《番外》虹色の蝶を作りたい

※時系列的には、3章後(2巻のあと)のイメージで書いています。

**




 ニコルの使っていた、虹色の蝶を使役して周囲の様子を探る魔法。すごく綺麗だったから、やり方を教えてよって言ったのに、ニコルは教えてくれなかった。


「土人形を操れるならいいでしょう。属性が風だというだけで、似たようなものですよ」


 と、そっけなく言われただけ。ナターシアに帰ってきてから魔導書を探してみたけれど、虹色の蝶を作る魔法を解説した本は見つけられなかった。


 魔法に詳しそうなジュリアスに聞いてみても、


「聞いたことはないですね」


 と、あっさり言われて終わり。考えてすらもらえなかった。


「うう、こうなったら自力であみ出すしか……!」


 諦めきれずに一人で森に出る。たいていの魔法を感覚で使えるディアドラの体なら、ワンチャンやれるかもしれないと思ったから。


 ヒントは土人形と似たようなものだってことと、属性が風だってこと。


 土人形を作る魔法の理屈は、前にカルラに聞いた。魔法で土をこねるわけではなく、魔力で作った形のまわりに土をつけて固めてるんだって。


 だったら虹色の蝶も、魔力で作った形のまわりに風をくっつければいいはずだよね?――いや、風をくっつけるってどういうことよ?


「風……風ー? 空気はくっつかないでしょ。どういうこと?」


 腕を組んで天を仰いだところで、どんよりした曇り空にも、紫色の木の葉にも、答えなんて書かれていない。カルラは他になにか言ってなかったっけ。アルカディア王国の首都に行く間に教わったのは、土人形を作る魔法の理屈と、洗濯くらいだけど――


「あっ、水は魔力で包むって言ってた!」


 そうだそうだ、魔力に土をくっつけるのが土魔法、魔力で水を包むのが水魔法だって聞いた。風は土より水のほうが近いかも。


「よし! さっそく蝶――は、難しいから、丸にしよう。シャボン玉みたいなやつ!」


 両手を虚空にかざして魔力を流すと、両手で抱えきれないほど大きな玉が空中に生まれた。ふわふわ浮かぶそれは、本当にシャボン玉みたいだ。試しにつついてみたら、ぷるんと震えてからもとの球体に戻る。


 シャボン玉をイメージしただけで一発で発動できるなんて、さすがディアドラ。私が作りたかったのはこぶしくらいのサイズだったので、ちょっと大きすぎるけど……。


 あとはこれを蝶になるように整形して、周囲の様子を見るための目をつければいいのかな。小さな蝶にするのは難しそうだけど、人形に目を作って視覚を共有するのは土魔法で慣れている。


 なんてことをうっかり考えたせいで、紫色の森の景色が三百六十度ぶん一気に頭に飛び込んできた。シャボン玉と視覚を共有してしまったのだ。目として作ったわけじゃなかったのに。


 曇り空も、黒っぽい土も、紫色の木の葉も、顔をしかめた自分の姿さえも、全方位の映像が見える。とっさに目を閉じても、魔法が強制的に映像を脳に押し込んできた。


「うぇぇ……」


 視覚に酔って、その場で吐いた。


 風の玉を慌てて消しても酔いはしばらくおさまらず、胃の中身を全部吐ききっても立ち上がれず、地面に転がる羽目になった。


 ……この魔法はもうやめよう。






***


「私の推しは魔王パパ②」、発売中です!

二巻の表紙が虹色の蝶を操るニコルだったので、それをネタに書いてみました。途中に出てくる「カルラの魔法レッスン」の話は、書籍版だけの書き下ろしです。

2巻は、Web版の三章から大幅に加筆しました。書き下ろしのSS含めると倍近い分量なっています。

2巻も楽しんでいただけたら嬉しいです!

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