第8話 残留

 別に私は不良では無いが、最近になって、立入禁止の廃墟に勝手に住み着いている。

理由は、何もかもが嫌になったから

硝子の割れた窓から空気が入り、埃が舞う。

埃の香りは嫌いではない。

安らぐわけでもないが、不快でもない。

腐敗臭が延々と香るよりかは大分マシだ。


 階段を上り、2階。

歩いてきた森の木々達が、目線と同じ高さで騒いでいる。

五月蝿い。

ここは静かな事が多いが、今日はどうやらそうでもないらしい。

招かれざる客でも来たのか、はたまた唯の風の所為か。

そんなことはどうでもいいが。

春なら奇麗なのに、と不意に零した。


 部屋の隅に置いてある椅子に腰掛ける。

何時の物かも判らない新聞を手に取り、読んでいる風に見せる。

文字なんて擦れて読めない。

漫画雑誌も置いてあるが、私は読まない。

興味ない。

何より、表紙に書かれているノートを持った青年の近くに居る死神のような化物が、私を嘲けているようで不快でならない。

 私はそっち側のものではない。


 もう一階上がっても、2階と造りは変わらないが、瓦礫の量は多くなっている。

というのも、此処は元々小さなアパートだったが、何十年も前に借金の所為で大家が自殺し、閉鎖されたそうだ。

周りの木々たちは、その頃から育ったものだ。

あの木々たちは桜。

あの内のどれかの桜の下には死体が埋まっているらしい。

そんな噂話を2ヶ月前辺りに学校で小耳に挟んだ。

一際目立っている桜がソレらしいが、今は夏場。

見分けがつかない。


 もう一階上がると、そこは屋上になっている。

鉄柵は錆びていて、身体を預けたら落ちてしまうかもしれない程に脆そうだ。

そう言えば、此処で最近自殺者が出た事を思い出した。

私の学校の生徒らしく、いじめと虐待に遭っていたそうだ。

そういう私もいじめられていたし、虐待もされていた。

クラス内で全員から無視されたり、物を隠されたりするようなものではない。


暴力だ。

日常的に繰り返される暴力。

学校側は、それを蔑ろにする。

家に帰っても救いは無い。

母は、数年前に出て行った。

今は「母は居ないのをお前の所為だ」といい、私を殴る父しか居ない。

苦痛に続く苦痛が、耐えられなくなっていた。

だから此処に来た。

此処には苦痛なんて無い。


 ただ、死んで逃げたくは無かった。

別にやりたいことは無いけど、何か負けた気がして嫌だった。

此処に住んで、学校にも通わずにいれば、肝試しする人たち以外は来ない。

つまり、ほとんど脅威は無い。

警察なんて知らない。

信用できる人は何処にも居ない事を、私は知っている。

きっと捜査もされてないんだろうと勝手に思う。


仮にされてても、ここには来ないだろう。

でなきゃ、私は見つかってしまう。

あの日々に返されてしまう。

だからどうか、此処には来ないでくれと願うばかりだ。


 そういえば最近、奇妙なものを見つけた。

それは、うちの学校のセーラー服を来た、白骨化した死体だ。

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追憶の花束、十の夢 花園 寝音 @hitoneko

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