を聞くまで、ミックスの意味が分からなくて。」

「そうですか」

 ロディンは私たち3人を見て、

「皆さんは今のところ何も問題ないようで良かったです。なので、長寿の水の具体的な場所や研究結果をお教えすることはでき出来ません。」

「はい、今のところは、です。」

  サウンが言うと、

「ほう。何か問題はありそうですね。そうだ、お昼はまだ食べてませんよね?こちらで一緒に食べながら、話の続きを聞かせてください。」

「はい、ぜひ!私お腹空きました!」

「そうだね、せっかくだから頂こうかな?」

 サウンのお父さんはニコニコしているが、サウンは何やら考えてるようだ。


 その頃、ペカルと、トリー、ソーハーは、湖の所まで来ていた。湖沿いを歩いていると、どこかで見かけたことがある男が、向こうから近づいてきた。

「やっぱり!あなたはペカルさんですね。僕はトムです。覚えていますか?」

「ああ、そうだったね。」

 ペカルは嫌な記憶がよみがえってきて、身震いした。

「そういえば、タラントさんは、どうしています?」

 ソーハーは、気になっていたので聞いてみた。

「サウンさんが亡くなって、今部屋に引き込もっていて、食事も喉が取らない、と聞いてます。」

 3人は、実はサウンは生きてる、とはとても言えなかった。地の果てまで追いかけて来そうだからだ。タラントが不憫になってきたが、こちらも苦しめられたので、このままにしておこう。

 そうして歩いているうちうに、迷路の出口まで来た。中に入ってみると、もう誰もいなかった。

「私がお願いしていた通り、みなさんもう戻って警察に行きましたね。」

「おー!お菓子がちゃんと床に落としてある!」

 トリーがお菓子を一つ拾って口に入れる。

「それでは、行きましょう。」

「あの、また入口のドアを開けたら、また怪物がいますよね?」

 ソーハーが気になって聞く。

「うーん、タジンさんたちが倒してくれているかもしれません」。

「そう願いたいよ、3人も無理だよ・・・」

 トリーが不安そうに言うと、ペカルは、

「そーっと入って、全速力で逃げましょうか?」

 と言って、ダダダダッと手足を動かして走る真似をする。

「ハハハッ、そんな上手くいくかな?」

 トリーは笑顔になる。

「僕たちは戻ったら、家に帰るの?」

 ソーハーが言うと、

「そうなりますね。」

 ペカルは、当然だという顔をした。

「このまま家に帰りたくないよ!サウン達が戻るまでは家に帰りたくない。」

 トリーもソーハーも口をそろえて、ペカルに訴えた。

「それはごもっともです。でも。戻ったと報告するのも大事です。うーん、困りましたね・・・」

 ペカルは、迷路を歩きながら悩んでいたが、突然。何か良い案を想いついたようで、目を見開いた。

「では、私の家に行きましょう!、私はルビー村の警察官ですが、今はカンネル町に住んでいます。私、実は結婚しているんです。」

 ニコッと笑う。

「私はカンネル町の人と結婚したんです。他の町の人と結婚するのは禁じられていますが、寿命が変わらない、ということで、特に問題にならなかったんです。それで、私は警察官で家を空けることが多いので、カンネル町の彼女の実家に近いところに住むことにしたんです。そこなら水色の炎の塔から、そんなに離れていません。私の家に行きましょう!」

「そうなんですね!」

「ぜひ!お願いします!」

 2人は、懇願した。

 そして迷路が終わり、階段を登り、ペカルが、ドアを恐る恐る開けた。

「誰もいない。」

 そして、もう一つのドアも開けたが、そこにも誰もいなかった。

「何ででしょうか?とにかく、塔から急いで出ましょう!」

 ペカルに言われ。3人は走って外に出た。

「いい天気だ!」

「なんか懐かしい!」

 

 ペカルの家は、鮮やかな黄色の2階建ての家で、こじんまりしているが、庭には色とりどりの花が植えられていてよく手入れもされていた。

 玄関を入ると、

「おかえりなさーい!」

 奥さんと思われる女性が、キャピキャピしながら、ペカルに抱きつく。これが普通らしく、動揺することなく靴を脱い でいる。

「すごいテンション高めだな・・・」

 ソーハーは唖然とする。

「今、一瞬、姫を想いだしたよ・・・でも、俺の彼女はクールだぜ。」

 トリーも、驚いてから言う。

「でも、俺の家で、ブチ切れて暴れてたけどな。」

 トリーの彼女のフレイラは、旅に連れて行かないことに怒って、トリーをカバンで叩いていた。

「あら?いらっしゃい!」

「この子たちを、少し預かることにした。友達がまだ戻っていないから家に帰りたくないというから。僕がいない間も面倒を見て欲しいんだ。」

「分かったわ。こんな可愛い子たちだもの、任せて!私の名前はパランよ、よろしくね!」

「よろしくお願いします。」

 トリーとソーハーは頭を下げる。

「僕は、一度、警察に報告してくる。」

 と言って、出かけて行った。

 トリーとソーハーは、出されたジュースを一気に飲み干す。そして、パランは。こちらからは何も聞いていないのに、ペカルとの馴れ初めを話し始める。

「ペカルは、私が学生の時、森で遭難した時に見つけてくれた人なの。私はお礼したいと言ってデートしてもらって、それから私からガンガン攻めて恋人になって、結婚したの!だって警察官で、すごいカッコいいでしょ?」

