抜ける薬

バブみ道日丿宮組

お題:当たり前の抜け毛 制限時間:15分

抜ける薬

 人の声が聞こえた。

 振り返れば、たくさんの人が空に向かって手を伸ばしてた。

「……?」

 いったい何があるのだろうと空に目を向ければ、虹があるくらいで他に不可思議なことは見つからない。

 もしかして、私に見えないだけで隠れたUFOとかあるのだろうか?

「あの……すみません」

 このままの気持ちのまま、学校に通う気も起こらず、私は側にいた1人に声をかけた。

「……あの?」

 声をかけたのはスーツ姿の男の人。

「……すみません」

 何度も声をかけてみるが、男の人は反応しなかった。気が付かないだけなのかと、その場で跳ねてみる。髪の毛が重力によって上下運動する中でもやっぱり反応はなかった。

「……聞こえてませんか?」

 しょうがないと考え、軽くつついてみることにした。

 つんつんと、くすぐったい脇腹をつついてみると、意外に筋肉質な人なんだとわかった。わかったところでまるで意味のない情報だけど、少なくとも身体の反応は返ってきてる。

 こないのは、言葉だ。

「うるさい!?」

 かと思うと急にまた叫びだす。

 これで聞こえない、見えてないっていうのは冗談じゃない。

 視覚、聴覚、触覚に訴えかけて反応がないのなら、味覚……は試せるものないだろうか。

「ん……」

 これなら痛覚も調べられると、男の人のもみあげに手を伸ばしおもむろに引っ張った。

 毛はなんのためらいもなく抜けた。

「えっ……」

 しかも塊で抜けた。

 もしかしてこれはヅラなのだろうか? 触った感触は人工物のものではない。部屋に落ちてる抜け毛と同じ感じだ。

 疑問はヅラならもっと抜けるだろうと触ってみると、ぱらぱらと髪の毛が落ちた。

 なんだろう……粉かな? 頭に振りかける増毛剤があるのは知ってるけれど、そういうものじゃきっとない。

 さてどうしようかと考え、女の人に訪ねてみることにした。

「ごめんなさい」

 一応頭がつるぴかになった人に一度謝りをいれる。

 女の人も同様のことを試してみる。違いはないようだ。

「……うーん」

 髪の毛が抜ける奇病だろうか?

 自分の髪をわしゃわしゃしてみると、少しだけ抜け毛がついた。でも、男の人、女の人のような反応はない。むしろこれが正常。

 わからないことは気にせず、もう登校しようと私は足を駅へ向かわせた。


 結果的にいえば、その地区いったいに毒薬がまかれたらしい。それで、私は唯一の免疫保持者だったということだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

抜ける薬 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る