とある兄弟へ宛てた手紙
坂本兄弟様
この手紙を見ているということは、たぶん僕はこの世には存在してないと思う。君たちの活躍は新聞雑誌などでよくお目にかかります。僕が二十六歳だったある日、おかしな手紙が僕に届きました。
差出人不明の紙一枚の手紙には、信じられないような未来の出来事が記されていたんだ。
それは僕と、妻である武井夏美が火事の現場に居合わせて、幼い兄弟を救い出し、自分たちの命を落とす。そんな内容だった。
イタズラにしては手の込んだものだと、初めは腹立たしかった。しかし、その手紙を受け取ってから不思議な夢を見て、のちに妻となる夏美とも出会った。この手紙はもしかしたら、と僕の頭の中で何かが変わった。
この手紙が本当に未来を予知しているのだとしたら、何もせずに手をこまねいていることは、名も知らぬ幼い兄弟を見殺しにするも同然だ。そう思ったら、身体は勝手に動き出してた。
その後、君たちの知らない間に、僕は家庭を築き、人生を充実させることに成功した。
何を隠そう、それも君たち兄弟がいてくれたおかげだ。息子たちに君たちの名前を勝手に使わせてもらったが許して欲しい。君たちのように立派に育って欲しいと願いを込めて使わせてもらっている。
それと、手紙の最後に書いてあった競馬の結果だが、あれは確かに信じがたい出来事だった。半信半疑でテレビを見ていたが、まさか百万馬券になるとは思わなかった。
ただ、僕はお金よりも大切なものを見つけたから、馬券は買わないでおいた。
さて、こう長々と僕の人生について語っていてもしょうがない。君たちの研究が実りある物として、僕が、あえてアドバイスを送るとしたら、手紙を送る相手を間違えないことだ。
僕よりも、君たち本人に送ることをお勧めするよ。
『すぐ にげろ 家に 火が つくぞ!』とね。
re,try 月野夜 @tsukino_yoru
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