第6話 生け贄と結婚相手
姫の部屋の扉を開けると、なぜか姫は部屋の隅っこで泣いていた。
「どうしたんですか?」
私は慌てて駆け寄る。
「あ、あなた達は誰ですか?」
涙声で聞く。
「私たちは、あなたの結婚相手の候補者ですよ。あなたが誰か良いか選ぶみたいですね。」
「私はどうせ明日、生け贄になり死ぬのです。なので結婚はしません。もし誰かを好きになってから死ぬなんて、あまりに残酷です。だから誰も選びません。」
「死ぬなんて、そんなことを言わないでください。」
トリーは、悲しい顔をする。
「私は死ぬために、ここに2か月もいるのです。定めなんです。」
投げやりな言い方をする。その場の雰囲気が暗くなる。
「あの、姫様。」
ソーハーは、低く小さい声で尋ねる。
「あの、ここに年を取った男性がいると聞いたんですが、その方は今どこにいますか?」
「ああ、あの方ね。10日前ぐらいにいらしたの、今は隣の部屋にいるわ。」
「ここに連れて来てもらえませんか?」
「なぜ?」
「それは、同じ結婚相手の候補者です。どんな人か知りたいのです。」
「わかったわ、連れてくるわ。メドロさん、この方たちにジュースをお持ちしてください。」
「分かったわ。ちょっと待ってなさい。見張りを表につけるわ。逃げられないわ。」
メドロが部屋から出ていった。姫も隣の部屋へと消えた。
私たちはドキドキした。もし違ったら、骨折り損だ。サウンはあいつの寵愛の犠牲になる。しかも、また別の場所を探さないとならない。
しばらくして現れたのは、ずっと探し続けていた、実によく知った顔、サウンの父親だった。
「君たち、何でここにいるんだ?」
サウンの父親は、突然のことに驚きを隠せない。
「ずっりと探していたんですよ!」
トリーとソーハーは感激して涙を流す。私も、
「お久しぶりです!良かったです!」
と言って、嬉し泣きした。
「ああ、君は確かサキミカさんだね。サウンが一度話してくれてたことがあって。だからよく覚えてるよ。サウンと友達になってくれてありがとう。私はいつもサウンに冷たくしてしまっているからね。」
サウンの父親は、遠い目をする。
「サウンさん、私はルビー村の警察官のペカルと申します。お元気そうで本当に良かったです。」
ペカルは、直立不動のまま涙を流していた。これはどういう感情なんだろ?。
「まあ、皆さんお知り合いだったのですね。良かったわ、会うことができて。」
姫は喜んで微笑む。
「サウンはいないのか?」
サウンの父親が、皆の顔を見まわす。
「それが、タラントに気に入られてしまって、別の部屋にいます。」
トリーが申し訳なさそうにする。
「ああ、あの子は綺麗だから、タラントは気に入るだろうな。」
「あの人って、やっぱり男の人が好きですよね?」
私は、信じられない気持ちで聞く。
「そうだな。サウンは取ってくわれるかもしれんな、ハハハ。」
「なんでそんな呑気なことを言ってるんですか?」
私の不安そうな顔を見てから、
「大丈夫、サウンは男です。見かけによらず力もある。やられる前に倒すでしょう。ハッハッハッ。」
「そうですよね、今のサウンなら倒せる。サウンはこの旅の間に精神的に強くなったと思います。もともと真面目で正義感が強いし、何より好きな子が一緒にいるんです。愛の力は偉大です。」
ソーハーは、サウンについて、なぜか自慢げに話す。トリーはさっきのウインクをした余裕そうなサウンを思い出す。。
「好きな子というのは、サキミカさんのことかな?私は控えめで優しいサウンしか知らないから、逞しくなったサウンを見たいですよ。」
サウンの父親は微笑む。
私は、姫が生け贄で死んでしまうことが、どうしても納得できない。
「姫、もし生け贄がいなくなったら、その時は何が起きるのですか?」
「この地に災いが起きるわ。」
「それは迷信かもしれないですよ。」
「迷信なんかじゃないわ。」
姫は聞く耳を持たない。だが、私は良いことを思いついた。
「姫、結婚相手を誰か選ばなければならないんですよね?それなら私を選んでください。」
「え?」
姫は怪訝な顔をする。私は姫の耳元に顔を近づけて囁いた。
「実は、私は女なんです。ここに潜入するために子供の男の子のフリをしています。」