 うっとりとした顔で、ペカルのことを思い出しているようだ。

「すごい幸せそうですね・・」

「そうなの~!!!きゃはは!!」

 トリーもソーハーも絶句する。

「ペカルさんは、男性にも人気があるので気を付けて下さい。」

 ソーハーは、さっきのトムのことを思い出して言う。

「え?」

 パランは驚いているようだ。

「旅の途中で男の人に惚れられて、でも、敵だったので倒しましたが。」

「まあ!何てこと??すごいわ!男性からも好かれるほどの魅力があるのね!」

 パランは、心配するどころか、テンションがさらにパワーアップした。

 かなり「ラブリー」な人だ。

「庭のお花キレイですね。」

「そうなの!結婚式にもたくさん飾ったのよ~」。

 この人のテンション高めは止まらない。

「ペカルさん、毎日大変そうだな」

 トリーとソーハーは、ブツブツ言いながら庭を散歩していると、庭の花に見慣れた花があった。

「これって、エメラルドグリーンの花。マズナじゃないですか?」

 トリーがパランに尋ねると、庭に出て来て、

「そうなの!結婚した時に、友達のシャドゥンにもらったの。」

「これを渡して告白すると上手くいくって噂がありますよね?」

 ソーハーは、噂話をする。

「ああ。上手くいくとかじゃないの。真実の愛を持って告白すると、奇麗な花の中から宝石がでてくるの。」

「宝石?そういえば、サウンは一度出したよな。」

「サキミカのことをどれぐらい想っているか分かるな。でも、サウンのやつ心変わりしてるかもな。あいつ悪魔だから、ククッ。」

 トリーは、恐怖の悪魔のサキミカを思い出す。

「心替わりしたら、その宝石は消えてなくなるの。相手の本当の気持ちが分かってしまうから、私は宝石が出てくるのは嫌だわ。真実の愛なんていらない、一緒にいて楽しければ。それが一番なのよ。」

 パランは、その時ばかりは、元気が無くなってしまった。

「確かに、知らなくて良いこと、ありますよね・・・」

 トリーは、そう言いながら、

「真実の愛はいらないか・・・なんか深いですね」

 と1人ごとを言った、


 ペカルは警察に行き、警察官長へ報告してから、モゴルンとタジンとドジンに会う。サウンの父親が見つかって、洞窟内に閉じ込められていたのを助け出したことを伝えた。3人は笑顔になり拍手する。

「皆さん、元気そうで良かったです。」

「あなたも元気そうじゃ。ヤッキーは森に帰ったぞ。」

「はい、皆さんはこれから家に帰るのですか?」

「皆が無事に戻るまでは、帰るつもりはない。」

 タジンが言う。

「その件なんですが・・・実は、トリーとソーハーは戻ってきたんですが、家に帰りたがらないので、今、私の家にいて、僕の奥さんが面倒をみてくれているんです。2人ともとても元気です。」

