第7話 森と姫の家と海

 サウンは、白い謎の建物の屋上に座って、これからどうするか思案しているうちに眠ってしまった。濡れていたキサラも乾いた。

「やべ、上が裸のまま寝てた。」

 キサラを着て、帯をしっかり締めて気合いを入れる。

 ここにいても仕方がないので、とりあえず洞窟へ向かうことにした。梯子を下りて、建物の中をうかがい知ろうしたが。人の気配はなく、窓も高いところに、小さいのが何個かあるだけだっだ。

「でも、さっき人が入って行ったよな?」

 不思議に思いつつ、洞窟に向かって歩き出す。


 メドロが教えてくれたドアは、木々に覆われていて見つけづらかった。

「さあ。いきますよ。」

 ペカルが開けると、想像していたものからはるかにかけ離れた「階段」があった。それは確かに階段であるが、木の板が石の壁面にくっついているだけの階段で、朽ちて黒くなっている箇所がいくつも見える。なんとも心もとなく、いつ崩れても

おかしくない。しかも手すりがないのだ。

「あーー!なんで、メドロに玄関の扉の鍵をもらわなかったんだろう!!!」

 メドロと別れた時のことを悔やんだ。タラントの話だと、鍵はメドロがすべて管理していて、いつも腰にぶら下げていたらしい。

「わざとかもしれませんよ。あの時、鍵を渡すこともできたはずなのに。こんな階段使わせるなんて。」

 姫が、怒った顔をする。

「確かにそうだ。わざとだ!!」

 ソーハーが悪態をつく。トリーは、

「サキミカが憎くて、意地悪したのかもな。」

 と言って、私を睨む。

「私のせいだって言うの?」

「どうする?他に洞窟を出るところは無いし。」

 ソーハーが、ため息をつく。

「行くしかありませんね。仮に落ちたとしても、下は木がたくさんありますから、クッションになります。」

「???」

 皆、唖然とする。

「怖すぎる・・・」

 トリーは足をガクガクさせていた。 

「では私から行きます。皆さんを守る警察官ですから、先にこの階段の板の具合を確かめます。」

 やっぱりこの人すごい。怖いもの知らずと言うか。

 それに続くのはソーハー。冷静を装っているが、内心は、かなり冷や汗をかいている。その次のトリーはいつも通り、

「ぎゃあーーーーー!!!」

 何度も泣き叫びながらも、必死に足を動かしていた。叫ぶたびに、森に住む鳥たちがバサバサッと飛び立つ。彼は、叫ぶことで恐怖心を打ち消し、前に進む勇気を絞り出しているように見える。そして、姫は黙々と下りていく。

「強いなー。」

 見た目は可愛らしいのに。彼女はどこから来たのか?故郷はどこか?後でいろいろな質問をしたくなった。次が私で、その後ろがサウンの父親で、最後尾だ。親子だから当然だが、サウンに雰囲気が似ている。そういえば、まだ2人は会えていない。

 それぞれが、石の壁面にへばりつきながら、足を下ろしていく。


「もうダメ、疲れたわ。少し休ませて。」

 姫が弱音を吐き、、その場にしゃがみ込む。

「ほら、サウンに会いたいんでしょ?頑張って!サウンは絶対生きてるから。大丈夫

だから。」

「ふん、どうせ私のことなんて関心が無いのよ。サウンさんはサキミカさんのことが好きなのよ、だって、あの目は恋をしている目だった!」

「え?いつそう思ったの??」

 全く知らない情報だった。

「寝てる隙に頭をなでなでしちゃって!