姫はびっくりして、私の目をじっと見てくる。
「一緒に逃げませんか?」
小声で言う
「なんですって?そんなことできないわ。」
姫は、強い意志を持った目をする。
どんなに考えても、この案しか浮かばないのだ。
「じゃあ、とりあえず私と結婚したことにしませんか?私たちは愛し合うフリをするんです。そうすれば邪魔する人はいない。その隙に逃げるんです。」
「何を言ってるの?ダメよ、そんなことできないわ。」
「あなたは本当にそれで良いんですか?ほんとは死にたくないでしょう?」
思わず大きい声になってしまった。
「サキミカ、静かにしろ、見張りに聞こえるだろ。」
ソ ーハーが怒る。そして、姫は泣き出してしまう。
「でも、でも逃げきれないわ。どうせ捕まってしまいます。」
「それは、私たちが何とかするから。信じて。」
姫は私の目をしばらく見てから、弱弱しくうなづく。
「入るわよ。」
メドロが、ジュースを持って現れる。
「メドロさん、私、この方にするわ。」
姫は、迷いながらも伝えた。
「その子はまだ子供ですよ。」
「可愛いからこの子にするわ。私、年下が好みなの。」
嘘か本当かはわからない。
「なるほど、だからカインさんを嫌がったのね。」
カインは、サウンの父親の名前だ。
サウンはと言うとタラントの部屋でただ座っているだけだった。タラントは明日の儀式の準備に余念がない。この儀式はとても重要らしく、場所の見取り図を広げて何やら考え込んでいる。とても真剣だ。サウンは飽きてきて、部屋をみて回る。
「サウン、暇だよね、もうちょっと待って。」
タラントが気が付いて言う。
「儀式は毎年行うのですか?」
「毎年だ。」
「そのたびに誰かが死ぬんですか?」
「それは、しょうがないのだ。この地の平穏のためだ。」
「この地の平穏ののためって・・・」
サウンは、他に何か別のやり方は無いのだろうか?と思った。
「さあ、明日の準備は済んだよ。サウンを良いところに連れて行ってあげる。」
サウンはまたタラントに連れられて、洞窟の上の少し突き出ている場所に来た。
ちょうど太陽が沈んでいる。
「どうだ、夕日がとてもキレイだろ?」
「ええ、キレイです。」
「そうか、気に入ってくれたか。」
「はい。」
森の中に、不自然に白い建物が見えて、すごい違和感を感じた。その先の遠いところに海が見えた。
「私は、海へ行ったことがありません、いつか見てみたいです。」
サウンの美しい横顔は、この高台の夕日の景色に溶け込んで、一つの作品のように思えた。
「私が連れて行ってあげるぞ。」
サウンは、突然、タラントに頬を触られそうになり、反射的に避けた。
「なぜ避ける。」
すごくビビッてしまった。こんな調子じゃ、何も出来ない、倒すことなんてできないんじゃないか・・・
「タラント様!!姫が結婚相手を決めました!」
サウンは、邪魔が入ってホッとした。
「何?そうか、それで、誰になった?」
「それが、あの子供です。姫は年下がお好みのようです。」
「何?今行く。サウンは私の部屋で待っててくれ。」
と言って、急いで行ってしまった。
「サキミカ?何を考えてる?また変なことを企んでるのか?」
そして、フッと笑ってしまった。
「僕に勇気をありがとう。」
部屋に戻る途中に、さっきは気付かなかったドアを発見した。木に覆われているが、隙間からそれが見えた。サウンは木をかき分けて中に潜り込む。するとやはりそれはドアだった。ドアノブに手をかけ、ゆっくり回す。手前に引くと、
「ギーーッ」
と大きい音をたててドアが開いた。しかし。その先も「外」だった、下へと続く階段があった。しかしそれは何とも不安定な階段だった。これは下の森まで行ける道なのかは確かめらなかった。
「生け贄とはどんな方法何だろうか?」」
サウンは、タラントの部屋に戻って、ベッドに横になった。そして、いつの間にか眠っしまった。疲れて寝不足の体にこのベッドはあまりにも寝心地が良い。
目覚めると、サキミカがベットの横で自分を見ている。
「どうしてここにいるの?」
右手をあげて、優しく頬を触って、
「会いたかったよ。」
と言って抱き寄せた。
「君は、我が儘で、喜怒哀楽が激しい、俺にとって太陽みたいな人だ。」
頭をなでた。そして、また眠ってしまった。