「おお、そうか!」

 タジンもドジンもモゴルンも喜ぶ。

「それで、上司であるソーハーの父親に報告した方が良いのか決めかねていて。」

「ソーハーが嫌じゃと言うなら報告せんでもええ。もう子供じゃないんじゃ。」

「はい。」

「あと、ここのお風呂に入らせてもらったぞ。」

「はい、どうぞ自由に使って下さい。」

 すると、サンダーが慌てた様子で部屋にやってきた。

「サキミカは、まだ戻らないですか?」「サキミカさんなら、サウンとサウンのお父様と一緒にいます。まだ戻ってきてないです。」

「何故、帰って来ない?」

「サウンのお兄さんを探すためです。」

「何を考えているのだ!。早く無事に帰ってきて欲しいのに。」

「今日中には戻ると思うのですが・・・」

 サンダーは、がっかりして、項垂れてしまった。


 夕飯時にペカルが帰ってきて、パランのテンションはさらにグレードアップした。

「僕たち、お邪魔ですね。」

 パランは、ペカルにべったり張り付いている。

「いーえ!ペカルさんのお役に立ちたいから、気にしないで好きなだけここにいて良いのよ。」

「こっちは好きなだけ居たくないよ・・・」

 ソーハーは、小さな声で悪態をつく。そして、夕飯を食べながら、

「タジンとドジン、モゴルンに会いましたが、元気そうでしたよ。」

 ペカルさんは、穏やかに話す。

「良かった。」

「うん、良かったよ。」

 トリーとソーハーは笑顔になる。

「そういえば、さっき、奥さんがペカルさんとの馴れ初めを話してくれました。結婚する時、皆に祝福してもらえましたか?」

 ソーハーがそう尋ねると、ペカルは、

「ちゃんと祝福してもらえたよ。」

「それは良かったです。サウンは祝福してもらえないかもしれないと思うと、とても心配です。」

「2人はまだ学生です。結婚にとらわれず、恋愛をしたら良い。」

 ペカルは「恋愛」という言葉を出したので、

「確かに、恋愛が先ですよね。あの2人は、なかなかくっつかないから、もどかしい。」

 ソーハーは、しかめっ面をする。

「ハハッ。ほんとだよ、軽い気持ちで付き合っちゃえばいいのに。サウンは真面目だからな。」

 トリーも、続けて言う。


 そのサウンはというと、まだ研究所の部屋にいた。サウンはロディンさんに質問攻めしていた。

「これからミックスの子供ができるかもしれない人がいたら、救済してもらえるんですか?」

「もちろんですが、少なくとも半年間一緒に住んでいていることが最低条件です。」

「一緒に住むんですか?」

サウンはびっくりして、大きい目をますます大きくする。

「もしも、別れてしまっったら、ただ相手の寿命が延びるだけになってしまいます。とても責任重大です。だから審査は慎重に行います。また相手の方も、自分の一生が長くなるのです。なので、ちゃんとご本人の意思決定書が必要になります。」

「じゃあ、学校を卒業して、一緒に半年以上住んで、相手の女性の意思決定書を出せば良いんですね?」

「やっぱりサウン、あなたの話でしたか。」

「僕、必要になったら、またココに来ます。」

 「必要」になる相手は、今のところ私だ。50歳が寿命は短いと思っていたが、300年は長すぎる。飽き飽きしてくるだろう。だから100歳くらいが良い。その辺は調整できるのかしら。

 サウンは、また何か考え込んでいる。サウンのお父さんは、話を変えて、 

「ビヌク、一度家に帰ったらどうだ?」

「どうせ僕は1人だから、ここにいる方が楽しい。話せる人がいる。」

 サウンは、密かに思っていたことを、口に出す。

「もし良かったら一緒に住みませんか?僕はお兄さんと一緒に暮らしたいと思います。」

「え?」

 ビヌクだけじゃなく、サウンのお父さんも、この発言に驚く。

「父さんは、僕に遠慮して一緒に住まなかったんですよね?」

「それはあるが、母さんにも悪くてな。」

 「兄さん、僕たちは今、ルビー村に住んでいます。僕が前に住んでいたゴダン町はどんどん人口が減って、とうとう学校が廃校になってしまったんです。僕たち家族は、学校に行きたい僕のために、あと。母が病気がちで良い医者に診てもらうために、ルビー村に移り住んだのです。」

 そうだったのか、いろいろな問題があったから、違う町に移り住むことが出来たのか。

「ルビー村は、とても活気がある村です。みんな明るくて、友達がたくさんできました。母さんの顔色も良くなっきて。引っ越してきて良かったと思ってます。だから、よかったら一緒に住みませんか?。」

 サウンは、ルビー村をとても気に入ってくれていて、私は嬉しくなった。

「そうだね。考えておくよ。ぼくの研究が終わったらお願いしようかな?」

「はい、ぜひ待っています!」

そして、私たちは、ロディンとビヌクと共に建物を出た。

「庭にある井戸から帰ってください。さっきも話した通り僕の家に繋がっていますから。」

 ビヌクがそう言うと、

「じゃあ。また来るからな。」

「僕も父とまた会いに来ます!」

「私は、ルビー村に住んでいます。村に住むことになった時は必ず会いに伺いますね!」

 私たちは、再会を誓った。

「なんだか楽しみになってきたな。」

 ビヌクは笑った。そして、私にこう言った。

「サキミカさん、サウンのこと幸せにしてくださいね。」

「はい。」 

 私たち3人は、地下通路を通る。想像していたよりも、とても広くまっすぐな通路だった。3人が横に並んでも余裕で歩ける。地下水か雨水か分からないが、足のくるぶしのところまで水が溜まっていた、

「やっと帰れるね。」

「ほんと疲れたね。」

 だいぶ歩いてから、ビヌク家の庭に出た。

「早く警察に言って皆に知らせないと。」

 私が言うと、サウンは、

「うん。僕はこの旅に来て良かった。みんなのこと良く知ることができたし。」

 知った町に戻ってきてホッとしたのか。そんなことを言った。

「私もよ。」

 サウンのお父さんは、頷いて微笑む。

 そして森の中を歩いていた時だった。

「父さん、先に戻ってて。」

「どうした?」

「ちょっと・・・あれがあって・・・」

「ああ。分かった!だが、今日中に必ず警察に戻って来るんだぞ!」

「分かってる。」

 私は訳が分からず、そこに立ち尽くしていた。

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