「・・・知らなかった。」

 確かに部屋に何しに来たんだろうと思ったが、私に会いに来てくれたんだ。自然と顔がニヤけてくる。それを見た姫は、

「何かムカついてきた!早く行くわよ!」

 トリーとソーハーは震え上がった。


 眼下の森の木々がだいぶ近くなってきた。

「みなさん、あともう少しですよ!頑張りましょう!」

 もはや、もう気力だけで体を動かしている。

 そして、ペカルとソーハーが地面に足を着け、安堵していると、

「わーーー!!!」

 トリーが、階段の最後の段を下りるところで、蹴躓いて、ソーハーを後ろから突き飛ばして、2人が倒れる。

「こら!何しやがる!!」

「ごめんごめん。あと少しと思ったら、気が抜けて、そしたら足の力も抜けちゃって。」

 姫。私、サウンの父親と、みんな無事に下りることが出来た。

「やっと、洞窟から出られたーー!!」

 全員が、解放感で、地面に仰向けで寝転んだ。青い空を見る。

「タジン達がいる迷路はどこにあるんだろうな?」

 ソーハーは、迷路に残されている皆のことが心配で仕方がなかった。

「どこに向かえば良いか皆目見当がつきませんね。」

 サウン父親が、辺り一帯の木々を見る。

「さっき見えた海に行くのはどうでしょう?浜辺をたどっていけば、もしかしたらあの湖に繋がっているかもしれませんよ。そしたらタジン達に会える!」

 ペカルが名案を思い付く。

「あ~お腹空いた!」

 私は、緊張感から解放されて、お腹が空いていることに気づく。

「カバン、洞窟においてきちゃったから、お菓子無い・・・着替えも無い!」

「カバン持っている人はいる??」

 見た感じ、みんな手ぶらだ。

「部屋に置いてきた・・・」

「俺もだ・・・」

 トリーとソーハーは落胆する。

「私は肌身離さずカバンを持っていますが、お菓子はちょっとしか入っていません。」

 ペカルがそう言うと、みんながペカルの周りに集まる。その手には。カシアの実を練って焼いたお菓子が10枚あった。

「何これ!おいしそう!」

「栄養たっぷりです。空腹も満たされますよ。」

「誰が作ったの?」

「おい。サキミカ、前のめり過ぎだよ。」

ソーハーが、腕を引っ張る。ペカルは、笑顔で、

「私です。趣味はお菓子作りです。女性の姫様とサキミカさんには2枚差し上げます。」

「なんでそんな「ひいき」するんだよ!だいたい、サキミカは女じゃないぞ!恐ろしいい悪魔だ!」

 とトリーが言うので。

「なんだと!!!」

 私は、蹴りを入れようとして、すかさずトリーは逃げる。

「待てーー!!」

 追いかけ回していると。突然トリーが立ち止まるので、私は激しくぶつかる。

「サ、サ、サウン?ゆ。ゆ、幽霊じゃないよな??」

「ええ?サウン?」

 足元を見ると足はしっかりとある。

「何か騒がしい声がすると思って来てみたら、2人が見えて・・・」

 サウンは、可愛い笑顔になる。

 私とトリーは顔を見合わせて、サウンに駆け寄ろうとした。が。私たちの間を割って入り、突き飛ばして、真っ先に向かう人がいた。そして、サウンに抱きつく。

「サウンさん、会いたかったわ!」

 積極的女の姫だ。抱き着かれたサウンは、びっくりしたが、顔を覗き込んでから、

「姫?姫様ですよね?助かったんですね?良かった!!」

 顔を上げて、私たちを見て、

「どうやって助け出したの?」

 興味津々そうに聞く。

「後で話すね。姫、ひとまず、サウンから離れて。」

 私は、冷静に、心を落ち着かせて言った。

「嫌よ。」

 ぴったりくっついて離れない。

「ちょっ、離れなさいよ!」

「離れないわ!」

 ますますギューッと抱き着く。

「もう!私たちを差し置いて!!」

 森に響き渡るほどの大声を出していた。

 すると、サウンの父親が、サウンの前に出る。

「父さん!」

 驚いてから嬉しそうにする。

「予想通り、姫の結婚相手だったんだよ。

 ソーハーが教える。

「ごめんな、勝手な行動をして。ビヌクに会いに行ったら、不在で。庭を探していたら井戸があって覗いてみると、水はなく、地下道が出来ていたんだ。・・・そこをビヌクを探して歩いた。そしたらそれが、白い建物にある井戸に繋がっていたんだ。それで、井戸から出て、さまよっている時にメドロに捕まったという訳だ。」