部屋が明るくなって、サウンは目を覚ました。隣にはタラントが寝ていた。
「あー」
ため息をつく。
「今のうちに、部屋を出よう」
部屋の前に見張りはいないようだ。こっそり出て、姫の部屋まで向かう。ドアの前で深呼吸をして、静かに入る。姫とサキミカが寝ていた。
そして、サキミカの傍らに座り、。頭を撫でた。
「さっきは部屋まで来てくれてありがとう。」
と囁いた。
「あなたは誰ですか?」
姫が怯えた目で見る。サウンは、ビックリして固まった。
「あ、ごめんなさい、私はサウンです。タラントの部屋に連れていかれて、寂しくなって思わす会いに来てしまいました。この子が女だって知ってますよね?」
「はい。」
「何を言われました?」
「一緒に逃げようって。」
「やっぱり。」
フッと笑った。
姫は、サウンをじっくり見た
「私、あなたと結婚したかったわ。」
「え?」
「あなたのことが好きになりそう。」
姫は、サウンに一目ぼれをしたのだ。
「私はサウンさんと結婚します!」
姫が、ぐいぐい迫ってくる。サウンは、あまりのことに驚いて、のけぞった。
「あっ!」
サウンは押し倒された。
「うーん、どうしたの~ひめ~」
私はが寝ぼけ眼で起き上がる。
「あれ、サウン、何でここで寝てるの?」
私の質問には答えず、姫を見て言う。
「駄目です、僕は、彼女の恋人なんです。結婚できません!」
サウンは、そう言って、私を抱きよせた。
「え、ちょっと何するの?結婚?どうしたの?」
「サキミカさんが恋人だなんて!」
姫は、その場に座り込み、ひどく落胆している。
サウンは、恐怖で青ざめている。姫は、タラントの言うとおり、面食いでかなり積極的だった。。
「ごめん、僕が来たことは夢だから忘れて!」
サウンは、そう言って部屋を飛びだした。仕方がないので、タラントの部屋に戻ると、
「タラント様、タラント様、起きてください!儀式の準備をしなければなりませんよ!!」
メドロが、タラントの体を揺すっていた。
「どうしたんですか?」
「あなたどこに行ってたの?」。
「えっと、トイレです。」
「タラント様が気を失っているの。全然起きないのよ!あなたタラント様に何をしたの?」
「何もしてませんよ。僕は寝てしまって、何もしてませんから!もう。あっちもこっちも何なんだよ!!!」
サウンは、パニック状態になる。
私と姫は、部屋で朝ご飯を食べる。トリー、ソーハー、ペカルも隣の部屋で朝ご飯を食べている。儀式は、1刻後に始まる。
「サキミカさん。あなたがサウンさんの恋人だなんて、とても残念だわ。」
「まだ、恋人じゃないですよ。」
「まだ?」
「なれたら良いなって感じ。」
「でもサウンさんは、あなたの恋人だって言ってたわ。」
確かに言っていたけど、姫から結婚の催促をされ、適当に言ったはず。
「そんなこと言ってなかったわよ。」
「そうでしたっけ?ほんと?それじゃあ、私にもチャンスがあるのね。」
「そうよ、だからまずは、ここから逃げないと!死んでしまったら、もう永遠にサウンに会えなくなるわよ。
「そんなの嫌!」
すると、メドロが入ってきて、
「儀式の時間が遅れるわ。」
「どれくらい遅れるのですか?」
「分からないわ。」
サウンは、じっとしていられなく。部屋中を歩きまわる。部屋の外には見張りが大勢いる。タラントが目を覚ますまでに、生け贄の儀式を止めさせる方法と、逃げ道を見つけたかった。タラントの椅子に座ってみた。
「あれ?」
靴が何かに引っ掛かる。タラント机の下を見ると、四角い切れ目がありるのを発見した。
「なんだ?」
椅子をどかしみると、取っ手があったので、引っ張り上げた。開けると、人が一人寝た状態で通れるほどの通路ががあった。行くには這って行かなければならない。中は暗く、どこに行けるのかが確認できない、
しかし、どうしても行きたくなった。何かしないとこの状況は変わらない。サウンは中に潜り込み、うつ伏せになり這って行く。暗く、どこまで行けば終わりなのか見当もつかない。やたら静かだ。すると腕が、ガクッと下に落ちた。
「え?あっ!」
突如、急な下り坂に上半身を持っていかれる。
「あーーーーーー!!!!」」
角度がキツイ滑り台のように、ものすごい勢いで滑り落ちた。そして、
ドボー――ン!!!
