第107話 幕間 〜 佐々木優愛
夏休みに入り、蒸し暑い日が続いている。
私はアイスキャンデーを口にくわえ、リズミカルに自宅の階段を上っていた。
「今年も暑くなるのかな。」
私が小さい頃はもっと涼しかった気もする。これも地球温暖化の影響ってやつ?
「やばい、垂れる。」
溶けて棒を伝ったアイスを間一髪両手で受け止め、何とか階段が汚れるのを防いだ私は「さすが女バスの次期エース」と得意気に呟いた。
しかし油断はすべきではなかった。
くわえていた力が緩んだのか、それとも緩んだのは私の気持ちか、あろうことかくわえていたアイスキャンデーはまるでスローモーションのようにゆっくりと口からこぼれ落ち、階段へと落下していったのだ。
すでに私の両手は溶けたアイスでベタベタ。アイスキャンデーは成すすべもなく床と熱いキスをしたのだった。
「あー!やっちゃった。」
両手も階段も、ついでに慌てて握った手すりもアイスでベタベタにしてしまった私は、不本意ながら洗面台から雑巾を持ってきて掃除をする羽目になってしまった。
「あら、珍しい。掃除してくれてるのね。」
階段の下から声をかけてきたのはお母さん。「珍しい」は余計だっつーの!
「掃除終わったら、アイスでも食べようっと。」
私は雑巾を洗面台に放り投げると、お母さんの横を通り抜けてキッチンへと入った。
「あなた、さっき冷蔵庫から出して食べてたでしょ。」
しれっと2本目のアイスを頂こうと思ったが、目ざといお母さんはしっかり見ていたらしい。
「あんまり食べると太るわよ。」
「私は運動してるから太りません。」
私は心の中で「1本目はほとんど食べられなかったし」と付け加える。
「そういえば、今年も夏祭りは晃君達と行くの?」
「そのつもりだけど?」
小学校以来、晃と勇斗と一緒に夏祭りに行くことが通例となっている。
「そっか、気を付けていってらっしゃい。今年は浴衣着る?」
「えー!動きづらいし好きじゃないんだよね。」
昨年買ったオレンジの浴衣があるのだが、勇斗に「似合わない」だの「歩くのが遅い」だの言われて、あまり良い記憶がないのが正直なところ。
「そっか残念。お母さんは可愛くて良いと思うんだけどな。」
確かにお母さんが好きそうな明るい色の浴衣だったな。大きな椿の柄は私も気に入っている。
「気が向いたら着るよ。」
お母さんにそう伝えると、私は冷蔵庫からアイスキャンデーを1本取り出して口にくわえると階段を駆け上った。
いつの日か君の隣で 要 @kan65390099
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