 ここに来た経緯を話した、サウンは黙って聞いていた。

「じゃあ、あの水色の炎の塔には入ってないんだね。」

「ああ、あそこには入ったことがないが・・・。」

「兄さんは、あの白い建物の人たちと、何か繋がっているという訳か。」

「サウンは、白い建物の所に行ったのか?」

「うん、黒いマントの男の人を尾行したら、その建物に入って行った。けど、窓もなく人の気配がしなかった。」

 サウンは、そう言ってから、気持ちを切り変えて、

「うん、とにかく父さんが元気で良かった!」

 2人は微笑み合った。

「ねえ、サウンさん、私の家に来て一緒に食事しませんか?」

 姫は上目遣いでサウンを見て問いかける。

「え?」

 サウンは困惑した。

 姫は、サウンに抱き着いたまま、振り返って、

「皆さんも、ついでに、よかったらいらして。あの海の近くなの。」

「ついでに、ですって?」

「まあまあ。」

 と、またソーハーに腕を引っ張られ、たしなめられる。

 私たちは、姫の家に行くことにした。失礼なことを言われたが、今はゆっくり体を休めたいから我慢する。皆、疲れからか口数も少なく、トボトボと歩いた。

 姫は、先頭でサウンと腕を組んでいる。

「なんで、嫌がらないのよ。フンッ。」


 姫の家は、とても大きいキレイな家だった。

「みなさん、まずはシャワーを浴びて。着替えも用意しますわ。」

 すると、玄関から2人のメイドが駆け寄ってきた。

「姫様!なんと!ご無事でしたか!まぁこんなに汚れてしまって。」

 朝着替えた真っ白なキサラは、薄汚れている。

「この方たちの着替えを用意して。」

「かしこまりました。」

 私は1人、ゲストルームに案内された。

「わーい!ふかふかのベッドだ!」

「こちらにお着換え下さい。」

 メイドの方が着替えを渡してくれた。

「ありがとうございます。」

 部屋についているシャワー室で、すっかり汚くなった髪と体をキレイに洗った。

そして、ベッドに横になってぼんやりしていると、

 コンコンコン

 とノックが聞こえた。

「サウンだけど、入っても良い?」

 えええ?

「ちょっと待って!」

 急いで鏡を見て、顔と髪を整えて、ドアを開ける。

「どうしたの?」

「どうしたのって、会いたいから会いに来たに決まってるじゃん。」

 そうして部屋の中に強引に入る。

「さっきは姫と楽しそうに話してたくせに。」

「うん、楽しかったよ。嫉妬した?」

 サウンは顔を覗き込んで、私の表情を読み取ろうとする。

「してない。」

「したよね?だって今、怒ってるじゃん。」

 そう言うと、腕を引っ張り、また抱きしめてきた。

「すっごく会いたかった。」

「うん。」

「僕の中身、少しは好きになってくれた?」

「どうかな?」

「でも、嫉妬した時点で、僕のこと好きってことだから。」

「ち、違うわ、でも、もう姫に優しくしないで。」

「分かった。もちろんだよ・・・サキミカ、あのさ・・・」

コンコンコン!

「おーい、サキミカいるか?ごはん出来たって。サウンもいないから会ったら伝えておいて。」

 ソーハーの声だ。

「ご飯できたんだね、じゃあ、行こうか。」

 サウンが言う。

 私は、サウンに抱きしめられて、ものすごくドキドキしてしまった。今までの安心感とは違う感情が出て来て、とても驚いた。

 急いで部屋を出る。


 広い広いダイニングにはひときわ大きいテーブルがあり、このテーブルの上には、海の幸をふんだんに使った料理がたくさん並んでいる。

「この度は、娘のナタリーを助けて頂き、誠にありがとうございました。。ほんの気持ちですが、お食事を召し上がって、くつろいで下さい。」

 姫の父親と母親が、頭を下げた。姫の名前は、ナタリーというらしい。お腹が空いていたので、あれもこれもお皿に取って、もりもり食べた。

 救出経緯を聞かれたので、私が説明した。

「洞窟からつり橋を渡ったところに、生け贄の場所がありました。サウンがいなくなり、警護の人がたくさん捜索することになり、儀式を行う人が女性と巨人だけになりました。なので、倒すことが出来たんだと思います。ナタリーさんを助けることが出来て、ここにきて本当に良かったと思います。」

 サウンは、自分が何故いなくなったかということも話した。

「僕はタラント机の下の扉の中に入りました。」

「え?やっぱりそうなの?」 

 私たち一同は驚きを隠せない。

「タラントはここに落ちたら助からないって言ってた。」

 ソーハーがサウンに教える。 

「はい、その通りです。タラントの見張りがいて部屋の外に出ることが出来ず、でもナタリーさんを助けるために何かしないと!って、気持ちが焦っていました。だから扉を見つけて、入ってしまいました。それで、水の中に滑り落ちて掴まる所も無く死にそうになったんですが、この宝石がなぜか緑の浮かぶ板に変わりそれに乗って助かったんです。それで、もう一つ通路を見つけて外に出られました。でもそこは森で