水の中に落ちた。
何が起きたか分からなったが、とにかく手足をかき分けて、何とか頭を水面に出した。足をかきながら、周りを見回す。白いコンクリートに囲まれていて、窓も掴まる所も無い。少し茶色くにごった水の中を見る。
「ひゃあ!!」
水の底には、たくさんの骸骨が沈んでいた。
「あーあーああー!!!」
誰もいないこの空間で叫ぶ。驚いた衝撃で体が沈みそうになったが、手足を動かしもがく。そして壁に近づいて壁を触るが、ツルツル滑って掴まることが出来ない。
「くそっ!!!こんなところで死んでたまるかーー!!!」
叫んだところで何も変わらない。何も手だてがないまま、もがき続けてるうちに腕に力が入らなくなってきた。だんだん意識が朦朧としてきた。そんな中でサキミカの顔が浮かんだ。
・・・サキミカにもう一度会いたい・・・
「サウン!」
幻想のサキミカが笑いかける。
・・・会いたい、また笑顔が見たい、見たい、見たい・・・
するとサウンの首にある緑色の宝石が、眩しい光線を放ったかと思うと、粉々にバラバラになり、また一つの固まりになった。それは、1メートル四方の板で、水面に浮かんだ。サウンは消えかけた意識の中で、その板を掴んだ。そして、板の上に這い上がった。サウンは、その板の上で、ぐだっと寝転んだ。
飲み込んだ水を吐き出し、荒い息をして、しばらく横になっていた。だいぶ落ち着いてきた。もし寝不足だったら、このまま寝てしまっただろう。昨日熟睡しておいて良かった・・・
なんてことを、ぼんやり考えた。そして、仰向けになると、少し上の所に小さな穴が開いているのが見えた。。体を起こして、力を振り絞って立ち上がる。中を覗くと、先ほどと同じぐらいの小さな通路があった。
「ううっ、ううっ・」
うめき声を出しながらそこに這い上がった。そして、またその中を這って進む。
・・・早く外に出たい・・・
その一心だ。何度もくじけそうになりながら進んだ。すると、眩しい光が見えてきた。そこからやっとの思いで出ると、そこは森の中だった。しばらくうつ伏せのまま動けなかった。そして、仰向けになる。
「眩しい・・・」
両腕をおでこに乗せて考える。
・・・助かったけど。あの洞窟に戻ることは無理そうだ。それにしてもあの緑色の板は何だったんだろう。あれのおか僕は今生きてる・・・。
緑の宝石は、今まで 通り、ネックレスとしてサウンの首に巻き付いていた。この宝石は、サウンが必死に這っている時に、また元の宝石に戻ったのだ。
「そうだ!早く戻らないと、生け贄の儀式のが始まってしまう!