自分がどこにいるか分からなくて大変でした。」

 私は思わず、口を手で覆った。まさか、サウンが本当に死にそうになっていたとは思わなかった。サウンは首に巻かれた緑の宝石を見せて、

「これはサキミカを想う気持ちでできた宝石なんです。死ぬ前にサキミカに会いたいと強く願ったんです。だから、これがその願いを叶えてくれたんです。」

 サウンは、大変な思いをしたのに、笑顔で話す。

「サウンさんは、本当にサキミカさんを愛しているんですね。悔しいけど、諦めるしかありません。」

 姫ことナタリーは、本当に悔しそうにしている。

「惜しいな、こんな美しい好青年が婿になってくれたら嬉しかったのだが。。サキミカさんは幸せものだね。」

 ナタリーの父親は、残念がった。

「すみません。」

 サウンは、嬉しそうに謝る。

 さっきから、みんなの前で堂々と愛の告白めいたことを言うサウンに嫌気がさす。なので、話を変える。

「結局、誰も生け贄にならなかったので、この地の平和は保証されないかもしれません。」

「まあ、そんなの迷信ですよ。私はこの子が助かる方が大事です。災いが起きたら起きたで、その時は、家族みんなで乗り越えたいです。」

 ナタリーの母親は、とても素敵な考え方をしている。私の両親は、私が幼い時に亡くなったので。両親からの愛は。私には分からないが、とても温かくて心の平穏をもたらすものなのだと感じた。