サキミカのことが気になりつつ、とりあえず、紫のキサラを脱ぎ、たっぷり含んだ水を絞った。そして、腰に巻き付けて、辺りを見まわす。
「これは、木の上に登らないと、ここがどこかわからないな。」
登りやすそうな木を見つけて登ろうとしたが、さっきのことで腕にも足にも力が入らない。体力が想像以上に消耗していたのだ。空を見ても。本当にここがどこか分からない。
すると小さな鳥が一斉に飛び立った。向こうから人が歩いてくる。黒いマントを羽織った人だ。サウンは、急いで木に隠れる。通り過ぎて行く、その人を目で追いかける。気づかれないようにその人の後を付いて行く。しばらく行くと、白い二階建ての建物が見えた。そして、その黒いマントの人はその建物に吸いこまれていった。
サウンは、上を見上げてから
「ここは、あの洞窟から見えた建物だ!」
場所が少し分かって、安心感が生まれた。建物の外側を一周すると、壁に梯子がかけられているのを見つけた。見つからないように静かに登る。上から見る景色は、
「やっぱり。ここか。」
洞窟の見晴らし台が見える。振り向くと海が見えた。
「でも、洞窟へ行ったところで、どうやって入るか分からないな。」
そこに腰を下ろして、しばらく考えこむ。
その頃、洞窟では。
やっと目を覚ましたタラントがサウンがいないことに気づいた。タラントは血眼で探す。
「おい!サウンを見なかったか?」
私たちの部屋にノック無しで入ってくる。その時は姫が白いキサラに着替えていた。
「ここにはいないですわ。」
姫は落ち着いて答えるが、
「ちょっと、何いきなりドアを開けるのよ!」
私は、激怒する。姫は、
「いなくなったのですか?」
と聞くが、それには何も答えず、出て行った。そして、隣の部屋のドアを開く音が聞こえたかと思ったら、すぐに閉まり、部屋が騒がしくなる。
私は外に出て、隣の部屋に入った。
「サキミカ、サウンがいなくなったんだって?」
「お前、知らないのか?」
トリーとソーハーは、立て続けに質問を浴びせる。
「朝、私の部屋に来たけど、すぐに出て行って、その後は見ていないわ。」
「私も見てないですよ。タラントが知らないってことは、逃げたのでしょうか?」
ペカルが言う。
「サウンは1人で逃げたりしないわ、」
私は、確信して言う。
「そうだよ。」
皆うなづく。
「キャーーーーーーー!!!!」
姫の叫び声が聞こえた。
「やばい!」
急いで戻ると、メドロが姫を縄で縛っていた。
「さあ、立ちなさい。儀式を始めるわ。」
「待って、サウンはどこに行ったの?」
「フンッ、知らないわ。タラント様が必死になって探している。見張りの者たちも全員が探しに出てしまって、いい加減にしてほしいわ。とにかく、時間が無いの、私一人でもやるのよ。」
「やめて!」
メドロの腕を掴む。
「やめてよ!この子が死んで何が変わるっていうの?何も変わらないわ!だた悲しむ人が増えるだけよ!この子の命を粗末にしたら、私が許さない!」
「腕を離しなさい!」
「この地に災いが起きるなら、もう、ここじゃない違う場所に住みなさいよ!」
私が泣き叫んでいると、巨人が現れて、私をつまんで、部屋の隅に放り投げた。
「うううっ・・・痛い!!!」
左肩を壁に激しく打ち付けた。肩が、肩がすごく痛い!ますます涙が出る。
その巨人は姫を肩にかついで、メドロと一緒に行ってしまう。
「サキミカ!!大丈夫か?」
トリーとソーハーとペカルが駆け寄ってきた。。
「姫が、姫が、巨人とメドロに連れていかれた!追いかけて、早く!私は、今ちょっと痛くて動けないの!!」
すると、サウンの父親が、
「私がサキミカさんを見てるから、君たち姫を探してください。」
「分かりました!!」
3人は声を揃えて返事をする。
ソーハーは台所に行き、外に通じる箇所が無いか探すが、何も見当たらない。
「くそっ」
トリーはトイレの窓によじ登って外を見ると、下は断崖絶壁だった。
「ヒーーーーーーー!!!!」
ペカルは、壁という壁を見ながら走り回る。すると。一瞬空気の流れが変わったことに気づく。そこに向かうと、今まさに扉が閉まろうとしていた。
「やーーっ!」
扉に体を押しつけて、こじ開けようとする。
「ううっ。重いーーー!!」
扉はとても重く、閉まらないようにするのが精いっぱいだった。そこへ、トリーとソーハーが来た。
「手伝ってくれ、この扉を開けるんだ!」
「了解!
「じゅあ、いっせーのーせっ!」
グググッ・・・何とか扉を開いた。
「え?」
目の前には、つり橋がかかっていた。終わりが見えないほどの長さだ。」
「ウアアーーー!!!」
トリーは恐怖で叫んだ。ものすごく揺れている。その下は、ものすごい深く、はるか下に川が流れている。
「さっきトイレから見た断崖絶壁だ!」
「まだ、揺れているから、まだ渡りきってないんじゃないか??」
ソーハーが息を切らしながら言う
「とにかくこの扉が閉まらないようにしないと!サキミカさんたちが来るから。」
ペカルは少し考えて、ポケットから縄を出してドアノブにくくりつけ、少し隙間を開けて調節して、縄の反対側を近くにある木に縛りつけた。
「よし、渡りますよ!」
ペカルが気合いを入れる。
「まだ揺れてるよ!」
「でも、早く行かないと姫が死ぬぞ!」
ソーハーは、焦って言う。
ペカルがまず軽快に渡っていく。次はトリーだが、へっぴり腰で手するにしがみつきながら、
「うわー」「あーー!」
と大声をあげながら進む。
「おい、早く行けよ。」
とソーハーが文句を言うが、かなり揺れるのでビビりながら歩く。
サウンの父親が、布を冷たい水で濡らして私の左肩にあてて冷やしてくれた。
「だいぶ良くなりました。私たちも探しにい行きましょう。」
「無理しないで良いからね。」
サウンと同じ優しい眼差しだ。
「でも・・少し痛みが引いてきたので、大丈夫です。」
そして、2人で部屋を出て歩くと、隙間が空いてる扉があった。サウンの父親が、思い切り体で押して開けると、外に出れた。
「うわーー。」
びっくりしていると、つり橋の向こうから、トリーの叫び声が聞こえてきた。よく見ると、ソーハーの姿が見えた。2人は何か言い合いながら歩いているようだ。すごく揺れているが、
「よし、行きます!勢いで走りきる!」
と言って渡り始めるが、うまく走れない。左右に飛びながら走る格好だ。程なくして追いつく。
「こら!早く行きなさいよ!!」
「サキミカーー!大丈夫なのか?」
「痛いけどそれどころじゃないでしょ!」
私は軽々と二人を抜かした。軽快に飛びながら進む。
「おい、待てーーー!!」
トリーが泣き叫ぶ。
「俺も先に行く!」
ソーハーも、左右の足で飛びながら走った。
橋を渡りきると、ペカルさんが待っていてくれた。
「もう肩は大丈夫ですか?」
「はい、冷やしたので大丈夫です。」
そして、辺りを見回し、姫とメドロと巨人がどこにいるか、恐る恐る歩きながら探す。すると、話し声が聞こえてきた。私とペカルとソーハーの3人は、しゃがみながら近づく。
「この地に安寧をもたらしたまえ~」
何か呪文のような言葉をメドロは唱えている。姫が小さな穴の前に立っている。そこから少し後ろに離れたところにメドロと巨人がいる。
「3人で一気に押し倒しましょう。」
「私はメドロで、2人はあの巨人をお願いします。」
「了解。」
そして後ろから静かに近づき、
「やあ!!」
私たちは、2人を倒して地面に押さえつけた。
そして、ペカルがメドロの手を後ろに回し、縄で縛る。
「ああーーーー!!」
ソーハーが一人で押さえつけていた巨人が立ちあがる。急いで、3人で倒した。そのはずみで姫の体を押してしまい、穴に落ちそうになる。私は咄嗟に、姫に巻きついている縄を掴んだ。でも、重くて自分自身の体も持っていかれる。
「やだ、助けてーーーー!!」
すると、手が4本伸びて来て、そのうちの2本が私の体を支え、残りの2本は、姫の縄を引っぱり上げる。
「一気に引き上げるよ!」
「いっせーのーせっ!」
「うううーーーーーーはぁ!」
やっとの思いで、姫を引っ張り上げた。
「あーー。」
トリーとサウンのお父さんと私は、倒れて仰向けになった。
ペカルとソーハーは、巨人の腕を縄で縛った。
「サキミカさんありがとう!!!」
姫が泣きながら私に抱きついてきた。
「ごめんね、来るのが遅くなって。でも、良かった間に合って。」
私は微笑んだ。
トリーとソーハーも笑顔だ。
「ちょっと、こんなことして、どうなるか分かってるの?」