「この近くに湖はありますか?」

 ペカルが重要なことを尋ねる。

「はい、この海の海岸沿いを行くと川に突き当たります。その川を登っていくと、大きな湖があります。」

 ナタリーの父親が教えてくれた。

「貴重な情報ありがとうございます。」

 自分の予想通りだったにで、ご満悦だ。


 サウンは、どうしても聞きたいことがあるようで、

「また質問ですみません、あの洞窟の近くの森の中に、白い建物があったんですが、何をしているところかご存じですか?」

「うーん、そうですねぇ。私は知りませんが、噂では、建物の中に井戸があって、その水を研究している研究所だと言われています。」

 ナタリーの父親が親切に答えてくれた。

「そういえば、サウンに兄さんの家に、水がありましたよね。」

 ソーハーは、自分見つけたので思い出して言う。

「それじゃあ、お兄さんもその井戸の水を研究しているのかな?だって、今家にいないんですよね。きっと、今その研究所にいるんじゃないですか?」

 トリーが、真っ当な意見を言う。


 食事が終わり、私たちは、ソファーのところで。明日の計画を立てる。

「早くタジン達の所に戻りたいですが、サウンのお兄さんもいなくなっているので、研究所に行って、いるかどうかを確認をしたいですね。」

 ソーハーは迷っていた。

「どうしましょうか?」

 ペカルは、指示待ちのようだ。

「ここは、二手に分かれるのはどうでしょう?」

 私は、試しに提案した。

「なるほど、いいですね。」

 みんな、それが良いと、賛成してくれた。

「兄のビヌクは、サウンと私だけで大丈夫です。」

 と言ったが、サウンは、

「父さん、平等に3人ずつに分かれた方が良いんじゃないかな?ペカルさんが、トリー、ソーハー、サキミカの3人を連れて行くのは大変だと思うんだ。」

「じゃあ、誰か1人、研究所に行く人はいるかな?」

「俺行きたいな。」

 とソーハーが答えたが、サウンが目で「行くな」と訴える。

「ソーハー、空気読もうぜ。」

 トリーが小声で言ってから

「サキミカ、行きたいって言ってたよな。」

 と、芝居じみた演技をした。

 すると、お父さんは無表情で私を見て、 

「サキミカさんはが行きたいなら一緒に行きましょう。息子も喜ぶでしょう。」

「サキミカ、一緒に行こう。」

 サウンも続ける。話が勝手に進んでしまい、私は、拒絶できない状況だ。

「えっと、うん、お邪魔じゃなければ、行きます。」

「良かった!」

 サウンは、ガッツポーズをする。

「では、トリー君とソーハー君は、私が保護者として責任を持って、タジンさん達の所へ送り届けます。」

 ペカルは、サウンの父親に向かって直立不動で宣言した。サウンの父親も、

「よろしくお願いします。」

と言い、ペカルも

「こちらこそよろしくお願いします。」

とお互い言い合った。

「それでは。明日も早いので、もう寝ましょう。明日も疲れますから。」

 ペカルは、取り仕切って言う。

「はい、お休みなさい。」

「お休みなさい。」

「お休みー」

 口々に言う。


「サキミカ、待って、ちょっと話して良い?」

 サウンが声をか開けてくる。

「うん、良いよ。」

 突然のことなので、少しビックリした。

「さっきはなんか・・強引に決めちゃってごめん、サキミカ、の意見も聞かないで。」

「トリーが余計なことを言ったからね。私はトリーとソーハーと離れ離れになるのは、正直、寂しいな。」

「うん、ごめん・・・」

 サウンは、可愛いく落ちこむ。

「でも、サウンとも一緒にいたいから、私はサウンについて行くわ。」

「ほんと?」

 サウンは、パッと花が咲いたように晴れやかな顔になる。ほんと単純だ。サウンは、表情をコロコロ変える。今は笑顔だ。

「サウンって、普段は控えめなのに、時々、強引になるでしょう?そこが好きよ。」

 私は思いきって話す。

「好き?ほんと?じゃあ、これからどんどん強引になるよ。」

 だから言いたく無かった、すぐに調子に乗るから。

 私は姫に嫉妬していた。サウンが私のことを好きなのは分かりきっているのに不安になった。失いたくと思った。だから、好きになったところが見つかったら、ちゃんと言わなきゃと、思ったのだ。

「それじゃあ、また明日!」

 私とサウンは、笑顔で別れた。


 朝、目覚めると、ベッドサイドに私の赤いキサラが、洗濯された状態で置かれていた。

「洗ってくれたんだ、嬉しい!しかもふわふわ。」

 私は、髪の毛を念入りに整える。帯をしっかり締めて気合いを入れる。

 ダイニングでは、朝食をいただく。この朝食を食べ終わったら、姫とお別れしなければならない。ナタリーのお母さんがお土産で魚のお団子をくれた。

 私たちは、身支度をして、玄関の所で別れの挨拶をした。

「サキミカーー!助けてくれて、ホントにありがとう。このこと一生忘れない。サウンのこと大事にしてあげてね!!」

「こちらこそ、助けることが出来て嬉しいよ。一緒にいて、とても楽しかっわ。」

 私は、「姫」と抱き合った。

 そして、ナタリーは、

「皆さん、また、いつでも遊びに来て下さい!」

 と明るく言ってくれた。

「お世話になりました、お料理とても美味しかったです。ごちそうさまでした。」

 ご両親にも丁寧に挨拶をした。心にも体にも安らぎを与えてくれて、感謝してもしきれない。

 ナタリー家族がこれからも幸せでありますように!

 私は心の中で祈った。

 そして、私たちはまた歩き出した。


 少し歩くと、目の前に広大な海が現れた。皆、初めて見る海に言葉を失った。

「なんて広いの!」

 私は吸い寄せられるように波に向かって行き、靴を脱いで、足を水につけてみる。

「冷たくて気持ちいい、皆も入ってみなよ。」

 トリーは恐る恐るつま先をチョンッとつけた。そして次の波では、くるぶしまで浸かる。

「冷たい!!!」

 ソーハーも、波が押し寄せたり引いたりするのをずっと眺めながら、

「面白いな・・・よーし」

ズボンの裾をまくり、波に向かって走る。

「キャハハ、ソーハー、びしょびしょだよ。」

「僕も入る!」

 サウンも裾を濡らしながら。何度もジャンプをした。

「実は私も初めて海を見ました。長生きしても良いことないと思っていましたが、こんなに美しいとは。見られて良かった。」

 サウンのお父さんは、子供たちを眺めながら、ペカルに語り掛けるように、独り言のように言った。

「本当に美しいですね。」

 とペカルも、うっとりと見とれていた。

 私たちは、ただただ楽しくて、お互い笑い合った。

「おーい、そろそろ行きますよ!」

「はーい!!」

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