メドロが脅してくる。
「じゃあ、あなたが生け贄になれば?そしたらこの地は平和になるんでしょ。みんなすごい嬉しいんじゃない?今から。この穴に突き落としてやるわ!!」
メドロに向かってすごい剣幕で脅し返した。
「なに、この子!!悪魔だわ!!」
「そうよ、私は悪魔よ!人の命を何だと思ってるの?いい加減にしなさい!!」
「わああーん、ごめんなさい」
メドロが震えながら泣いて謝った。。
「サキミカさん、カッコいい・・・」
姫の目にキラキラした星が見える。だが、そこにいた男4人は、恐怖に怯えた。
「こんな場面見ても、サウンはサキミカのこと好きっていうかな?」
トリーは心底驚いていた。
「急いで戻ってサウンを探さなくちゃ。ねえ、メドロさん。森に出る出口を教えて下さい。」
私は、一刻も早くこの洞窟を出たかった。
「タラント様の部屋の大きい窓から出ると、海を見渡せるところがあるの。そこの近くに木に覆われたドアがあって、そこから森へ行けるわ。でも、その階段を下りるのは結構キツイわよ。まあ、あなたなら大丈夫ね。悪魔ですもの。」
メドロは最後に嫌味を言った。
「ねえ、あなたはこれからもタラントにお仕えするの?」
メドロは悪い人じゃないように思えた。
「どうしようかしら。」
迷っていると、
「もし良かったら、私たちと一緒に森へ行きませんか?」
「何言ってるんだ、この人は姫を殺そうとしたんだぞ。」
ソーハーが、私のことを𠮟りつけた。
「そうよ、あなたのその言葉だけ大事に頂いておくわ。私はここを出て、海の向こうにでも行くわ。」
遠くに見える海を見つめた。。
「そう。それじゃあ、さよなら!」
私たちは、またつり橋を戻っていく。最後にペカルがメドロの縄を解いた。そして、
「これからの人生に幸せがありますように。」
とキメ顔で言って笑った。
「あ、り、がとう・・・」
メドロは、その言葉と笑顔にうっとりした。
「それじゃあ!」
ペカルが急いでつり橋を渡る。
その後、メドロがどこに消えたかは分からなかった。
つり橋の袂まで来た。
「私がタラントがいるか確認してきます。」
ペカルがそう言って、洞窟の中に入って行った。
それから時が経った。
「襲われたんじゅやないよね?」
トリーが心配する。
「心配だ、もう行こう。」
私たちは、用心深く足音を立てないようにタラントの部屋の前まできて、ドアを静かに開ける。中では、タラントが泣いていて、その横でペカルが苦々しい顔で泣いていた。
「わー!サウンが死んじゃったわ!!!」
「なんだって?」
サウンの父親が一目散に部屋に入る
「お前!サウンに何をした!!!」
「何もしてない。でも、この扉が開いていて、ここから落ちたのかも。ここへ落ちたら二度と這い上がれないんだ!!!くまなく探したが、いなくて・・・もうここしかないんだ。あーーーー!」
私はまたブチ切れた
「ちょっと。あんた、何でそんなものを作ったのよ!」
「私に逆らう者を、ここから突き落とすためだ。だから、私の机の下にある。」
「じゃあ、あなたが行って探して来なさいよ、あなたの責任でしょ?」
この勝手な男に、心の底から腹が立った。自分の都合で人を殺めるなんて絶対に許さない!!
タラントは、驚いて口をあんぐり開ける。
「サキミカ、お前、その発言、悪魔だよ。」
トリーが、悲しみながら、私に恐れをなしている。
「悪魔は、あいつでしょ?」
「サウンが死んじゃったわーーわーーーん!!」
姫は泣き崩れた、しかし、私は不思議とサウンは生きていると感じた。きっとどこかで生きてる。だって、あの緑の宝石があるから。私への愛の気持ちでできた宝石よ。だから私に会わずに死ぬわけがない。
「サウンに悪いと思うなら、この扉をすぐに埋めて。亡くなった人のために毎日祈って下さい。」
サウンの父親が冷静さを取り戻して、静かな口調で諭す。
「ここにいても仕方がないわ。私は森へ行きます。」
私がそう言うと、皆は、コクリとうなづいた。
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